異世界・転生作品、飽和状態でもなぜ人気が止まらない?  先行き不透明な現代社会の世相も関係か

異世界・転生もの出版ラッシュに変化なし

 書店に行っても、スマホでWEBコミックを見ても、とにかく目に付くのが異世界ファンタジー系の小説や漫画である。相次いでアニメ化もされているので、Netflixなどでもおなじみだ。現実世界の一般人が、異世界に転生もしくは召喚されるなどして、その能力で無双したり商売をしたりハーレムを作ったり世界を救ったりするのである。

 そんな異世界ファンタジーだが、ネット上では「もう飽きた」「おなかいっぱい」「もっと別の物語を読みたい」などと言われることが少なくない。しかし、それでも異世界物は売れ続けているのだ。現代人は異世界に何らかの憧憬を抱いているのは間違いない。では、なぜ異世界ファンタジーが受けるのだろうか。大きなポイントは以下の通りであろう。

1:不安定な社会を反映している

2:漫画の中くらいは自由になりたいという願望がある

3:ゲームが身近で世界観がわかりやすい

4:ストーリーの展開がある程度、想像がつく

 現実世界は相次ぐ地震や豪雨などの自然災害、そして先行きの見えない経済や社会問題、漠然とした心理的な不安などなど、しんどいことの方が思い浮かぶという人は多いことだろう。そんな現代を生きる人々は、たまに現実を忘れ、異世界に逃亡したい……などと思うことも多いのではないだろうか。筆者もそういうことがままある。

 そして、そんな異世界では自由に振る舞いたい、あわよくば貴族などの高貴な身分になって金持ち生活を送りたい、そんな思いを抱くはずである。異世界物の基本フォーマットといえば、主人公が現代社会で身につけたごく普通の能力をもとに無双できる物語が多くみられる。特殊な修行やトレーニングは必要ないのだ。

世相を如実に反映した世界観

 スポコン漫画全盛の昭和の時代は、主人公がひたすら修行をして、しんどい思いをして特殊能力を身につける物語が多かった。基本的に令和の異世界物は、辛い修行はしなくてもいいか、していたとしてもあっさりと済まされる。昭和的なスパルタや、努力も根性も必要ない。このあたりは現代人の感覚に合っているといえるのではないか。

  そして、異世界物のファンタジー的な設定は、ソーシャルゲームの世界観を踏襲している。ソシャゲはプレイ人口が多いため、物語の作り手側にもいちいち説明の手間が省けるメリットがある。そして、オチが少なくともバッドエンドではない物語が多いため、しんどい思いをしなくていいと、安心して読めるのもありがたいことだ。

 思えば、1950年代は空想科学物が全盛だったし、1960年代の高度経済成長期はスポコン漫画が流行した。2010~20年代のトレンドには異世界物が君臨し、時代を象徴するジャンルとして後世に語り継がれるのは間違いない。異世界物の隆盛は、異世界に行きたいと思わなくて済むほど社会情勢に変化が訪れない限りは、今後も続くのではないかと考えられる。

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