多部未華子はコメディエンヌの才能を開花させた 『あやしい彼女』での熱演を分析
ネタバレになってしまうので、あまり詳しく書けないのがもどかしいが、クライマックスで20歳の姿の母親と娘が対峙するシーンがある。オリジナルの韓国版にも、息子と母との対話シーンとして描かれていたが、本作ではシングルマザーの母親という役柄に変更した事で、“同じ境遇で子供を育ててきた母親同士”という構図が生まれ、やりなおし人生の選択というテーマと、自己犠牲というシリアスなテーマが浮き彫りになってくる。
73年の人生をわが子に捧げてきた母親、その母を顧みてこなかった娘との対話は、演技の域を超えて、多部未華子vs小林聡美の女優対決にも見える。そしてその対話シーンの完成度は、双方のコメディエンヌとしてのキャリアを、更に向上させた。そのクライマックスに至るまで、明るいドタバタ人情コメディ作品として楽しませてきた分、観客の感情を徹底的に揺さぶる。
前作『ピース・オブ・ケイク』の体当たり演技で、大人の女優として一皮剥けた姿を披露した多部未華子と、日本のコメディ作品を牽引してきた、倍賞美津子と小林聡美という二人の名女優との共演が、彼女が元来持っていたコメディエンヌとしての素質を、更に際立たせることに成功した。もはや怖いものはない。日本を代表する最強のコメディエンヌの一人に成長したのだ。
■鶴巻忠弘
映画ライター 1969年生まれ。ノストラダムスの大予言を信じて1999年からフリーのライターとして活動開始。予言が外れた今も活動中。『2001年宇宙の旅』をテアトル東京のシネラマで観た事と、『ワイルドバンチ』70mm版をLAのシネラマドームで観た事を心の糧にしている残念な中年(苦笑)。
■公開情報
『あやしい彼女』
4月1日(金)より全国ロードショー
出演:多部未華子、倍賞美津子、要潤、北村匠海、金井克子、志賀廣太郎、小林聡美
監督:水田伸生
脚本:吉澤智子
音楽:三宅一徳
劇中歌プロデュース:小林武史
製作:「あやカノ」製作委員会
製作幹事:日本テレビ放送網
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:松竹
(c)2016「あやカノ」製作委員会 (c)2014 CJ E&M CORPORATION
公式サイト:ayakano.jp