米津玄師は『薬屋のひとりごと』の世界をどう表現した? 歌い継がれる“童謡”からの影響

米津玄師、『薬屋のひとりごと』どう表現?

 『劇場版 薬屋のひとりごと 亡妃の秘宝』の本予告と主題歌が10月22日に発表された。主題歌は米津玄師「春が灯り」で、巨大IPと人気アーティストの組み合わせとして、公開前から注目を集めている。

『劇場版 薬屋のひとりごと 亡妃の秘宝』主題歌入り本予告 【主題歌:米津玄師「春が灯り」】|2026年12月11日(金)公開

 『薬屋のひとりごと』は、日向夏による小説を原作とするシリーズ。架空の中華風帝国の後宮を舞台に、薬や毒の知識に長けた少女・猫猫が、宮廷で起こる数々の事件や謎を解き明かしていくミステリー作品だ。

12月9日には『小説 薬屋のひとりごと 亡妃の秘宝』も発売される

 小説投稿サイト発の作品として人気を広げ、ねこクラゲ作画と倉田三ノ路作画のふたつのコミカライズが並行して展開。2023年にはテレビアニメ化され、国内外で大きな支持を集めてきた。

 今回の主題歌発表に寄せたコメントで、米津は童謡「チューリップ」(1932年発表)や「あんたがたどこさ」(幕末〜明治誕生とされる)を参照したことに触れ、「人と人との間で生じる継承、その行く末は、必ずしも誰かの承認や公的な手続きを必要とせず、各々で勝手におさまり勝手に選び取っていくものだと思います」と綴っている。

 歌い継がれてきた歌。童謡を参照すること自体が、まさに「継承」そのものだ。特に「あんたがたどこさ」は、誰が作ったかも定かでないまま、世代から世代へと口伝えに受け渡されてきた曲。その質感を現代のポップスに織り込むという選択は、作品の核にあるものと静かに呼応している。

 というのも、原作『薬屋のひとりごと』は「継承」の物語でもあるからだ。わかりやすい例でいえば、壬氏の血筋に関することが挙げられるが、主人公・猫猫自身の薬師としての能力も養父からの教えで"受け継いだもの"だ。

 するとメインキャラだけでも、血によって受け渡されるもの(壬氏)と、知識のように血を介さず受け渡されるもの(猫猫)、2種類の継承が秘められている。

 では「春が灯り」は何を継承しているのだろうか。本予告で聴くことができる部分だと、後半に「チューリップ」に似たメロディモチーフが出てくるように聴こえたが、変則的なリズムに特徴がある「あんたがたどこさ」は確認できなかった。

 これは興味深い。もし「春が灯り」のフルバージョンが公開されたときにも、「あんたがたどこさ」の具体的な要素が見つからなかったとしたら——。それは恐らく米津自身が、DNAに刻まれた「継承」と、後天的な「継承」の2種類をあえて表現しているということにならないだろうか。

 血で受け継がれるものと、歌のように歌い継がれるもの。「春が灯り」がそのどちらか、あるいは両方を灯すのか。劇場でこの曲が流れるその瞬間を、楽しみに待ちたい。

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