「このマンガがすごい! 2023」オトコ編1位『光が死んだ夏』が告げる新時代 マンガ好きなら作者・モクモクれんに注目を
12月14日に発売が迫る『このマンガがすごい! 2023』(宝島社)にて、オトコ編第1位に『光が死んだ夏』(モクモクれん)が選出されたことが明らかになった。
「ホラー×ブロマンス」というフックのある内容で、ネット上ではバズを起こしてきた本作だが、ウェブやアプリでマンガを読む習慣がない人にも広く知られていたとは言いがたく、一般に注目度の高い“賞”を受けたことが喜ばしい。物語だけでなく演出力に優れた作品で、マンガ好きは本作だけでなく、作者・モクモクれん氏にも注目しておきたい。
男子高校生ふたりの関係性と怪異を描いた「ホラー×ブロマンス」……と説明すると一般受けしづらいマニアックな作品に思われるかもしれないが、まずは先入観を捨てて読まれたい。舞台は閉塞感のある田舎町。ある夏の日、よしきは大切な友人・光が人ならざる“ナニカ”と入れ替わっていることに気づくーー。
「まさにこれから読む」という人も多そうなタイミングなので具体的なネタバレは控えるが、過剰な説明がなく、絵の力で読ませられる感覚は「映像体験」に近い。たとえば、漫画表現として重用されている「アセ(汗)」や「青筋/血管」などの“記号”をあまり使わず、怒りや焦りを登場人物の”行動”で示す細やかさ。その一方で、聞き慣れない擬音を大胆に使う場面もあり、“音”を感じさせる演出で読者を作品の世界に引き込んでいく。
これはもちろん、作者のセンスによるところもあるが、天然ではなく意識的に演出されていることが末恐ろしい。当サイトインタビュー「話題の青春ホラー漫画『光が死んだ夏』作者が明かす、“恐怖”を表現するためのこだわり」(https://realsound.jp/book/2022/07/post-1067327.html)でモクモクれん氏は、「読ませたいものがある時は、それがどれくらいの配分で読者の目に入ってくるのか、という割合は意識しています」と語るなど、客観的で明確な目的を持って作画していることがわかる。
つまり、たまたま「ホラー」や「ブロマンス」というモチーフに得意な演出がハマったということではなく、このクオリティは別作品でも再現可能なのだ。本作では「美しさ」や「無邪気さ」のような「恐ろしさ」と紙一重の感覚をうまく使い、吊り橋効果のような形で読者をドキドキ・ハラハラさせているが、この演出力で別ジャンルの作品を描くとどうなるか、気が早くも読んでみたくなる。たとえば、バトルマンガなら『チェンソーマン』(藤本タツキ)のように、不穏で愛らしい作品が生まれるかもしれない。
Twitterで注目を浴び、TikTokでバズを起こすという、新時代のスター漫画家として登場したモクモクれん氏と、すでにその出世作と言える『光が死んだ夏』。ホラーが極端に苦手な人は注意が必要だが、この機会にぜひチェックしていただきたい。