【漫画】羽田空港の地下に眠るのは? 歴史を紐解き刀ときつねを描く『穴守稲荷さんの刀のお話』

 正月が近づき、初詣に神社へお参りに行く予定の人は多いだろう。東京都大田区にある穴守稲荷神社は、さまざまな物語が詰まった場所であり、もしお参りに行くのであれば、穴守稲荷神社の歴史に思いを馳せてみると良いかもしれない。

 Xに投稿された『穴守稲荷さんの刀のお話』では、穴守稲荷神社にまつわるいろいろなエピソードを1つの物語にまとめた、可愛らしくもあり、感慨深くもある作品だ。そんな本作を手がけた花繰あづみさん(@sannai901)に、制作秘話などの話を聞いた。(望月悠木)

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『穴守稲荷さんの刀のお話』(花繰あづみ)

羽田空港の滑走路の下に眠るおきつねさん

――なぜ『穴守稲荷さんの刀のお話』を制作したのですか?

花繰:2024年に穴守稲荷神社に参拝した時、お守りのご由緒書きに書かれた「羽田空港の滑走路の下には、今もたくさんのおきつねさんたちが眠っている」という神社さんの歴史に、ものすごく心を揺さぶられたんです。

――たしかに胸がドキッとする言葉ですね。

花繰:それで夏の献灯祭にあわせて『穴守稲荷さんのお話』という漫画を描いてSNSに上げたところ、ファンアートに寛容な穴守稲荷神社さんからお声がけをいただき、薄い本にして参拝された人たちに無料配布をしてもらいました。そして、「あの話の続編を描いてみませんか」とご縁をいただいて、クラウドファンディングのお手伝いという形で制作することになりました。

――穴守稲荷神社を描く際に意識したことは?

花繰:実際に神社に足を運び、お参りして手をあわせて祈って、境内を歩いて稲荷山に登って風を感じて、現実にあるあの場所で、そこにいた時に感じたことをそのまま描きました。

――本作のファクトチェックはどのように行いましたか?

花繰:シナリオが完成した段階で、穴守稲荷神社さん、御宝剣『稲荷宗近』復元奉納プロジェクトさんに確認してもらいました。細かくチェックとアドバイスをもらい、そのうえで私の「こうしたい」という思いがある部分は、それを大事にしてもらいました。

――各登場人物と穴守との会話シーンはファンタジーではありますが、ファンタジー要素はどのように調整しましたか?

花繰:各登場人物と穴守くん(おきつねさん)たちとの会話、つまりお祈りはファンタジーかもしれません。ただ、「祈っている本人には、ごく自然にいつも隣に感じている日常の存在で、自分の切実な願いを訴えかける現実の相手なのでは?」と考え、「そんな感じに穴守くんたちは、フィクションとノンフィクションの境目に住んでいるものかも」と考えながら調整しました。

――ストーリーはどのように組み立てていきましたか?

花繰:『穴守稲荷さんのお話』の続編ということで、稲荷宗近という刀と縁がありそうなエピソードを取り上げ、1つの物語としてまとめていきました。穴守稲荷神社さん、御宝剣『稲荷宗近』復元奉納プロジェクトさんからは「好きに描いていいですよ」と言ってもらい、伸び伸び描けました。ただ、戦争中~戦後のシーンを描くのは辛く、なかなか手が進まずに大変でした。

刀と飛行機の共通点

――狐たちはどのようにデザインしたのですか?

花繰:神様の使いなので、長く生きてはきたものの幼児のように純粋な性格で、ビジュアルは「とにかく可愛くなるように」と思い、まるっこく描きました。馬場のぼるさんの絵本『きつね村の山男』(こぐま社)の、きつねの群れがワラッと連なり、見分けはつかないんだけどもページ全体をあちこち飛び回ったり、物語の筋とは全然関係ないところで思い思いに可愛いことをしていたりする様子がとても好きで、「あんな感じがいいな」と思いながら描きました。

――穴守と各登場人物のやり取りもとても可愛らしく、ほっこりする内容でしたね。

花繰:読者に伝わりやすいよう、字が多いけれども、できるだけ大きくしました。また、短くわかりやすく、リズム良く、軽やかに、現代的で、やわらかく、乱暴にならないように意識しています。やはり乱暴で残酷な、人間同士の戦争に巻きこまれて無残に壊されてしまう物語なので、対照的になるように気をつけました。

――「戦争の恐ろしさ」はもちろん、「刀は人を傷つけるものではなく守るもの」が感じられる物語でした。改めて本作に込めた思いを教えてください。

花繰:刀が戦の道具として実際に使われることのなくなった現代、とくに神社に奉納されて祈りの対象となった刀は、人の心を守るためだけにある刃になりました。飛行機も、第二次世界大戦が終わり、今は戦闘機のかわりに多くの旅客機が空港から旅立っています。鋼鉄と人の技術の粋を集めて生まれ、「かつては武器として使われていた飛行機と刀は、よく似ているな」と思っています。稲荷宗近くんは、今日も羽田空港から旅立つ無数の飛行機を、滑走路の地中深くから、きっと見送っているでしょう。宗近くんが2026年に新しい旅に出て、これから1000年、「平和な世で人の心を守るためだけの刀になれますように」と心からの思いを込めました。

――今後はどのように漫画制作を進めていく予定ですか?

花繰:12月15日から、穴守稲荷御宝剣『稲荷宗近』復元奉納プロジェクトさんのクラウドファンディングが開始されます。「宝刀・稲荷宗近」が穴守さんに戻ってこられるよう、本作が何かの役に立てればと願っています。また、前作『穴守稲荷さんのお話』と本作『穴守稲荷さんの刀のお話』の冊子を社務所で無料配布しており、お参りされた際には、手にとってもらえると嬉しいです。今後は、毎日、健康で元気に長生きして、末永く漫画などを楽しく描いていけたらと思っています。

■「穴守稲荷御宝剣『稲荷宗近』復元奉納プロジェクト奉賛会」クラウドファンディング:https://readyfor.jp/projects/inari_mntk

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