クリスマス公開中の恋愛映画、『きみといた2日間』と『COMET/コメット』を観る

 そして、もう一本紹介するのは、同じくアメリカ映画『コメット』です。こちらもまた、『きみといた2日間』に引けを取らないほど、ひと組の男女が延々と会話し続ける映画に仕上がっています。しかも、それが『(500)日のサマー』(2009年)のように、時系列を組み替えながらランダムに描かれるものだから、観ているほうは、なかなか混乱します。ちなみに監督は、本作が初長編作品となるサム・エスメイル。今年、テレビ・シリーズ『ミスター・ロボット』の企画を立ち上げ、一躍注目を集めるようになった気鋭の映像作家です。

『COMET/コメット』場面写真 (C)2014 COMET MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

  彗星見物のため集まったロスの公園の群衆の中、運命的な出会いを果たしたデル(ジャスティン・ロング)とキンバリー(エミー・ロッサム)。「この娘を絶対に手放しちゃいけない」。そんな自らの直感に突き動かされるように、彗星そっちのけでキンバリーを口説き倒すデル。当初いぶかしがっていたキンバリーも、デルのユーモアと情熱にほだされるように、やがて心を開き始め……次の瞬間、ふたりはパリのホテルで目覚めます。友人の結婚式に出るため、ふたりでパリを訪れているのです。しかし、ふたりの様子に初々しさはありません。そして、次の瞬間、ふたりは長距離列車の乗り場で再会を果たすのです。

  彗星の降る夜、恋に落ちたふたりの、ランダムに切り取られた6年間の物語。そこには出会いがあり、倦怠があり、別れがあり、そして再会があった。しかも、2回ずつ(要は二度別れている)。美学的に構築された画面設計は、どこか幻想的で、ときには夢のようですらあります。そして、唐突に山際から昇り始めるふたつの太陽。そう、この物語は、時空はもちろん、いつしか現実世界すら飛び越えた、ある種のパラレル・ワールドとして描き出されてゆくのです。その意味では、『(500)日のサマー』よりも、むしろミシェル・ゴンドリーの『エターナル・サンシャイン』(2004年)に近いかもしれません。その色彩的なこだわりという意味においても。

  しかし、時系列はもちろん、その時間軸すら分断しながら展開してゆくふたりの恋物語は、果たして何を表しているのでしょうか。それは恐らく「瞬間」そのものです。様々な状況設定の中で、常に浮かび上がる、「いま/ここ」。そのコンテクストは、実にさまざまです。というか、この監督は、敢えてコンテクストを分断し、果ては現実/非現実の境界さえも曖昧にしながら、「瞬間」そのものを取り出そうとしているのです。ふたりの「距離」が縮まるその「瞬間」を、あるいは離れるその「瞬間」を。果たして、それがうまくいっているかどうかは、意見が分かれるところだと思いますが、なかなかユニークな試みではあると思います。

  さて、そろそろ結論です。上記のような「男女がひたすら延々と会話し続ける」恋愛映画を観てつくづく思うのは、いずれにせよ、「恋愛(映画)」の滋味は、その「物語」性にあらずということです。それはいささか極論に過ぎるのかもしれないけれど、こんなふうには言うことはできるでしょう。その「物語」に自分自身が酔ってしまったら、その瞬間に目の前の「今」が見えなくなる、と。マグナム突きつけながら「メイク・マイ・デイ」もいいけれど、ときにはむしろ「シーズ・ザ・デイ」。良くも悪くも「クリスマス」という物語性に酔うことなく、しっかりと目の前の「今」を掴み取りたいものですね。こちらからは以上です。それではみなさま、良いクリスマスを。

(文=麦倉正樹)

◼︎公開情報
『きみといた2日間』
公開中
監督:マックス・ニコルズ
出演:マイルズ・テラー、アナリー・ティプトン、ジェシカ・ゾー、スコット・メスカディ(キッド・カディ)
脚本:マーク・ハマー
製作: ルーベン・フライシャー
配給・宣伝:ファインフィルムズ
公式サイト
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『COMET/コメット』
公開中
監督:サム・エスメイル
プロデューサー :チャド・ハミルトン
出演:ジャスティン・ロング 、エミー・ロッサム
撮影 :エリック・コレッツ
音楽 :マイケル・クリスピン
提供・配給:キュリオスコープ
宣伝: ウフル、アンプラグド
公式サイト
(C)2014 COMET MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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