『コード・ブルー』ヒットの理由は“脚本”にあり 組織のドラマ描く安達奈緒子の実力

 月9(フジテレビ系月曜9時枠)の『コード・ブルー』が好評だ。本作はフライトドクターの活躍を描いた医療ドラマ。第一話の平均視聴率が16.3%(関東地区)、第二話が15.6%(同)、第三話が14.0%(同)と、今期のテレビドラマの中ではトップの数字を獲得している。低調著しかった月9の中では久々のヒット作だと言えるだろう。

 ヒットの理由は過去作の良さを守っているからだろう。前シリーズに出演していた山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、浅利陽介、比嘉愛未が引き続き出演していることが何より大きい。チーフ演出の西浦正記やプロデューサーの増本淳といった制作チームが再結集していることも重要だ。エンディングテーマでかかるMr.Childrenの「HANABI」も含めて、過去作を踏襲した堅実な作品となっている。

 と同時に決定的な違いもある。それは脚本家が林宏司から安達奈緒子に変わったことによるテーマの変化だ。過去の二作が、現場での経験を通して成長していく新人医師たちの姿を描いた青春譚だったのに対し、今回の『コード・ブルー』は、翔北救命センターというチーム全体が主人公の群像劇となっている。こういった組織のドラマを描かせたら安達以上にふさわしい脚本家はいないだろう。

 安達奈緒子は2003年のフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞。脚本家としてのキャリアを本格的にスタートしたのは2011年の月9ドラマ『大切なことはすべて君が教えてくれた』だった。本作はチーフ演出が西浦正記、プロデューサーが増本淳という『コード・ブルー』と同じチームで作られた。

 視聴率も低く話題になったとは言い難い作品だ。しかし、三浦春馬が演じた修二という教師の、言ってることは正しくて真面目な好青年なのに、見ているとイライラして「何なんだ? こいつは」と目が離せなくなる秀逸な人物造形や、異常に長いワンシーンで緊張感を保つ演出など、今までのドラマにはない驚くべき要素が多く、最後まで目が離せなかった。

 ストーリーだけ抜き出せば、酔った勢いで女子生徒と一夜を共にしてしまった高校教師の身に巻き起こる困難を描いたよくある学園ドラマなのだが、画面で起きていることはとにかく異常で、物語に挟み込まれる安達奈緒子の恋愛や仕事に対する哲学のようなものが印象に残る怪作だった。個人的には2010年代でもっとも重要な作品だと思っている。

 一般的な知名度で言えば安達の代表作は、『大切な~』の次に書いた月9ドラマ『リッチマン、プアウーマン』だろう。西浦正記、増本淳のチームと再び手がけた本作は、小栗旬が演じるITベンチャー企業の若社長と石原さとみが演じる東大生のインターンを主人公にした物語だ。重厚な企業ドラマと華やかなラブストーリーがうまく融合した、ネオ・トレンディドラマとでも言うような月9の新しい夜明けを告げるような作品だった。

 残念ながら『リッチマン、プアウーマン』に続くような作品は作られず、その後、月9は衰退の一途をたどり今に至る。そんな中、続編ではあるものの『コード・ブルー』は、仕事と恋愛を真正面から描いた久々に月9らしいドラマが復活したと感じた。

 前作から7年を経て、新人だった藍沢耕作(山下智久)たちは医師としてキャリアを重ね、今度は後輩のドクターやナースたちを指導し導く立場へと変化した。第一話で白石恵(新垣結衣)が藍沢から「指揮官になれ」と言われたことからもわかるように、中間管理職が組織を切り盛りする会社モノとしての側面が強くなっている。

 『リッチマン、プアウーマン』を筆頭に、安達の書いたドラマには、チームが一つのプロジェクトに向かって突き進むうちに、ランナーズハイならぬ“ワーキングハイ”といでも言うような高揚感に包まれる姿が何度も描かれている。それはもちろん『コード・ブルー』でも健在で、見ていて実に気持ちがいい。

 一方で、第二話では17歳の女性患者が妊娠していることと、フライトナースの冴島はるか(比嘉愛未)が、子どもを産むかどうかで迷っている姿が描かれ、組織における後輩の育成と同時に、職場で働く女性の出産や子育てというテーマが物語の中で描かれている。

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