『逃げ恥』過去最大級のヤキモキの渦! “対等な関係性の難しさ”に迫った第10話

「愛情の搾取、断固反対!」という強いメッセージと共に、プロポーズ大失敗という衝撃の展開を迎えたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の第10話。来週はいよいよ最終回だというのに、過去最大級のヤキモキの渦に飲み込まれるなんて、さすが『逃げ恥』だ。

 第10話では「雇用主=夫、従業員=妻」という雇用関係だった、みくり(新垣結衣)と平匡(星野源)が、本当の恋人関係に発展。ラブラブな2人に、頬が緩んだ視聴者も多かったはず。恋人つなぎで歩き、ハグだってもう火曜日だけじゃない。初々しいキス、そしてイチャイチャ……。もちろん「プロの独身」が、スマートにいくわけもなく、恐れていた失敗ももちろんあったが「大切な人から逃げてはダメだ。失いたくないのなら、どんなにカッコ悪くても、無様でも」と、どうにかこうにか、みくりの愛情に救われながら壁を乗り越えた。

 ついに「プロの独身」という鎧を脱いだ平匡のフニャフニャ顔といったら、見ているこちらが恥ずかしくなるくらいの幸せボケ。偶然にも36歳の誕生日という朝。曇りなのに、いい天気だと感じてしまうくらい、まるで世界が自分を肯定してくれているような幸福感に包まれたのだろう。だが、平匡は知らなかった。一線を越えたことで起こった、自分の中での大きな変化を。ここまでじっくりと描いてきたみくりと平匡の関係性を「そして2人は両想いに。幸せになりましたとさ」で終わらない。そこが『逃げ恥』のリアルだ。

 

 今回のキーワードとなっている「愛情の搾取」。誰もが相手に必要とされたくて、期待に応えたいと思ってしまうもの。その相手への想いが強ければ、なおさらだ。相手が喜ぶのであればと、ときには身を削ることも厭わない。だが、それは決して当たり前の状態ではないのだ。「わかってくれて当然」「尽くされて当然」などと、どちらかが努力をすることが前提になる関係性は健全ではない。自分の身を削った量が、決して愛情の量ではないのだ。だが、これまでの日本では、どこか自己犠牲こそ愛、という幻想が蔓延していたのではないか……という問題提起がなされた回だった。

 今まで、みくりと平匡は、何かあるたびに報告・連絡・相談を徹底していた。両家の顔合わせに挑む際には入念な打ち合わせがあり、同僚が家に来るというピンチのときも、炊飯器ひとつ買うときも、いつも2人で相談しながら進めてきた。それほど丁寧なコミュニケーションを続けてきたのは、労働力と収入の授受というわかりやすい構図が成り立っていたからだ。

 だが、恋人となった途端、状況は複雑に。お互いに、そこにいるだけで幸せという共通の利益が生まれたことでバランスが変化したのだ。プロポーズをするなら、この結ばれた瞬間がベストだったのかもしれない。そして、変化した関係性を2人で見つめ直し、相談して、新たな目標を設定していけばよかったのだ。

 しかし、自分が傷つかないように、相手も傷つけないようにと、人との間に線を引き、合理的でビジネスライクなスタイルを貫いてきた平匡のこと。その距離感の変化を自覚することができなかったのではないか。みくりへの信頼感から、いつしか“一心同体”であるという錯覚が生まれたように思う。みくりなら自分のために頑張ってくれるもの。なぜなら自分もみくりのために頑張れるから、と少しずつエゴが強くなっていく。

 

 みくりの手を握り、嫉妬してしまうから風見(大谷亮平)のところで働くのはやめてほしいという平匡の姿も、以前では考えられなかったこと。一瞬、相思相愛だな、なんてポッとしたが、雇用関係であることを考えると“その分の収入補填は、どうなっていますか?”という話だ。穏やかな物言いではあったが、「不快になるのでやめてほしい」という感情を全面に出された一方的な提案。そんな小さな要求が積み重なって、相手の考えや行動に踏み込むことに慣れ、悪意なく搾取が始まるのだ。

 さらに、平匡はリストラを受けて、収入面の危機を迎えることに。リストラの対象になった理由の一つに、正式に籍を入れていない夫婦だからという部分もあり、プロポーズを決意。だが、その段取りもあまりにも独りよがりだった。

 突然の外食の誘いに、店の雰囲気がわからず、着ていく服にみくりが頭を抱えたことなど、思いもしなかっただろう。「かわいいですよ」という言葉はうれしいが、みくりの心情は「そうなら、そうと言ってよ」だ。きっと何でもネットで検索する平匡のこと、“プロポーズ 場所”とでも検索して、高級レストランがヒットしたのだろう。なぜなら、みくりは1度だって高級レストランに行きたいなどと言っていないのだから。目の前のみくりと会話をせずに、マニュアル通りのサプライズをしたところで、「相手のためにやってあげた」という自己満足でしかない。ましてや、自分の提案を受け入れてほしいという気持ちだけが先走り、プロポーズという名のプレゼンは散々な結果に。

 

 もっと素直に伝えていたら良かったのに、と誰もが思ったことだろう。「リストラをされることになりました。正直なところ、雇用関係の夫婦を続けるのは難しいです。それでも一緒にいたいのですが、みくりさんはどう思いますか?」と。いつも2人は、別の視点から解決策を見出して、すり合わせて、乗り越えてきたのだから。それなのに、平匡だけの考えで「籍を入れましょう。そうすれば給与分が貯蓄に回せます」なんて、押し付けでしかない。子どもやマイホームなど、1人で未来予想図が広げられても、みくりも「ついていけません」だろう。

 平匡よ、自分で言ったばかりではないか。「必要だったのは、システムの再構築じゃない、本当の気持ちを伝え合うことだった」と。ただ、相手に伝えることは、終わりではなく始まりだと知らなければならなかった。関係性は常に変化が訪れ、その都度チューニングをしていかなくてはいけないのだ。

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