ケンゴマツモトの『リュミエール!』評:最初が全部詰まっていて“ずっと観てられる”映画

古ぼけてはいるけどジャンクなものではない 

 そういう意味では、リュミエール兄弟の作品は、そのポイントがしっかりと備わっているから、心を動かされました。特に一番初めに収録されている『工場の出口』は、インパクトがすごい。構図のダイナミックさに釘付けになりました。あれを観て、うわ……好きだなって思いましたね。とにかく画角が独特でいいんですよ。昔だからだと思うんですけど。めちゃくちゃかっこいい。こんな初期からピントが合っていることにも驚きます。

 フィルム自体が持っている麗しさや素晴らしさって絶対にあると思いますうんですよ。その特性が、あの時代から、ダイレクトかつふんだんに使用されていて、興奮しましたね。画としてすごく完成されてると言うか、古ぼけてはいるけどジャンクなものではない。だから、ずっと観てられるのかなとも思います。

 あとは、『赤ん坊の食事』もすごく強烈で印象に残っていますね。めちゃめちゃ模範的なフランスの朝食風景なのですが、あまりにオーソドックスすぎて、逆に記憶に残ると言いますか。赤ちゃんの食べこぼし具合にも、目がいってしまいました。『軽食をとる小さな子供たち』や『クレモー座(曲芸師)V.ピラミッド』もそうでしたが、彼らは映像の対象として、子どもを選ぶことが多かったみたいですね。演技を学んでいない、一般の子どもたちのはずなのに、カメラの映り方がよくわかっている感じや目を見張るような活躍っぷりが、不思議で仕方ないんですよね。もしかしたら、むちゃくちゃ人を選んでるかもしれないですねよ。『赤ん坊の食事』に出演している彼らも、実際のところは本当の家族かわからない(笑)。

 全108本の作品を観て思うのは、ルノアールをはじめとした絵画から影響されている部分もあるのかなと。たとえば、ビン。あれはたぶん演出として置かれていますよね。『赤ん坊の食事』にもビンが置いてありましたが、画として綺麗だからこそ、絶対に演出なのかなとだと思うんです。意図されていない演出であんな自然に映るなら、それこそすごいなと。道行く人たちのカメラに対する反応も然りですが。ただ、あれがリアルな姿だとしたら、当時でしかあり得ない反応ですよね。カメラというものに気づかないとか、不審な顔をしながら凝視するとか……そういう当時の人々の様子もまたこの作品の面白さですよね。

 でも結局、本作を鑑賞するにあたって、ここは演出なんじゃないか? とかこの構図はこういう理由で素晴らしい! とかいう見方はあまり重要ではない気がします。映画の知識なんてものは、持っていてもいなくてもどちらでもいいと思うんです。だって、面白く観れるっていうこと自体に驚きがあるから。そもそもここに収められている映画は原点で、作り手も観客も“映画”という概念すら知らない状態で、それでも楽しんでいた作品なんです。だから、映画をあまり観てない人を跳ね除ける作品では、決してないんですよ。むしろ、観ていない人の方が純粋に楽しめるのかもしれない。

 これが映画の始まりであることに感動します。まず、“最初”を目にする機会ってなかなかないと思うんですよ。最初の音楽は聴くことができないし、最初の絵も、最初の言語も、最初の本もそうです。映画はまだ若いし、現代の技術があるからこそ、できていますが。最初が全部詰まっているものって、僕の知る限り、『リュミエール!』以外にはないかもしれないですね。

(取材・構成=戸塚安友奈/写真=石井達也)

■公開情報
『リュミエール!』
監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーション:ティエリー・フレモー(カンヌ国際映画祭総代表)
製作:リュミエール研究所
共同プロデューサー:ヴェルトラン・タヴェルニエ
音楽:カミーユ・サン=サーンス
映像:1895年~1905年リュミエール研究所(シネマトグラフ短編映画集1,422本の108本より)
原題:「LUMIERE!」/2016年/フランス/フランス語/90分/モノクロ/ビスタ/5.1chデジタル/字幕翻訳:寺尾次郎/字幕監修:古賀太
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協力:ユニフランス
(c)2017 – Sorties d’usine productions – Institut Lumiere, Lyon
公式サイト:gaga.ne.jp/lumiere!/

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