【漫画】陰キャ男子学生が机に落書きをしたら……? 他者から反応を得る喜びを描いた漫画に注目

 ――こちらの作品は全編ではないそうなのですが、ひとつの作品として完結しているように見えました。

水あさと(以下、水):それなりに見せられるようにページ数を調整していったので、ひとつの作品だと言えます。

――制作経緯も教えてください。

水:もともとは同人誌即売会「コミティア」のために描いた作品です。頭に思い浮かんだ作品を落とし込みました。自分自身も「陽の者」ではないので、主人公に自分の感情を投影している部分はありますね。学生時代も明るくて元気なクラスメイトたちを遠くで見ていました。

 机に落書きしていたことはありましたが、反応はなかったのでそこはファンタジーです。完全にではないのですが、自分の体験をひとつ入れることでリアリティが増すんです。それから「陽キャを見返してやる」というよりも「自分は自分の道を行こう」という形で描こうとは心がけましたね。

――特に描きたかった部分などはありますか。

水:ふたりが落書きを通して出会う過程を描きたかったですね。自分もこんな感じで孤独に漫画を描いていた時期があって、でも心のどこかで「誰かに見てほしい」と思っていたんです。

――鑑賞者からの「反応を得る」ことについて、どういうことだと今は理解されてますか?

水:描くための励みです。反応がないまま描き続けられる人は少ないと思いますよ。「反応のために描く」という訳ではないのですが、ないと何を描いているのかわからなくなる時もあったり。

 でも自分も読んだ全作品の感想をSNSに上げている訳ではないので、無理に反応する必要はないと思いますが、気が向いたら(笑)。誰もが逃れられない承認欲求をソフトに表現した作品でもありました。

――後半の落書きでコミュニケーションが展開していくドリーミーな表現を描く時はどんなイメージなのでしょう?

水:あの幻想的なカットはふたりが落書きで会話をする感じをダイジェスト的に表現していて、私も一番好きな場面です。長い時間の経過と楽しさが演出できるように注意して描きました。彼がどんな絵を描いているのか、その絵柄をも含め、とても悩みましたね。

 彼は自分のことを下手と言いますが、実際この年齢でここまで描ける人はいません。でもここで本当に下手に描いたら物語的に進まないので、いくつか描いてみて最終的に等身の低いコロっとした絵柄に落ち着いたんです。

――完全版はまだまだ物語が続いていくのでしょうか。

水:そうですね。全部で34ページあるので、まだ全体の3割ほどです。実際に同人誌を手に取っていただくか、これから電子書籍も準備するので、ぜひそちらで読んでほしいですね。

――今後の構想は?

水:前回の連載作『阿波連さんは はかれない』はキャラクターメインの内容だったので、『君の世界が見たい』のようなストーリーが強い漫画を引き続き描いていきたいです。

■書籍情報
『君の世界が見たい 水あさと同人誌シリーズ』
水あさと 著
5月27日発売

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