2025.10.15 06:55

【漫画】会社の飲み会でのジョーク、どこまでなら許せる？　エッセイ『「おかしい」と思う自分に生まれてよかった』に共感

　漫画家は画力だけではなく、言葉選びのセンスも大切になる。Xに9月中旬に投稿された『「おかしい」と思う自分に生まれてよかった』は、藍さん（@ai_indigopro）が自身の胸に抱えたモヤモヤを描いたエッセイ漫画となっており、記されているいろいろな言葉を見ていると、自分自身の考え方や価値観と向き合いたくなってくる。
 
　現在は講師業と作家業を兼業しながら漫画制作に取り組んでいるという藍さんに、本作を制作した背景など話を聞いた。（望月悠木）

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『「おかしい」と思う自分に生まれてよかった』© AI / INDIGO PRODUCTS

【エッセイ漫画】『「おかしい」と思う自分に生まれてよかった』を読む

 仕事が多忙だった時に描いた作品

 ――『「おかしい」と思う自分に生まれてよかった』をはじめ、いろいろなエッセイ漫画を描かれていますね。
 
藍：2018年ごろに描くようになりました。当時は『ミリオンドール』の続編『ミリオンドールcitybeat』の連載開始、『ヲタ夫婦アイドルヲタクな2人はこうして結婚できました。』の2巻発売、NHK首都圏ネットワークのテレビ取材が同時進行していました。
 
――目まぐるしい日々を送っていたと。
 
藍：はい。当然関わる人が増えることにより、アシスタントやスタッフとの関係も悩むことが増えました。また、自分の環境が変わっていくことについていけず、思ったことを自由に話せる機会もなく、環境変化のストレスなのか過去のいろいろな出来事をフラッシュバックすることも多かったです。「そういった気持ちを吐き出さないとどうにかなってしまいそうだという自覚はあり」、スケッチブックに数時間で殴り書きのように描き上げたエッセイ漫画を時々noteに載せるようになりました。
 
――自身の嫌な過去を振り返る必要があり、『「おかしい」と思う自分に生まれてよかった』の制作は精神的にしんどかったように思いますが。
 
藍：本当におっしゃる通りで、私自身が読み返しても「つらかったんだな」と思ってしまうくらい精神的に追いつめられていた時期でした。とはいえ、今の私はすっかりその時の感情や描いたことを忘れていたことに気づきました。あまりに辛すぎて、描くことでトラウマやストレスを少しずつ捨てていたのかもしれません。
 
——描き終えた時の心境はどうでしたか？
 
藍：本作を描く時は「完全な自己満足で描く」と決め、ほぼ衝動で書き殴り、noteに投稿した際には他のSNSに共有もしませんでした。吐き出さなければいけないものを吐き出し、完成した時には少し楽になれたような気持ちになりましたが、また苦しくなっては別の何かを書き殴る、ということを繰り返していました。 

諦観にたどり着いた

——自身の教訓が描かれていましたが、説教くさくならないように意識したことは？
 
藍：上から目線にならないように気を付けていますが、計算して描いたわけではありません。「私はなんでこんなに面倒なやつなんだろう」「うまく世渡りができないんだろう」という挫折感があります。そのモヤモヤや疑問を突き詰めて考えた結果、「私ってこんな風にしか生きられない人だから、何度でも同じことをするんだろうな」という諦観にたどり着き、ああいった作品になりました。
 
――肩ひじ張らずに描いているのですね。
 
藍：そうですね。「誰かに教訓を伝えたい」というより、「自分はこういう仕方のない人間だけど生きていこうと思います」という諦めが作品のベースになっていることが、説教くささを緩和しているのかもしれません。
 
——作中の言葉をどのように決めていったのですか？
 
藍：スケッチブックに下書きなしの殴り書きなので、言葉は自分の中でその瞬間浮かんできたものを選んでいます。同じことをずっとぐるぐる考えていて、自然と何回も反芻した言葉が出てきたのかなと思っています。
 
——ラストに「『おかしい』と思う自分に、ようやく付き合う覚悟ができたばかり」と記されていましたが、現在は「おかしい」と思う自分とは上手く折り合いをつけながら生活を送れていますか？
 
藍：今でも理不尽な目にあった時、本作の最後の言葉を思い出すことがあります。「おかしい」と思う自分と上手く折り合いがついたのかは自分ではよくわかっていません。（笑）ただ、心を許せてなんでも相談できる友人がいて、愛する家族がいて、ストレスをネットの海に書き殴るしかなかったあの時よりは、対処方法が増えたと感じています。「おかしい」と思う自分に付き合ってくれる人がいてくれることが、当時と今の一番の変化かもしれません。
 
――今後の漫画制作の展望を教えてください。
 
藍：こういったエッセイをXやnoteにアップしているので、良かったらフォローして覗きに来てもらえると嬉しいです。また、11月24日の「コミティア」に参加予定で、来ていただけるとありがたいです。今年は創作活動の新たな目標ができて今準備をしているところなので、SNSで見守っていただければと思います。