【漫画】ヤクザBL史上、最高の愛『あなたを殺す旅』誕生の背景とは? 作者・浅井西に聞く、片岡と小田島への想い


人たらしで男前な若頭・片岡と、不愛想で寡黙な組員・小田島。極道同士の切ない愛を描いたBL漫画『あなたを殺す旅』(徳間書店)。“ヤクザBL史上、最高の愛”というキャッチフレーズがついた本作は、2025年に実写ドラマ化され、今年8月にはドラマの再編集劇場版が1週間限定で公開された。さらに10月8日からはドラマのSeason2がスタートする。9月25日には、『あなたを殺す旅』の過去と未来を描くサイドストーリー集『あなたを殺す旅SS』も刊行された。
国内のみならず海外からも熱烈な支持を集めている本作について、作者の浅井西にインタビューを実施。本作の成り立ちから、キャラクターに関する思い、制作秘話を語ってもらった。
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ヤクザBLの大きな魅力は刺青
――浅井さんはこれまでもさまざまなBL作品を描かれていますが、今作で極道の世界を舞台に選んだ理由を改めて教えていただきたいです。
浅井西(以下、浅井):最初に連載したレーベルが当時ヤクザかヤンキーものを専門としていたので、「どっちを選ぼうか」と考えヤクザを選びました。たくさんの人物が登場する群像劇は自分に向いていないと思っていたので、「じゃあ二人きりで逃避行させよう」と。私はヤクザに限らず、BLでは二人を海へ旅させる性癖がありまして。だから今回も、彼らを海へ旅させたいという気持ちが強かったですね。
――実際に描き始めて、ヤクザとBLの組み合わせに相性の良さを感じたことはありましたか?
浅井:相性はいいと思います。私は元々ヤクザ映画や時代劇が好きなんですが、男同士の精神的な結びつきみたいなものは、やはりBLの世界と似ているなと。特に上巻はラブラブという感じではないですが、大きな感情が相手に向いている部分はとてもBLだと思いながら描いていました。ヤクザBLの大きな魅力は刺青ですね。ラブシーンで服を脱いだときに、お互いの身体に刺青が入っているとやっぱり良いなと。作画は大変でしたが、その分、裸体が映えるので楽しくもありました。
――片岡と小田島は光と影のような対照的な性格ですが、どちらが先に生まれたのでしょうか。
浅井:片岡が先です。ああいう人たらしで残酷で、一瞬親しみを持ちそうになるけどやっぱり怖い人……というキャラクターはヤクザ映画におけるひとつの理想像なんですよね。自分の好きな創作の中のヤクザ像もあったので、「ヤクザの漫画を描くならやっぱりこういう人が描きたいな」と片岡のキャラクターは決まりました。
――小田島の健気さや片岡の強さといった各キャラクターの個性を表現する上で、こだわったポイントはありますか?
浅井:小田島は健気というか、中身が乙女なんですよね。目も細いし髪も短いし、見た目は全然乙女じゃない。そういう形で、内面と外見を逆にすることは意識した気がします。片岡は、顔立ちはもちろん目線や顔の角度から、人の上に立っていて当然の人間という感じが出るように意識しました。
――片岡と小田島の関係性を描く上で、二人の感情をどのように表現するか、意識されていたことはありますか?
浅井:特に上巻では、小田島の感情はセリフやモノローグではあまり説明していませんが、いろいろなコマの顔に意味を持たせています。「このとき小田島は無言だけど、きっとこういうことを考えてるんだろうな」っていうのは、漫画を2周、3周してもらえたら分かるように作りましたね。一方で、私は片岡の気持ちは描いてみるまで何も知らないし、計算もできないんですね。逆に私が片岡の何から何までを知っていて、計算して描いていたら、あんなに不思議な人にはなってないだろうなとも思いますね。今もあまりわからないのですが、実写ドラマを見て、「もしかしたらこういう人なのかな」って、少しだけ理解が進んだ気がします。
――制作する上で、特に気持ちが乗ったシーンや、「描けてよかった」と感じたシーンがあれば教えてください。
浅井:下巻の第10話で、片岡に「俺と生きろ」と言われた小田島が、初めて世界を受け入れたときの顔ですね。「やっとこういう顔ができるね、良かったね」と思いながら描いていました。同じ第10話の後半、二人がフェリーに乗っているシーンで片岡が小田島に「俺の死に顔見れるぜ」と言うときの表情は、大変でもあり、達成感もあり……という感じでした。
――このときの片岡の顔は、普段の余裕のある感じとは少し違いますよね。
浅井:そうなんです。片岡は、放っておいても周りの人が勝手に惚れる男なので、自分から欲しいものを取りに行ったことがないんです。だからこの瞬間は、片岡が生まれて初めて人を口説く場面です。照れを表現する頬の線を入れるかどうか、すごく迷いました。描いては消し、描いては消し、最終的には見えるか見えないかぐらいのタッチで入れるところに落ち着きました。片岡がこんな顔をするのは、きっと最初で最後でしょうね。今後、どれだけこの作品を描いても、この顔は二度としない気がします。
――9月25日には、片岡や小田島の過去などが描かれたサイドストーリー集『あなたを殺す旅SS』が発売されます。サイドストーリーを描くことで、新たに見えてきた部分はありますか?
浅井:片岡の過去は、上巻を描いたときから頭の中にあったので、今回機会をいただけてようやく形にできたなという感じですね。小田島の話は、どちらかというとドラマを見て、下巻を描くことで深まった部分が大きいですね。朝日(小田島の親友)が死んだ直後の話を描くことで、彼が小田島にとってどれだけ大きな存在だったか、より深く理解できた気がします。
――他にも実写ドラマをご覧になって印象に残った部分はありましたか?
浅井:実感したのは、小田島が本当に変な人だったということですね。小田島って、片岡が話しかけても基本スルーするじゃないですか。漫画だとそこまで気にならなかったんですが、役者さんの演技で拝見すると、「あ、こんなに人を無視するんだ……すごいな」と思いました。
――2020年に単行本が刊行され、現在までに本作がここまで多くの読者に届いたことについて、どう感じていますか?
浅井:当時から「続きを見たい」と言ってくださる読者さまは多かったんですが、機会に恵まれず心残りでした。その後ドラマ化が実現して、物語の続き、さらに彼らの未来や過去まで描かせていただけて嬉しかったです。ちょうど1年前にドラマのSeason1の試写上映会が開かれ、スクリーンに自分の名前が映ったときは、とても感慨深かったです。自分の中だけで終わっていたはずの物語が、ドラマを通してたくさんの方に届いて、改めて漫画も読んでいただけたり、原作の二人も好きになっていただけたりして。とても不思議な感覚もありますし、なにより本当にありがとうございますの一言ですね。
――改めて『あなたを殺す旅』という作品や、片岡と小田島に対して、今どんな思いを抱いていますか?
浅井:『あなたを殺す旅』は、自分の好きなヤクザ像をたくさん詰め込んだ作品で、本当に好きに描かせていただけたことに感謝しています。片岡に関しては、「こんな人は二度と描けないだろうな」といつも思いながら描いています。小田島には「いろんな表情ができるようになったね」と。二人とも、最後にちゃんと幸せになれて良かったなと思います。ずっと幸せに生きていってくれる二人です。
■書誌情報
『あなたを殺す旅SS』
著者:浅井 西
価格:902円
発売日:9月25日
レーベル:Charaコミックス
出版社:徳間書店
























