『相棒』元日スペシャル「英雄~罪深き者たち」レビュー
曲がり角にきた超優良コンテンツ『相棒』 今年の元日スペシャルにおける変化の兆し
毎年秋から春にかけて半年クールで放送されている『相棒』。元日に長編の特番が放送されるようになったのは2006年のseason 4からだから、今年で11年連続ということに。今や『芸能人格付けチェック!』(制作は朝日放送)と並んで元日のテレ朝の黄金リレーを担う重要番組となって久しい。言うまでもなく、テレ朝にとって『相棒』といえば通常の放送枠だけでなく、夕方の再放送ドラマ枠の帯番組として、そして改編期の穴埋め再放送コンテンツとして、その万能さにおいて局の大黒柱となってきた超優良コンテンツ。しかし、近年そのパワーに少々陰りが見えてきている。そして、「卵が先か鶏が先か」ではないが、『相棒』の神通力が薄れてくるとともに、一時期絶好調だったテレ朝全体の視聴率もこのところ伸び悩んでいる。
『相棒』マニア的な視点から今年の『相棒』元日スペシャルのポイントを指摘するとしたら、それは演出が11年目にして初めて和泉聖治の手を離れたこと。「初回と元日スペシャルと最終回の演出は和泉聖治」という鉄壁のルーティーンがここで崩れたことになる。和泉聖治は今シーズンも初回に続いて第4話、第6話と順調なペースで登板しているので、これは制作サイドの意図的な采配だろう。あの「和泉ブルー」とも呼ばれる青を強調した一種異様なハイコントラストな画面を元日から堪能できないのは、マニアとしてちょっと寂しくもあった。
一方、真野勝成の脚本によるストーリーは、二世議員片山雛子(木村佳乃)、テロリスト集団「赤いカナリア」のメンバー本多篤人(古谷一行)、その娘である早瀬茉莉(内山理名)といった旧キャラクターが大挙して登場するスペシャル感に溢れたものだった。『相棒』ファン的に嬉しいサプライズとなったのは、season12第1話で大怪我を負って辞職したトリオ・ザ・捜一の要であった三浦(元)刑事(大谷亮介)の元気な姿(すっかり見た目も変わって「職業=旅人」な人になっていた!)や、セリフの中に出てくるサルウィン共和国(初代相棒亀山薫の移住先)や小野田官房長の名前だろう。実は、暗黙の了解として『相棒』の世界においてそうした旧キャラづかい、旧ネタづかいは、輿水泰弘を筆頭とする一部の初期からの脚本家だけの特権であった。つまり、今作における大胆な『相棒』史への介入、及び元日スペシャルでの2年連続起用は、season12で初登板した「新参者」真野勝成がエース脚本家(の一人)のポジションを手にした証だ。
season14の序盤に書いた論考(新相棒・冠城亘(反町隆史)を迎えた『相棒 14』、その成功の鍵はどこにあるか?)で指摘したように、近年の相棒に欠けていたのは「警察の上層部との関係、その裏にある組織的な陰謀、過去の事件の登場人物、各キャラクターの過去にまつわる物語」といった「縦軸の物語」であり、今回の元日スペシャルはそれを大々的に起動させてみせたという点において、方向性としては正しかったと思う。また、新相棒の冠城亘(反町隆史)が過去に片山雛子の配下にいた(つまり、何年も前に杉下右京とニアミスしていた)という初めて明らかにされた設定も、予測不可能な展開を期待させるものだった。しかし、いずれも興味深い駒を置いてはみせたものの、その駒を上手く動かせないままゲームオーバーとなってしまった感が残る仕上がりだった。いや、「上手く動かせない」どころか、本田親子はいずれも死亡、片山雛子も失脚と、置いた駒を永久に取り上げられてしまっただけと言ってもいいだろう。当然、他の脚本家とのコンセンサスは得ているとは思うが、万が一そうでなかったとしたら、輿水泰弘あたりは正月早々からテレビの前で腰を抜かしているのではないか。クライマックスの蛇の毒の解毒剤のくだりなど、細部のツッコミどころが多々あるのはもはや『相棒』では慣れっこだが、登場人物の動機や大義といった大筋の部分で引っかかりを感じる部分も少なくなかった。