宮沢りえとリリー・フランキーの演技論 宮沢「演じているときがいちばん深く呼吸できている」
『SWITCHインタビュー 達人達』(NHK Eテレ)、9月5日の放送回(Vol.86)に、宮沢りえとリリー・フランキーが登場した。
宮沢が「今、いちばん共演したい人」だというリリー・フランキー。まずは、リリーが出演した映画『凶悪』の話から。「あれ、本当に酷い人でしたね。すごく穏やかで虫も殺さないような見た目なのに、心のなかではすごい酷いことを考えてそうな……」と、リリーの役柄に対する率直な感想を述べる宮沢に、「あれは僕の地に近いですからね」と涼しげに応えるリリー。さらに、「『凶悪』と同時期に『そして父になる』も撮ったんですけど、3人の子どもを持つ良いお父さんっていうのは、俺の現実からいちばん遠いから……ものすごいファンタジーでした。それに比べたら(『凶悪』で演じた)殺人鬼の守銭奴のほうが、まだ自分に近いかもしれないです(笑)」と、両作を並行して撮っていた頃の自身の心境について語った。
その後、「演じる仕事を最初にしたのは?」という宮沢の問いに対し、石井輝男監督にオファーされたのが、そもそものきっかけだったと明かすリリー。彼の役者デビュー作は、“キング・オブ・カルト”の異名を持つ、石井監督の映画『盲獣VS一寸法師」(2001年)だった。役者未経験にもかかわらず、その話を受けた理由について、「石井監督の映画が大好きだったから、監督がどうやって映画を作っているのか見たかった。それだけです」と答えるリリー。さらに宮沢が、演じることの「責任」について話を向けたところ、「俺とかピエール瀧とかは、基本的に蛭子(能収)さん枠なんですよ。何かふんわりして責任を持たない(笑)。お弁当に入っているバランみたいなもので、食えないけど無いよりあるほうがいい。その枠なんだよね」と、役者としての自身のポジションについて分析してみせた。
番組の後半は、リリーが宮沢に質問を投げかける。ある時期から積極的に舞台の仕事を始めた理由について尋ねるリリーに、宮沢は30歳のときに出演した、野田秀樹の舞台『透明人間の蒸気(ゆげ)』の現場で感じたことを話し始める。共演者の安部サダヲとともに、何もないところで何かをやってみるという“エチュード”的なことからスタートしたという舞台稽古。そこで宮沢は、ものすごい衝撃を受けたという。「阿部さんはものすごく巧みで、たくさんの引き出しがあって、あれやこれや開けて広げるみたいなときに、私は開ける引き出しがなくて、ものすごくびっくりしたんです。自分は、純粋であるとか素直であるってこと以外に、何のとりえがないことに、ものすごい衝撃を受けたんです」と。そこで感じた悔しさや、自分自身に対する怒りをバネに、宮沢はある決意を固めたという。「40歳になったとき、普通に舞台に立っていられる人になりたい。とにかくそのために今後の10年を過ごそうって思っちゃったんですよね」。