『ルックバック』原作漫画に“2回だけ”あるシーンとは? 描かれる「窓」と「風」の意味を考察

『ルックバック』原作に2回だけあるシーン

※本稿は一部『ルックバック』(集英社)のネタバレを含みます。

 藤野と京本という2人の少女が、漫画制作を通して関係を築く。その過程を描き「ジャンプ+」の史上最多閲覧数を記録し(※)、「このマンガがすごい!2022」オトコ編の第1位にも選ばれた『ルックバック』(集英社)。2024年のアニメ映画化を経て、是枝裕和監督による実写映画が2026年9月11日に公開された。
※=読切作品のみの集計。

©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2Pictures・集英社

 自分の部屋で絵を描きながら過ごしていた京本は、藤野とともに漫画を描くようになり、藤野の部屋へ足を運ぶようになる。2人が初めて共同制作した読切作品は漫画賞を獲得。手にした賞金で藤野たちはクレープ屋さんや映画館などを訪れたりなど、街での遊びを楽しむ。その日の帰り道、京本は「藤野ちゃん部屋から出してくれてありがとう」と口にした。

 藤野が京本を部屋の「外」へ連れ出したことは間違いない。ただ、果たして「外」へ連れ出してもらったのは京本だけなのだろうか。

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 部屋や室内を「内」とするならば、対照的なものとして存在する「外」。その違いの1つは「風」の有無ではないだろうか。「窓」が閉め切られた部屋の中、もとい完全に閉じた世界で「風」は一切吹かない。

 原作漫画では「風」の吹くシーンが2つ存在する。1つは物語の終盤、漫画家になった藤野が京本の部屋を久しぶりに訪れた場面。京本が記した4コマ漫画の用紙が「風」に吹かれ、扉の前で座り込む藤野の元へと届くワンシーンである。このシーンは本作のクライマックスとして、物語に欠かすことのできないものであろう。

 そんな重要なワンシーンと同じく「風」の吹く描写がもう1つ存在する。物語の序盤、藤野が京本に初めて出会った日の直後に描かれた、中学校の教室で藤野が1人机に向かうシーンだ。

 漫画を描くことから距離を置いていた藤野が、部屋から出てきた京本との出会いを経て、再びペンを持ち、机に向かう。そんな藤野の背中が描かれた場面であり、藤野の背後では「風」に吹かれたカーテンが揺れている。このシーンもクライマックスとともに、藤野にとって転換点となった場面と言えるのではないだろうか。

 なお、作中では前述したシーン以外の「窓」はすべて閉まった状態で描かれており、もちろん「風」が吹くような明確な描写は確認できない。象徴的なのは藤野が1人で商業連載を開始した直後のシーン。藤野の仕事場には大きな「窓」があるが、この「窓」には開閉に必要な留め具が存在せず、仕事場の「窓」から「風」が入ることはない。

 京本との出会いをきっかけに漫画制作を再開したことで、藤野の世界の「窓」は開き「風」が吹いた。京本を亡くしたことに自責の念を抱く藤野は「風」の吹く京本の部屋で4コマ漫画を手にし、目にして、再び歩み始めた。作中で描かれた2つのターニングポイントにはともに「風」の存在があった。ゆえに藤野の仕事場の「窓」、決して「風」が吹き入れることのない「窓」というモチーフは、京本と一緒に連載をすることのできなかった藤野が再び「内」へと閉じこもってしまったようにも感じ取れる。

©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2Pictures・集英社
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2Pictures・集英社

 藤野が京本を「外」へ物理的に連れ出したことは間違いない。ただ藤野もまた、京本に閉じた世界から「風」の吹く世界へ、「内」から「外」へと連れ出してもらった1人なのかもしれない。

 是枝監督の手掛けた実写映画では、中学生となった藤野と京本は漫画を共同で制作するために互いの家へ足を運び合い、漫画賞に応募するための読切作品『メタルパレード』を描く。その際に彼女たちはそれぞれの自宅の窓を開き、藤野・京本の訪れを知る。そのときに流れる劇伴のタイトルは「窓」(作曲:坂東祐大)である。

窓

 白鳥が舞い、草木が揺れ、音が生まれる。そんな「風」のある世界で、藤野と京本は漫画を描きながら息をする。実写映画『ルックバック』もまた、藤野や京本と同じく、観客を「外」へと連れ出してくれる、あるいは誰かの歩みを後押しするような作品であるはずだ。現に本稿の筆者であるわたしは作品の観賞を機に、本棚から原作漫画を手に取って、久しぶりに読み返し、再び藤野や京本について思い返す日々を送りながら、この拙文を記している。

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■公開情報
『ルックバック』
全国公開中
出演:出口夏希、蒔田彩珠、七瀬ふうり、岡田六花、菅田将暉、宮藤官九郎、野呂佳代、池田良、佐々木みゆ、山田真歩
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:坂東祐大
撮影:上野千蔵
企画・プロデューサー:小出大樹
後援:秋田県にかほ市
配給:K2 Pictures
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2Pictures・集英社
公式サイト:https://k2pic.com/film/lb/
公式X(旧Twitter):https://x.com/K2P_PR
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