【漫画】目指すべき「普通」の生き方とは? 落ちこぼれの女神が気づきを得る漫画が深い
ーー今回の反響に関する感想は?
ののもとむむむ(以下、ののもと):目の前の作業から逃避するためにデータの整理をしていたら、この漫画がひょっこり出てきたので、軽い気持ちで投稿しました。3年前の作品なので見返すと漫画としては拙い部分も多いなと感じていたので、正直ここまで読んでいただけたことに戸惑いを隠せません。
おそらく「普通」という優しさと粗暴さを兼ね備え、さまざまな意味で多くの人を振り回している言葉を使ったことで、琴線に触れられた方が多くいらっしゃったのかなと。
ーー本作を創作したきっかけは?
ののもと:当時は勤め先を病気でやめたり、バイトもうまくいかなかったりで「普通の人生を送りたかった」と思うことが多く、それをただ単に日記のように描いても楽しくなかったので、何か物語の形で昇華しようと思って描いたのがきっかけだったと思います。
あとは創作当時に読んでいた本の影響でカオス理論やグノーシス主義とかにハマっていた時期でもあったので、その辺りの影響もあるような気がします。なんとなく厭世的な雰囲気もありますし、当時はすごく荒んでいたので……。
ーー天啓を待つ人間が象徴するものを教えてください。
ののもと:これは自分自身が「指示待ち人間」と揶揄されたことに対する一種の自虐です。あとは確か、セスジスズメという蛾の幼虫のフォルムが好きで、それに影響を受けたような気がします。
ーー本作は主人公・リリイが教壇に立ち、自身の気づきを生徒に話すという展開で幕が閉じました。
ののもと:わたしたちが生まれて最初に「普通」もしくは「規範」を教わるのは親族であることが多いですが、それ以降「普通」を与えてくれる第三者は誰かというと、やはり教師が例に挙げられるでしょう。
しかし教師であるリリイが「普通」について教授するということはある種の矛盾があります。「普通」を与える教師が「『普通』で悩まないようにする」という慈悲を生徒に与える。ただ教壇に立っている時点でその慈悲は「規範」であり、「普通」に組み込まれてしまう。
リリイは「普通」からは逃れられていません。「普通」の形態が変わり、少しだけ風通しがよくなっただけです。
ーー教壇に立つリリイを尻尾と翼の生えた存在として描いた思いは?
ののもと:「普通」という言葉によって縛られた「神」という存在から飛び立ち、「悪魔」となったという比喩です。普通「悪魔」になる際には「堕ちる」というイメージを用いますが、リリイにとっては「普通」からの脱却は「堕天」ではなく「昇悪」とも言えるのかなと思ったので……。
ーーこれまでリアルサウンドブックはののもとさんに『心を込めて心を砕く話』や『家の近くの古墳(評価:★☆☆☆☆)に行ったまんが』について伺ってきました。本作含めののもとさんの作品からは、たしかな個性を感じます。
ののもと:この漫画を描いている時期は、他の漫画描きさんに対する劣等感もあってか、漫画のインプットを極端に避けていた時期でした。その分音楽や読書を通して、得られたものを漫画に起こすという工程で漫画を描いていました。自分の漫画はそうした劣等感による忌避から生まれたものなのだと思っています。
ちなみにしばらくして友人から「漫画は相対的なものだから、絶対的な良し悪しなんてないんですよ」と言われたのをきっかけに、自分の漫画に自信を持つまでにはいかなくても、過度に比較するようなことは無くなりました。
ーー今後の活動について教えてください
ののもと:今は漫画として幅広く読んでもらえるものを描きたいです。読んでもらえるもの。わかりやすいもの。読む人が「このキャラバカだな~」とか「元気だな~」とかって思ってもらえるもの。雑誌に掲載して、紙の媒体で自分の作品が載っているのをみて、自分の本が単行本として並んでいるのを見てみたいです。
今は悪魔と漫画家がギャグやったりラブコメやったりする漫画『ネルネと原さん』をTwitterで投稿しているので、よかったら読んでみてください。不動産会社が経営している漫画サイト『サンズハウス』では(原作は別の方ですが)コミカライズ漫画『TOKYO2020』も描いているので、よかったら……。
■『サンズハウス』で連載中の作品『TOKYO2020』はこちら!
https://suns-house.com/comic/list