【漫画】“聞こえる”占い師と“見える”クール男子 『なんか聞こえる』にわの池インタビュー「“人の善性”に賭けたい」

【漫画】『なんか聞こえる』にわの池に聞く

 男女のバディものは、“迷コンビ”であればあるほど面白いと筆者は思っている。今回紹介する作品『なんか聞こえる』の2人も漏れなくそうだ。主人公の岩永由芽(以下、ゆめ)は、幽霊の“声だけ”聞こえる能力を持ち、相方である神山むつみ(以下、むつみ)は、幽霊が“見えるだけ”の能力を持つ。

 能力だけ見ると相性抜群のはずだが、強引にゆめを連れ回すむつみや、そんなむつみに悪態をつくゆめを見ると、どうもこの2人、一筋縄ではいかないようだ。本作では、そんな2人が事件に巻き込まれていくうちに、幽霊の「ワケありな事情」を知っていく……。

 今回は、心霊から始まり、重厚なヒューマンドラマへと展開する漫画作品『なんか聞こえる』の作者であるにわの池さんに、制作の背景や作品の魅力について伺った。

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『なんか聞こえる』(にわの池/CLLENN)

能力を2人に“分けた”理由

ーー本作が生まれた経緯を教えてください。

にわの池:ドラマ『TRICK』(テレビ朝日)が大好きで、以前から男女のバディものを描きたいと思っていました。ほかにも『金田一少年の事件簿』や推理作家・横溝正史の作品に親しんできたので、いちから勉強して新しいテーマに挑戦するよりも、自分にとって解像度の高いジャンルを題材にした方が描きやすいと思って、この世界観になりました。

ーー主人公のゆめ、相方であるむつみは、どのようにして生まれたのでしょうか。

にわの池:ゆめは口が悪くさっぱりとした性格ですが、最初の設定では、クールで落ち着いた性格の女の子でした。一方むつみは、元気なワンコ系男子だったんです。

ーーいまと真逆の性格ですね。

にわの池:そうなんです(笑)。初代の編集さんから性格を逆にして欲しいと要望があり、いまの2人になりました。前作でクール系男子を描いていたので、編集さんからはそういう男の子を描くのが得意だと思われていたみたいです。

ーー実際に、2人を描いてみてどうでしたか?

にわの池:正直、ゆめはもっと口が悪くて横暴な女の子になると思っていたんですけど、思っている以上に素直で、人の意見を取り入れたり、挨拶ができたりと、礼儀正しい子になりましたね。占い師として働いていたから、そういったしっかりとした一面が育てられたのかもしれないです。私はキャラクターの背景を最初から細かく決めずに描き進めるタイプなので、描いていくうちに新しい一面に気づくこともありました。

ーーゆめは「幽霊の声だけが聞こえる」、むつみは「姿が見える」と、2人に能力が分けられています。能力を分けたのはなぜでしょうか?

にわの池:実は、ホラーが大の苦手なんです(笑)。画面に怖いものが写るのがストレスで……。だから、声だけ聞こえる設定なら、怖いものを描かなくても済むと思ったんです。もうひとつの理由は、幽霊ってほとんどの人が見えないですよね。なので、幽霊が見えている人を俯瞰で描く方が、より読者の方にとっては身近に感じてもらえるのではないかと思ったんです。

ーーたしかに、そのほうがリアルに感じますね。

にわの池:ただ、それだと物語を進展させるのが難しいので、幽霊が見える人が必要になり、もともとなんの能力も持っていない設定だったむつみに、“見える人”として登場してもらいました。

人の複雑さという余韻を残した作品に

ーー物語の構成はどこまで考えて描いていたのでしょうか?

にわの池:作品は初回3話まとめて配信されるので、最初の2パートはしっかりと決めていたのですが、それ以降はそこまで明確なあらすじを考えていなかったんです。事件の仕掛けやミステリー部分を作り込むというよりは、事件に関わった人がそれぞれ何を感じてどう思ったのか、という部分にフォーカスして描いていました。

ーー作中の「薄羽の呪い」編は、重厚なストーリーになっていましたね。

にわの池:本当は3〜5話で収める予定だったんですけど、配信スタイルが少し変化したタイミングだったこともあって長引いてしまいました。それに、先ほどお話しした横溝正史作品で描かれている戦後の雰囲気など、自分の好きな要素をたくさん詰め込みたいという思いもあったんです。

 「いましか描く機会はない……!」と思ってとにかく好きな要素を詰め込んでいたら、収拾がつかなくなりかけてしまって(笑)。それでも、なんとか無事にまとまってよかったです。

ーーストーリーも、描きながら広げていくことが多かったんですね。

にわの池:そうですね。だから描いているうちに、あとから「こうだったんだ」と気づくこともありました。描きたいものを詰め込んだからこそ、予定調和ではない展開が生まれたのかもしれないです。

ーー本作では、人と人とのすれ違いや、伝えられなかった想いが描かれていますが、こうした人間ドラマは、どう考えながら描いていましたか?

にわの池:人は、相手のことを主観的に判断してしまったり、必要以上に敵意や嫌悪感を抱いてしまったりすることがあると思うんです。私にもそういう経験がありました。でも、ゆめやむつみは、相手に偏見を持たず、フラットに受け入れられるタイプなんです。2人のそういうところには、「自分もこうありたい」という憧れがあるのかもしれませんね。

――たしかに、人はつい相手を決めつけてしまうときもあれば、偏見なく受け入れられることもありますよね。そうした人間の“複雑さ”も、本作では丁寧に描かれているように感じます。

にわの池:最近は、勧善懲悪や復讐系の漫画作品が人気ですが、私は絶対にスッキリとさせた作品にはしたくないと思っていて。どこかで、“人の善性”に賭けたいという思いがあるんです。だから作品としては地味なものになってしまったかもしれないですが、この思いが読者に届いたのなら嬉しいですね。

ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

にわの池:派手さがあるわけでも、わかりやすい展開が続くわけでもなく、じわじわと進んでいく漫画だったと思います。それでも、ここまで読み続けてくださった方がいたことが、本当に励みになりました。読者の方に楽しんでもらえたらという思いで描いてきたので、読んでくださった皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。これから読んでくださる方にも、この作品ならではの面白さを楽しんでいただけたら嬉しいです。

■作品情報
『なんか聞こえる』
著者:にわの池
出版社:CLLENN
単話配信:https://book.dmm.com/product/6026440/s539ahuat03056/
単行本:https://book.dmm.com/product/6112175/s539ahuat04080/

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