成馬零一の直球ドラマ評論『ゆとりですがなにか』

『ゆとりですがなにか』が浮き彫りにする宮藤官九郎の人生観 人間の不安定さ描いた第八話

 「人の心は簡単に変わる」、「この世に絶対のものはない」というのは、宮藤官九郎が笑いの中にこっそり忍ばせてきた人生観だが、カタギになろうとしていた道上まりぶ(柳楽優弥)が逮捕される場面を見た時は「ここまでやるのか」と驚かされた。(メイン写真は『ゆとりですがなにか』第八話より)

『ゆとりですがなにか』第八話より

 まずは、順を追って物語を振り返ってみよう。家族の前で坂間正和(岡田将生)は、会社をやめて兄といっしょに家業を継ぎたいと言う。しかし、兄の宗貴(高橋洋)は、自分は社長の器じゃないので、北海道で稲作をやりたいと言い出し、兄嫁のみどり(青木さやか)も、環境にいい場所でストレスのない生活を送るのは妊活にもいいと賛成する。しかし、母の和代(中田喜子)は息子たちの態度に腹を立てて、「嫌々やるくらいならつぶしますよ。こんな酒蔵」と怒りだす。

 同じ頃、宮下茜(安藤サクラ)と上司の早川道郎(手塚とおる)はラブホテルにいた。酔った勢いでホテルに入ったものの、最後に踏みとどまろうと思ったのか坂間に電話してしまう早川だが、家族会議中だった坂間は電話には出られず、結局、二人は一夜を過ごしてしまう。坂間と別れて仙台に行くために自暴自棄となったのか、それとも上司の早川に少しでも愛情があったのか? このあたりの女性心理のつかみどころの無さは、男から見た女の理解しがたい感じが、よく現れている。

『ゆとりですがなにか』第八話より

 それは坂間の妹・ゆとり(島崎遥香・AKB48)の恋の顛末にしても同様だ。まりぶのことを好きになったゆとりだったが、就職が無事決まると、気持ちは醒めてしまい、まりぶと別れてしまう。

「現実逃避してた自分が急に子どもっぽいなぁ~って。ダサかったり。子どもっぽい発言とか行動とか彼に会うと思い出しちゃって、彼までダサく見えてきちゃって」

 坂間は、まりぶはゆとりの変化に合わせて「変わろうとしたんじゃないか」と言うが、「そういう普通は求めてなかった」とゆとりは言う。

 そんなまりぶは、今までの夜の仕事はやめて植木屋として再スタートしようとしていた。きっかけはゆとりと付き合ったことだったが、それ以上に大きいのは坂間が「鳥の民」で働く姿に感銘を受けて自分も変わらなきゃと思ったからだ。自分探しもやめて、東大受験を目指して勉強していた参考書も全て売ってしまった。

 どこにでもあるチェーン店の居酒屋だった「鳥の民」高円寺店は、坂間を中心とした仲間たちが集まるかけがえのない居場所になっていく。居酒屋やスナックといったたまり場に登場人物が集まって、楽しい時間を過ごす姿を宮藤はドラマの中で繰り返し描いてきたもので、物語を進める上でも大事な基盤となっている。今回も後輩の山岸ひろむ(太賀)や営業先の野上(でんでん)だけでなく、佐倉悦子(吉岡里帆)の元・恋人で山路一豊(松坂桃李)に因縁をふっかけてきた小暮静磨(北村匠海・DISH//)まで再登場し、複数の人間ドラマが同時進行していく。

 しかし、そんな「鳥の民」高円寺店の店長としての任期を終えた坂間は、突然、茜にプロポーズ。結婚の約束をした二人は会社に連名で辞表を出してしまう。

 坂間の会社や「鳥の民」の人間関係に居心地の良さを感じだした瞬間、当の主人公たちがあっさりとそれを捨ててしまうのだ。このドライさには、見ていて唖然とさせられる。しかも、早川との不倫関係が今後どうなるのかは曖昧にされているので、見ていてどうにも落ち着かない。

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