【連載】谷頭和希「話題のビジネス書」“ガチ”レビュー 「説得力」とは何かーー人気ビジネス書から考える
数多くの書籍が刊行されている中でも、特に隆盛なジャンルといえばビジネス書だ。総合ベストセラーランキングでも常にビジネス系書籍がランクインしているが、 売れているビジネス書は、どれも面白いと言えるのか? チェーンストア研究家であり、多くの書籍を濫読している谷頭和希氏が、話題のビジネス書を本音でレビューする連載企画。忖度抜きで斬り込みます!
ビジネス書や自己啓発本を読むとき、いつも気にするのが「説得力」だ。持論だが「優れた自己啓発本」は、その内容に関わらず「有無を言わさぬ説得力」を持っていると思う。
そんな視点から今回のお題の3冊を捉えてみよう。今回扱うのは下記のタイトルだ。
① 木下勝寿『悩まない人の考え方 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』
② 森永卓郎『投資依存症 こうしてあなたはババを引く』
③ 佐藤舞(サトマイ)『あっという間に人は死ぬから 『時間を食べつくすモンスター』の正体と倒し方』
■豊富な根拠で主張をインストールさせる
まずは木下勝寿『悩まない人の考え方 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』。北海道物産を扱う「北の達人コーポレーション」の創業者にして代表・木下勝寿の著作である。木下は『売上最小化、利益最大化の法則』などでもヒットを飛ばしたビジネス書・自己啓発本業界の注目の星。これまではどちらかといえばビジネス書っぽいものが多かったが、ここにきて伝統的な「自己啓発」感のある本をリリースした。
「なぜ人は悩むのか?」「どうやったら悩みを解決できるのか?」という疑問に対して筆者は、「私はここ20年以上、まともに悩んだことがない」と書く。そして、そんな人生の2大原則が「『思いどおりにいかない』と『うまくいかない』は違う」「問題は『解決』しなくてもいい」。
詳しくは本書を読んで欲しいが、両方とも人生で私たちがぶち当たる「問題」に対して、その見方を変え、冷静にその「うまくいかない」状況を解決する手段を考えることの重要性を説いている。簡単な話、「悩み」の捉え方を変えようぜ、というわけだ。
この本の主張は極論いえば、これだけである。そこに、それぞれの詳細な説明や具体例が続いていく。
説得力を高めているのは、こうした主張を支える豊富な具体例だ。文章は突き詰めて言えば、主張と根拠の2つのパーツがあればいい。あとは、その根拠をどれぐらいわかりやすく見せるかが重要。筆者の実体験から芸能界の話、伝説的な経営者のエピソードなど、あの手この手で筆者の主張が具体例とともに繰り返されていく。
優れた自己啓発本はテクノミュージックに近い。同じフレーズが繰り返され、いつの間にかそれが頭から離れなくなる。そのフレーズを支える低音が、具体例みたいなものだ。
ちなみに、本の見開きの一番最初には、「1日1つインストールする」とタイトルにある通り、本書で書かれている30の「思考アルゴリズム」のチェックシートが付いている。読者はこれを使って、1日1個、だんだんと自分の思考を直していくわけである。ちなみにだいたい1項目10ページぐらいで、忙しい人でも毎日1項目は読めるようになっている。こういう小さなところの工夫を見るにつけ、自己啓発書ってすごいよなあ、と思う。