「ZINE」イベント、なぜ全国で活況に? 作り手と買い手がダイレクトに繋がる熱狂

自身の思いを自由に表現し、個人やグループで自主制作する冊子や本=「ZINE(ジン)」の市場が盛り上がりを見せている。個々が思い思いにまとめたエッセイや小説、写真集やイラスト集、漫画や日記、雑誌スタイルのものなど、形もテーマもさまざまで、作り手の気持ちがストレートに反映されるZINEはバラエティ豊かだ。

作り手自身がZINEを売る即売会のイベントは年々参加者が増加する傾向にあり、とくに全国各地で展開されている「文学フリマ」や「ZINEフェス」は広く知られている。筆者自身、韓国俳優コン・ユが好きで、彼の主演ドラマ『トッケビ』愛があふれ出てしまい、今夏『わたしたちの韓国ドラマ』というエンタメZINEを初めて制作した。韓国通のお笑い芸人や韓国ドラマの韓日翻訳者といった裏方をはじめ、編集者、テレビ局の方、さらには小学生まで、いろいろな方に「好きな韓国ドラマTOP3」を取材。『トッケビ』韓国ロケ地巡りなどを掲載した雑誌スタイルに仕上げた。作ったからには売りたい。そう思い、初めて「ZINEフェス」と「文学フリマ」に出店した。

まずは「ZINEフェス」。ZINEを作るのも、出店者として参加するのも初めてという状況で、ZINEにまったく興味のないデパートの来客へ向け、即売会がスタートした。「ZINEフェス」は会場により入場料が異なるが、この日は無料での実施。ZINE以外に手作りのグッズを売るブースも多く、筆者は自身のZINEレーベル「Jellybooks」のシールを作り、ZINEや既刊本(商業出版した本も自身が関わるものは販売可能)とともに展示した。初出店者からよく出店するベテランまで、多様な顔ぶれだった。時折、立ち止まってZINEを手に取る方々と会話をし、実際に目の前で購入していただくと、喜びもひとしおだった。

翌月には、インテックス大阪2号館で開催された「文学フリマ」の大阪会場へ出店した。小説やエッセイといった読み物が中心で、有料開催を納得のうえ本好きが集うイベントだけあり、大盛況。今回の来場者数は7,396名(うち出店者2,312名)となり、「文学フリマ大阪」では過去最高だったそうだ。今度は東京ビッグサイトで開催される東京会場へ出店予定だが、大阪を上回る来場者数が予想されるだけに、気合が入る。

ここで、「文学フリマ大阪」をはじめ多数の即売イベントで長年の出店経験を持つユニット「パナトリエ」に話を聞いた。ご夫婦であるお二人は、韓国エンタメのマンガ評論誌や「Kホラー新聞」を手がけるイラストレーターのヤマグチタカシさんと、サークル「無敵スター」にて漫画『おやじメイド』シリーズを描く煉獄ゾルタン犬さんだ。
「文学フリマは東京も大阪も規模が大きくなり、盛り上がってきているのは間違いないです。僕が感じたのは、大阪会場に出店している人たちはZINEに熱い思いを乗せている人が多いということ。自らが作った一冊に懸ける思いが深く、熱い。売れても売れなくても参加することに意義があるという印象です。一方で東京会場の出店者は、ZINEが売れないと落ち込む人も見受けられますが、即売会において『自分が伝えたい内容をどれだけ成果として残せたか』を冷静に考える方が多いように思いました」と、ヤマグチさんは語る。
煉獄ゾルタン犬さんは、「いろいろな即売会に参加していますが、どのイベントも面白いです。手に取っていただけるのも嬉しいですが、通りすがりの人のファッションを見るのも楽しいですよ」と語る。この日の彼女は自身の漫画にちなんでかメイド服姿だったが、とてもよく似合っていた。ZINEのイベントによって出店者や来場者の様相は異なり、地域によっても多少雰囲気は変わってくる。来場者にとっては、一般流通されていないからこそのレアなZINEとの出会いは大きな喜びとなる。
ZINEは、活字に親しむことに慣れた大人世代だけでなく、若い世代からの人気も高い。出版不況といわれるなか、出版社を通さず自ら制作する紙のメディアがここまで多くの人たちに注目されているのはなぜなのだろうか。ここで、令和発の雑誌的カルチャーフェス「まちのZINEフェス」編集長の沖健汰さんと、株式会社Touten(トウテン)代表取締役の村山浩規さんに話を聞いた。沖さんは2024年に「ふたばZINEフェス」を立ち上げ、現在は関西を中心に文化施設やホールなど、街なかでのZINEイベントを展開し、地域活性化の力にもなっている。
「ZINE市場が盛り上がる理由のひとつとして、SNS疲れがあるのではないでしょうか。20代の僕より上の世代の方の話を聞くと、Windows 95の登場以降、インターネットですごく面白いことができるという希望があったのだろうなと。その後、一強といわれたTwitter(現X)とInstagramが席巻しましたが、逆に言えばみんながそのフォーマットでしか遊べなくなっていて。それらが実際に社会を動かし得る存在だということは、コロナ禍で浮き彫りになりました」と、沖さんは分析する。
さらに沖さんは、「僕らの世代はある意味、インターネットに希望がなくなっていて。基本的には誰しもが自分の何かを表現したいという気持ちを持ち、『ではどういうメディアで作っていきたいか』となった際、アナログ回帰となり、創造性を表現する場として紙に移行したと考えると納得がいきます」と続ける。デジタル世代だからこその紙のZINEの面白さがある一方、昔は「自主制作=自費出版は価格が高く、個人で作るにはハードルが高い」と思っていた年配層までもが、手軽に作ることができるZINEを楽しむ様子もあるという。
30代の村山さんは、「イベントに出店してくださる方もご来場くださる方も、年齢層には幅があります。70代の出店者の方がいらしたのですが、昔本を出したいと思いながらも自費出版を断念していたその方が、『今のZINEなら自分でも出せる』と出店されました。ほかにも、製本は高いというイメージを持っていた方には、『コピー用紙で印刷してホッチキスでとめるだけでもZINEですよ』とお話しすると、『カッコつけたりお金をかけたりしなくてもいいんだ』と驚かれます」と話す。
確かに、個人の思いを自由に詰め込んで届けられるZINEに縛りはない。手作りするからこそ自らの手売りは苦にならず、読み手側とダイレクトに会話することで得られる充足感がある。来場する側もまた、作り手が可視化されることでの安心感や興味深さが湧き、ZINEやイベントが右肩上がりに伸びていくのは必然であるのかもしれない。
最後に、ZINEの魅力について聞いてみると、「SNSで1行でつぶやくものを、ZINEではページ数を割いてより掘り下げ、自分の『好き』を追求できるところです。とことん好きなことを考え、表現するという醍醐味が生まれるのは面白いですね」と村山さんは語る。
「ZINEは、『手紙』のようなものなんです。たとえば年賀状だと明るいことを書かなくてはいけないですが、ZINEは明るいことだけではなく、心の中でモヤモヤすることも伝えていいし、知りたい人だけが読むことを前提に、思いのまま伝えることができる。距離感をうまく測れるメディアにもなるのが、ZINEの魅力ですね」と、沖さん。
「まちのZINEフェス」は関西を飛び出し、11月21日には広島県の東広島市市民文化センターで開催されるそうだ。今後も、「文学フリマ」や「ZINEフェス」をはじめ多様なZINEイベントから、個々の多彩なZINEが生まれるはず。これからもその動向に注目してみようと思う。























