山﨑賢人ら“S男子”と菅田将暉ら“M男子”、物語におけるそれぞれの役割と魅力
続いて、M男子に着目してみよう。先述した『いつ恋』や『ラヴソング』、『百瀬こっちを向いて』に登場するM的な男子たちは、なんだかんだで女性に振り回されるタイプで、物語自体はシリアスでリアリティ志向の場合が多い。S男子が登場する映像作品の多くは少女漫画原作であるのに対し、M男子が登場するのはオリジナル脚本であったり、場合によっては少年漫画が原作だったりするケースも目立つ。おそらく原作者も、S男子を描くのは女性で、M男子を描くのは男性である場合が多いのではないか。
男性視聴者から見たときに共感しやすいのもたぶん、M男子の方だろう。『百瀬こっちを向いて』で向井理演じた相原ノボルは、主人公の百瀬陽に恋をするが振り向いてもらえない、消極的な男性として描かれており、原作小説の執筆者は中田永一こと乙一だった。作中では百瀬の言いなりになって苦労することも多いのだが、その“女性に振り回される”という視点自体が、ある意味では男性的である。もちろん、彼らに魅力を感じる女性視聴者も多いはずだが、S男子の振る舞いに対するそれとは異なっているだろう。恋心を抱くにせよ、彼らの不器用さや純粋さに母性をくすぐられるケースが多そうだ。
映画やドラマにおけるS男子とM男子の魅力を比較すると、前者はとくに女性の理想を、後者はとくに男性の現実を描いた姿といえるのかもしれない。
(文=松下博夫)