『とと姉ちゃん』“商品試験”が問いかける、企業批判者の責任と覚悟
また、商品試験を見ていて連想したのが、インターネットにあふれている企業批判の記事だ。
企業の担当者が吐いた暴言を秘密録音したものをWEBに公開して反響を呼んだ1999年の東芝クレーマー事件以降、ネット発の批判は企業に対して、大きな影響力を持つようになってきている。最近では、認知症の高齢者と交わしたサポート契約の解除の際に、高額の料金を請求してきたPCデポを、告発した被害者の孫の発言が大きな話題となった。詳しい内容は、相談に乗っていたライターのヨッピーの「PCデポ 高額解除料問題 大炎上の経緯とその背景」という記事にまとまっているが、横暴な企業を告発する消費者の声を届ける装置としてネットが機能した成功例だと思う。(参考:PCデポ 高額解除料問題 大炎上の経緯とその背景)
だが一方で、ネットにおける消費者のクレームはそれ自体が自己目的化して暴走することもある。PCデポの件は、告発した男性とヨッピ-のスタンスが冷静だったため、うまく機能したが、一方で、素人の批判的感情が暴走してしまったことで、共感を得られないケースも多い。
戦後直後に創刊された『暮しの手帖』の商品試験と、ネットのクレーム記事が重なってみえるのは、そこに批評やジャーナリズムの本質があるからだろう。雑誌でもネットでも、どんなに正しいことでも制約なく発言すれば、多くの人々を傷つけることになる。今回の商品試験が描いたのは、ペンを握る側にその責任と覚悟はあるのか? という問いかけだ。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/