『ONE PIECE』なぜ今、サンジはこんなに熱いのか? “最も人間くさい男”になるまで

※本稿は『ONE PIECE』(ワンピース)、ホールケーキアイランド編以降のネタバレを含みます。

 男気に満ちているものの、女性の前では軽薄な態度をとりがちなキザ男──。初期の『ONE PIECE』しか知らない人は、サンジというキャラクターに対して、そんなイメージを抱いているかもしれない。

 しかし現在のサンジは軽薄どころか、誰よりも深みがある“人間くさい”人物として、改めて注目を集めている。作者・尾田栄一郎がいかにしてその人物像をアップデートしていったのか、これまでの軌跡を振り返ってみよう。

 サンジが初めて読者たちの前に姿を現した時、彼は東の海(イーストブルー)にある海上レストラン「バラティエ」で働いていた。その後、第227話では自身の生まれが北の海(ノースブルー)であることを告白。ところがそれ以降しばらくの間、詳しい出自が掘り下げられることはなかった。

 状況が変わったのは2016年のことだ。前年に尾田が放った「来年はサンジの年です」という宣言の通り、ホールケーキアイランド編にて出生の秘密が明かされていく。

 サンジの正体は、北の海で悪名を馳せた海遊国家「ジェルマ王国」の第三王子。血統因子の操作によって生み出された、一種の改造人間だ。

 しかし改造に成功して超人のような力を得た兄弟たちと違い、サンジは人間らしい肉体と感情をもつ落ちこぼれだった。そこで父親のヴィンスモーク・ジャッジからは「一族の恥」と罵られ、しまいには“生まれなかったもの”扱いを受けることに。姉・レイジュの手助けで脱出するまで、孤独な監禁生活を送っていたという。

 ところで、サンジの人柄を示す重要なキーワードとして、「騎士道精神」を外すことはできないだろう。絶対に女性には手をあげないという鉄の掟だが、これを教えたのは生みの親であるジャッジではない。「バラティエ」で働き始めた後、育ての親である赫足のゼフが伝授した教えだ。

 ゼフはもしサンジが男の道を踏み外した際には、自らの命をもって償うと宣言していた。それこそが「親」としての落とし前だと言い放ったゼフの姿に、サンジがどれほどの影響を受けたのか、想像することすら難しい。

 また、2人が出会うことになった遭難事件の際、ゼフが自分の足を失ってまでサンジの命を救おうとしたことも、その人間性に大きな影響を及ぼしたはずだ。

残酷な父親と、感情のない兄弟たちに囲まれながら、誰よりも愛情が深い人間に育ったサンジ。いわばホールケーキアイランド編は、そのやさしさの源泉を描き出す話だったと言える。

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