年末企画:モルモット吉田の「2016年日本映画 年間ベスト脚本TOP5」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2016年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマの三つのカテゴリーに分け、映画の場合は2016年に日本で劇場公開された洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第十四回の選者は、日本映画に造詣の深い映画評論家のモルモット吉田。(編集部)

1.『聖の青春』
2.『続・深夜食堂』
3.『オーバー・フェンス』
4.『淵に立つ』
5.『日本で一番悪い奴ら』
番外『At the terrace テラスにて』

 ベストテンはいくつかの映画雑誌に書いたので、ここでは趣向を変えて脚本のベストを選びたいと思う。

 選考基準は活字化された脚本に限ったので、『月刊シナリオ』、劇場パンフレット、オフィシャルブックなどに脚本が掲載された作品を軸に、1年を通して読むことができた新作脚本40本あまりから選んだ。ベスト5になったのは、10本を選出するには分母の数が足りないという判断である。

 こうした選出方法には異論があるかもしれない。脚本を読まなくとも、映画を観れば脚本の良し悪しは判断がつくではないか、と。確かに映画が良ければ、脚本も良いに違いないと推測はつく。だが、それなら悪い映画は脚本も悪いかと言えば、そうではない。良いシナリオから悪い映画が出来ることだってあるのだ。それを見極めるためには脚本を読む――それもスタッフ、キャストが撮影の指針にした決定稿の脚本を読むしかない。

 『聖の青春』(脚本:向井康介)は安易な感動や、難病もの、伝記ものに陥ることなく、人間的には破綻しながらも、ひたすら将棋盤に向かった男の人生の最期の4年を、丹念にディテールを重ねた脚本の厚みに圧倒される。

 前作も脚本の完成度が高かったが、『続・深夜食堂』(脚本:真辺克彦・小嶋健作・松岡錠司)は30代、40代、50代、80代の女たちが生き生きと描かれている。「喪服・母子・恩返し」を三題噺の様に設定して各エピソードが展開する語り口の巧みさは、現代の日本映画では屈指のもの。

 『オーバー・フェンス』(脚本:高田亮)は故郷の函館に戻った主人公が職業訓練校に通い、さとしという女と出会うという基本設定は原作と同じだが、主人公の年齢、時代設定が大きく変更されており、映画ならではの広がりを見せる。年齢も境遇もバラバラの職業訓練校内の人間関係を巧みに描いているが、39歳の主人公に訪れた人生の折り返し地点の長期休暇に流れるゆったりとした時間が印象深い。

 息づまる台詞と人物の絶妙な出し入れが際立つ『淵に立つ』(脚本:深田晃司)、〈大笑い、三十年のバカ騒ぎ〉を地で行く『日本で一番悪い奴ら』(脚本:池上純哉)なども、脚本の完成度が映画をいかに豊かに膨らませるかを実感させる。『At the terrace テラスにて』(脚本:山内ケンジ)は、脚本の面白さという意味ではベスト・ワンに値するが、舞台用の戯曲でしか読んでいないので(おそらく映画用の脚本も同じものが使用されたと思うが)、番外とすることにした。

【脚本掲載一覧】
『聖の青春』(『シナリオ 2016年12月号』)
『続・深夜食堂』(『シナリオ 2016年12月号』)
『オーバー・フェンス』(『シナリオ 2016年10月号』)
『淵に立つ』(劇場パンフレット)
『日本で一番悪い奴ら』(『シナリオ 2016年7月号』)
『At the terrace テラスにて』(『トロワグロ』白水社)
参考:モルモット吉田の『At the terrace テラスにて』評:多くの観客に観てほしい極上の喜劇

■モルモット吉田
1978年生まれ。映画評論家。「シナリオ」「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿。

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