『偶発的ルネッサンス少女』『ラージャ』『黄泉のツガイ』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 1月のおすすめ新刊漫画
『ブブとミシェル ~雨上がりの天使~』コドモペーパー先生
ざらっとした古書のような質感の装丁も相まって、なんだか秘密の童話に触れているような気分になる『ブブとミシェル ~雨上がりの天使~』。
主人公は、両親を病で亡くし孤独に生きる少年・ミシェル。小さな村でミートパイを焼きながら生計を立てているミシェルだったが、ある日、不思議な卵を拾ったことをきっかけに物語が大きく動き出す。
切り絵や万年筆を駆使するという、コドモペーパー先生独自の創作スタイルで表現される唯一無二の温もりと懐かしさによって、さらに高まる“秘密の童話”感。だが、読み進めていくとすぐ隣にある得体の知れない不穏さにじわじわと気づく。
ーー「日曜日の朝に堕天使が降ってくる」「堕天使の死骸をミートパイに入れる」。なんだか暗雲が常に付き纏っているような、ページをめくるたびに妖しげな設定が明らかになっていく。どうやら綺麗なだけじゃない、怖い“何か”がこの物語の奥底で息を潜めているように感じるのだ。
思い返せば、いつだって童話にはもれなく得体の知れない怖さがついてきた気がする。例えば、「赤ずきん」では突然オオカミのお腹を切り裂くし、「ヘンゼルとグレーテル」では魔女を焼き殺したり......あの突然暗転するような感覚。となると、私が『ブブとミシェル ~雨上がりの天使~』に感じた“秘密の童話”という感覚はあながち間違っていなかったのかもしれない。
とっても可愛くって、でもどこか妖しくって怖い.......。そんなコドモペーパーワールドへとぜひ足を踏み入れてほしい。
『にゃーの恩返し ~2人と1匹のウチごはん~』山崎紗也夏先生
『サイレーン』『シマシマ』『はるか17』など幅広いジャンルでヒット作を生み出されてきた山崎紗也夏先生にとって初となる献立マンガ『にゃーの恩返し ~2人と1匹のウチごはん~』。
物語の舞台はとある同棲中カップルのお部屋。そこで暮らすのはシュウくんとアヤちゃん、そして飼い猫のミケ。シュウくんとアヤちゃんは、仕事や寝るタイミングが合わず最近はすれ違ってばかりだけれど、いつも丁寧に作り置きされている“美味しいごはん”があるからなんとか円満に暮らしている。そんな2人を繋ぐごはんだが、実は飼い猫のミケが人間に変身して作っているのである。
プロの家事代行並の手際の良さで、冷蔵庫の残り物やスーパーのセール品を駆使し毎日の献立を考え、バランスの良い食事を作るミケ。当然、2人はミケが作っているなんて思わず、すれ違い生活がうまく作用してお互いが作っていると思い込んでいる。
ミケが手掛ける料理は、タッパーに入れておくだけで簡単に完成する副菜や、フライパンで一気に焼き上げるだけで完成するメイン料理など、工程がとにかく手軽だから、実際にトライしてみたい魅力に溢れている。マンガとして楽しむのはもちろん、レシピ本として活用できる......プラスアルファの楽しみがある作品だ。
また、個人的には、シュウくんとアヤちゃんが食べているシーンにたまらなくときめいてしまう。同じ料理にも関わらず、シュウくんとアヤちゃんは各々オリジナルアレンジを施して食べるのだが、例えばアヤちゃんは晩酌したい派だから、必ずお酒と合うようにトッピングを加えるし、シュウくんはタッパーからお皿に料理をうつして、定食風にしていただく。そんな各キャラクターの性格や、食の好みが滲み出ている細やかな描写によって、料理のシーンが一層リアルなものとして迫ってくる。
なんてことを書いていたら、ミケが作る「ササミピーマン」を思い出してついお腹が鳴ってしまった。今晩はミケのレシピを真似して作ってみようか、いや「トリナスポン酢」も良いな......なんて、心はもちろん、胃袋までガッツリ掴まれている今日この頃。