料理ドラマは人の心まで満たす 『孤独のグルメ』『みをつくし料理帖』の“美味しい”演出

 仕事終わりの金曜深夜から土曜日にかけて、お腹が空いてしょうがないドラマが2つある。金曜日はシーズン6になっても不動の人気を誇る深夜の飯テロドラマ『孤独のグルメ』。そして土曜日は18時という、忘れてしまいがちな時間ではあるが、夕ご飯前の美味しいドラマ、黒木華主演『みをつくし料理帖』。『孤独のグルメ』を見て無性になにか食べたい衝動にかられ、『みをつくし料理帖』を見て、ちゃんとお出汁から夕ご飯を作ってみようかなという気持ちにさせられてしまう。

 『孤独のグルメ』の面白さは、実在する店の美味しそうな料理の数々はもちろんだが、『水戸黄門』並みのストーリー構造の変わらなさと、変わらないようで毎回妙に新鮮な五郎さん(松重豊)の行動にある。

 シーズン1から見ると多くの変化が見受けられるが、基本的な構造は変わらない。さまざまな街で仕事をし、一段落ついた後におなじみの「腹が減った……」があり、足早に店を探し、店に入ってメニューを吟味し、「いただきます」から「ごちそうさま」まで、松重豊の独白と表情、そして彼のテンションに寄り添う音楽が、ただひたすら食べるだけという、その単純な行動を盛り上げる。そして会計を済ませ、満ち足りた表情で店を後にする。その流れは、街と店が変われど毎度反復している。だがそれが、このドラマの不動の人気の1つなのではないかと感じる。反復は視聴者に絶対的な安心感を与える。そして日々真面目に仕事と向き合う営業マンが食という最高の喜びにありつくその工程は、私含め勤め人にとっての「幸せの法則」に他ならない。

 大阪ですっかり関西人になった友人に会ったり、『仁義なき戦い』を見て感動で泣いている女の子と釣り好きのおじいちゃんにあっけに取られたり、時にはクライアントの意向に沿えず落ち込んだりと、日々の仕事にはいろいろなことがある。だがどんな時にも腹は減り、腹はその時のテンションに合わせた料理を求める。お好み焼き、回転寿司、薬膳料理といった風に。そして食事をする彼の工程は、まるで剣道かなにかの試合のようだ。まずその店の流儀に従い、時折周囲の客が選ぶメニューを気にする。そして1つ1つの料理を淡々と、心の中では熱く、時折ギャグや名台詞を交えながら食べつくし、その動きは次第に貪欲になってくる。そして最後に、納豆を尋常じゃないスピードで混ぜたり、調味料や温泉卵を加えたり、ご飯を投入したりと、彼独自のこだわりをさりげなくプラスし、激しい音楽と共にかきこんで、お冷を飲んで「ごちそうさまでした」と言うまでのこの流れは、いつも私たちにちょっとした笑いと共感と幸せを与えてくれるのである。

 一方、『みをつくし料理帖』である。こちらはあくまで食より物語がメインなのであるが、黒木華、小日向文世、麻生祐未、森山未来、永山絢斗といった優れた俳優たちと、『ちりとてちん』、『ちかえもん』といった優れた人間ドラマを手掛けてきた脚本家・藤本有紀によって、とても心温まる美味しいドラマに仕上がっている。

 そして、黒木華演じる主人公・澪が料理を作る姿が本当に美しい。前回放送の第2話は、澪が料理の基本である出汁の研究をして、ようやく理想の味を完成させる話だったのだが、初冬のシンとした空気の中、朝の光に照らされて、丁寧に鰹と昆布でとった、もうもうと湯気がたった出汁の味見をして、微笑みを浮かべる彼女の姿は、本当に清く、それだけで胸に迫るものがあった。

 澪は、身寄りのない自分を引き取って育ててくれたご寮さん(安田成美)と共に訳あって上方から江戸へと移り、つる家の主人(小日向文世)の好意により料理人として働きはじめる。だが、女性の料理人も上方の料理も珍しい江戸の人々にすぐ認められるわけがなかった。江戸の味の文化を学びつつ、上方で学んだ味を加え、彼女が出会う人々から学んだことや誰かへの想いを加えて作る澪の優しい料理は、次第に評判を呼び、孤立無援だった彼女は多くの人々に愛され、多くの仲間を作っていく。

 とにかく登場人物たちが皆優しく愛おしい。そして「人はみんなよそから見えへんもの背負って生きてる。そやからこそ人と人、寄り添うて慰めおうて生きていくんとちがうやろか?」というご寮さんの言葉通りに、澪が住む長屋の隣人家族にも、つる家の主人にもいろいろな事情がある。つる家の主人は、ひそかに澪のことを死んだ娘の生まれ変わりだと思っている。彼が森山未来演じる常連の小松原に溢した、「あっしにつぐないをさせるため」娘が戻ってきたという言葉は、彼のその優しく陽気な風貌に小さな影を落としている。

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