年末企画:小田慶子の「2017年 年間ベストドラマTOP10」 “傑作”はないが、“秀作”は数多い1年
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2017年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第11回の選者は、雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当するライター/編集者の小田慶子。(編集部)
1.『カルテット』(TBS)
2.『あなたのことはそれほど』(TBS)
3.『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京)
4.『架空OL日記』(日本テレビ/読売テレビ)
5.『山岸ですがなにか』(Hulu)
6.『陸王』(TBS)
7.『監獄のお姫さま』(TBS)
8.『刑事ゆがみ』(フジテレビ)
9.『片想い』(WOWOW)
10 『ひよっこ』(NHK)
2017年は残念ながら2016年の『逃げ恥』(TBS)、『真田丸』(NHK)のように「どちらをベスト1に選ぶか迷っちゃうなぁ」というほどの傑作はなかった。しかし、3位ぐらいに推せる秀作が数多くあり、ドラマライター&ウォッチャーとしては充実した1年だった。
1位に選んだ『カルテット』は、芸術と愛の才能をめぐる物語。真紀(松たか子)・幹生(宮藤官九郎)夫婦の関係に決着が着く第7話までが素晴らしかった。文学的なセリフと演劇的なシチュエーション、ミステリー要素とニュアンスのある演技を堪能。EDの映像に象徴されるように、これは男女4人ユニットの魅力で見せる作品でもあり、その組み合わせが絶妙なバランスだった。
『あなたのことはそれほど』は、昼メロ的な不倫劇という点では目新しさはないものの、その泥沼を波瑠、東出昌大という朝ドラ俳優たちが演じるという意外性に引き込まれた。東出くんの壊れた笑顔が忘れられない。週刊誌による不倫報道が過熱する中で放送されたというタイミングの良さも含め、今年を象徴する作品になった。
『あなそれ』が不倫ホラーなら、『山田孝之のカンヌ映画祭』は映画業界ホラーだった。俳優の山田孝之がいろんな人を巻き込みながら、映画を作ろうとする。天下の東宝や世界の河瀬直美監督にも協力を迫る強引さが恐ろしい。だが、山田は視聴者の共感なんて無用とばかりに突っ走り、撮影現場でのセット爆破という破滅的クライマックスを迎えた瞬間には思わず拍手してしまった。もうフィクションでもドキュメンタリーでもいいよ。
『架空OL日記』は「バカリズム、そう来ましたか」と言いたくなる快作。制服OLたちのなにげない日々を描くが、男性のバカリズムがその一員であることにはなんの説明もない。その光景に始めは違和感を覚えるのだが、見続けるうちに「違和感を持つ自分のほうがおかしいのではないか」と思えてくる。これこそバカリズムの狙いでは。お笑いコントの延長のようなふりをして、ジェンダーを軽やかに飛び越える。この乗り越え方は、星野源が「Family Song」のMVでサザエさん的な女装をしたのと同じ。星野源がその歌で歌ったように、バカリズムが最終回で種明かしをしたように<あなたは、なんにでもなれる>のだ。
宮藤官九郎は、その点では古い世代の作家と言えるかもしれない。これまでどおり「女は女、男は男」というラインをはっきり引きつつ、その差異(ジェンダーギャップ)で笑わせる。『監獄のお姫さま』がたどり着いた結論「おばちゃんだって誰かの姫」という肯定には、現役おばちゃんとしてただただ感謝。しかし、コメディとしての完成度が高かったのは『ゆとりですがなにか』のスピンオフ『山岸ですがなにか』だと思う。Huluでの配信ということもあり、宮藤がノンプレッシャーで書いたという、ゆとり世代のボーイミーツガール物語に爆笑。