『淵に立つ』HARUHI&深田晃司監督、対談インタビュー

『淵に立つ』深田晃司×HARUHI対談 映画と音楽における制作スタンスの共通点と違いを語る

HARUHI「曲を書いていると、自分の本当の気持ちがわかってくる」

HARUHI

ーー「ある家族のもとに得体の知れない男が現れる」という『淵に立つ』の導入は、深田監督の『歓待』(2011年)にも共通しています。『歓待』にはコメディの要素があり、『淵に立つ』の作風とはまったく異なりますが、この違いはどうして生まれたんですか?

深田:人に説明するときは「『淵に立つ』は“暗い『歓待』です”」と言ったりしますが、特に意識していたわけではなくて、気付いたらそうなっていた感じなんですよね。『歓待』の場合、最初のアイデアが“いろんな人たちがひとつの家のなかにギュウギュウに詰め込まれていたらおもしろいだろうな”ということだったので、自然とコメディに転がっていったんだと思いますね。出来上がって映画がコメディであっても悲劇であっても、僕としては通底している世界観を描こうとしているんですよね。それは「家族であっても、基本的にはバラバラである」ということです。幸せな家族も不幸せな家族も、人はみんなバラバラということには変わりがないので。その感じは『歓待』にも『淵に立つ』にも共通していると思っています。

ーー人は本来、孤独であり、分かり合えないというのが前提であると。HARUHIさんが楽曲を制作するときも、自分の孤独と向き合うような感覚はありますか?

HARUHI:もちろん。曲を書いていると、自分の本当の気持ちがわかってくるんですよね。何で怒っていたのか、どうして悲しいと感じていたのかが、曲を書くことで「なるほど、そういうことだったんだね」って理解できる。自分のなかの気持ちをそのまま曲にすることはとても難しいんですけど、それが出来たときは「いいな」と思えるんですよね。曲のなかにちゃんと気持ちが込められたら、聴いてくれる人も「私にもこんなことがあったな」と思ってくれるだろうし、何度も聴いてもらえる曲になるんじゃないかなって。おもしろいんですけど、1日くらいでパッと書ける曲のほうが出来が良いことが多いんです。コンセプトについてはずっと考えていてもいいと思うけど、実際に書くときは短い時間のほうがいいんですよね。

ーーただ、自分と向き合うという行為は、ときにしんどいですよね?

HARUHI:はい(笑)。でも、そこはどうしても向き合わないといけないというか……。

深田:ある意味、危険なことですよね。心を追い詰めることにもなるので。

HARUHI:そうですね。音楽でも絵でもそうですけど、アートに関わる人というのは、自分の気持ちや悩みに向き合って、そこから作品を作っていくので。作っている最中はつらいし、ストレスを抱えることもあるけど、素晴らしい作品が出来たときはすべてが報われるような気持になって。そのバランスですよね。

深田:本当にそうだと思います。『淵に立つ』というタイトルはもともと、僕が所属している劇団『青年団』の主宰である平田オリザの言葉から拝借しているんですね。劇団の新人研修のときに聞いた言葉なんですが、「芸術というのは、崖の淵に立って暗闇をのぞき込むような行為だ」と。少しでも優れた表現をしようとすれば、崖の際に立たなくてはいけないけど、自分自身が闇の中に落ちてしまったら元も子もない。つまり表現者は、人の心の闇に近づきながら、ギリギリのところで踏みとどまれる理性や踏みとどませてくれる何かを持たなくてはいけないんですよね。その言葉はずっと心に残っていたし、『淵に立つ』という映画は、お客さんと一緒に人の心の闇をのぞき込むような作品にしたいという思いがあったんです。

HARUHI:そうなんですね。

深田:いまHARUHIさんの話を聞いていて思ったんですが、映画の場合は曲を書くこととは違っていて、集団で創作するんですよね。つまり他者に向けてカメラを向けるわけですが、それは人間だったり、思い通りにならない社会を写し取っていく作業なんです。そこで撮られたものは、自分ではないですよね。当たり前ですが、出演している俳優は自分ではなくて、別の考えを持った人間なので。そういう他者をいかに残すかが重要なんですよ、映画は。それがなければ、ひとりの人間の脳内にある狭い箱庭みたいなものになってしまうので。

ーー映画における他者性が、“崖の淵”で留まる理性につながっているのかもしれないですね。

深田:そうですね。あとは「物書きの人生にムダはない」と言いますか、生活のなかでつらいことがあったとしても、全部が自分の創作のタネになるので。そう思うだけでたいていのことは乗り越えられますね。

HARUHI:そうかも。悲しいことも歌に出来たら、気持ちはスッキリするので。

(取材・文=森朋之/撮影=三橋優美子)

カンヌ受賞映画「淵に立つ」主題歌・HARUHI『Lullaby』・深田晃司監督初ミュージックビデオ作品
HARUHI「Lullaby」

■配信情報
HARUHI「Lullaby」
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■映画情報
映画『淵に立つ』
10月8日(土)より、有楽町スバル座ほか全国ロードショー。
監督・脚本・編集:深田晃司(『歓待』『ほとりの朔子』『さようなら』)
出演:浅野忠信、筒井真理子、太賀、三浦貴大、篠川桃音、真広佳奈、古舘寛治 
主題歌:HARUHI「Lullaby」(Sony Music Labels Inc.) 
配給:エレファントハウス、カルチャヴィル
(C)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS
公式サイト:http://www.fuchi-movie.com/

■HARUHIオフィシャルHP
http://www.haruhi99.jp/

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