【漫画試し読み】封印されし謎の美女といきなり夫婦関係に? 異彩を放つ和風戦記ファンタジー『石神戦記』がおもしろい
ドラマチックな愛の物語にして本格的な架空戦記
さらにもう1つの魅力として、個性豊かなキャラクターたちの人間ドラマについても触れておきたい。
たとえば主人公であるイサザとヤチホの関係性は、とてもドラマチックだ。2人の出会いは運命的な口づけから始まり、すぐさま“夫と妻”としての関係を築いていくことになるが、それは決して軽々しい契約ではない。
イサザはなりふり構わず家族を作ろうとするヤチホの切実な想いに触れたことで彼女の夫になることを決意し、逆にヤチホも少年でありながら勇気とやさしさをもって突き進むイサザに惚れ直していく。ヤチホがことあるごとに“子を成そう”として襲い掛かるというラブコメめいた描写も度々あり、シリアスなストーリーをやわらげてくれている。
なお、ヤチホが家族というものに強く執着している背景には、同じ種族同士では子を成すことができない「石の民」の性質と、語られざる彼女の過去が関係しているようだが、そのあたりの設定が徐々に掘り下げられていくのも同作の面白さだ。
また、瑞穂領と同盟的な関係を結んでいる江波領の人々も重要な役を担う。江波領は綿津見タイカイという人物が領主を務めていたが、王太子派の謀略によって毒を盛られてしまい、その息子たちが代わりに領地を治めることに。平和を好む長男のセイガイ、頭は堅いが実直な性格の次男・ウシオ、飄々としていてなにやら暗躍している様子もあるクセ者の三男・ミナト……。いずれも人間味あふれる人物だ。
ほかにも先王の弟・トオギや王太后、「石の民」の面々など、色々な思惑をもったキャラクターが数多く登場。それぞれの生き様が、激しい戦乱のなかで活き活きと描き出されていく様子は、戦記モノならではの読み心地と言っていいだろう。
さらに戦記モノとしての魅力といえば、次第に戦闘のスケールが壮大になっていくところもワクワクさせられる。作中では多くの兵士たちが競り合いながら“城攻め”を行うなど、個人と個人の戦いをはるかに超えた次元で戦局が動いていく。
「石の民」という不思議な民族の活躍や、少年の成長、運命の愛などを描く一方、本格的な戦記ファンタジーとしても作り込まれている『石神戦記』。今後は世界観の広がりと共に、さらに物語としてのボルテージが高まっていくはずなので、今のうちに読んでみることをオススメしたい。
『石神戦記』
出版社:双葉社