【漫画】別れてから気づいた夫の意外な一面とは? 漫画『COFFEE AND TIES』がコーヒーのようにほろ苦い
ーー作中の様々な描写から、それが意味するものや背景など、想像を掻き立てる作品でした。創作のきっかけを教えてください。
遠藤平介(以下、遠藤):人間関係や思い出など、人生っていうのは色んなものを失っていくものだと思います。ただ本とか、1杯のコーヒーとか、アイテムを通じて過去を思い出し懐かしく思う。そんな切ないワンシーンが私は好きで。そんなことを自分の漫画作品で表現できたらと思い、本作を描き上げました。
ーー本作においてコーヒーの存在は女性の心情に影響を与えていたものであったと感じています。
遠藤:私自身、ほんの1杯の温かさに救われることがありました。温かな飲み物から感じる安心感は多くの人が共感できるものだと思い、作中で温かいコーヒーを描きました。
映画『ショート・カッツ』のなかで、子どもを亡くした夫婦にパン屋さんが温かいパンを差し出すシーンがあります。そのシーンを見た際に温かいものを体のなかに入れることはとても大事なことだと感じました。そんな気づきも本作に影響していると思います。
ーーなぜ夫であった男性はコーヒーではなくお茶をふるまったのですか。
遠藤:妻にとってコーヒーは夫を象徴する飲み物でした。そんな夫がお茶を飲んでいるという事実は、知らない間に夫が変わってしまったこと、思い出が風化し妻と夫はどんどん離れていくことを表しています。夫のなかでコーヒーの存在が少し消えていたのです。
ーー娘である女の子がココアではなくカフェオレを選んだ理由を教えてください。
遠藤:本作のタイトルが『COFFEE AND TIES』であるので、娘の選んだ飲み物もコーヒーに関するものにしたかったためです。子どもは何歳からコーヒーを何歳から飲めるのかなど調べ、本作ではカフェオレにしました。
作中でコーヒーを繰り返し描くことで、読者の方にコーヒーと温かさが結びつくことを印象付けたいという思いがありました。
ーー妻であった女性の日記にまつわる回想シーンを描いた意図を教えてください。
遠藤:あの場面は作品のテーマである“喪失”を表現したものです。作品のテーマを印象づけるために、ほかのコマよりも大きく描くことを意識していました。
ーー女性が喪失したものとは。
遠藤:夫という存在です。妻にとって夫は大きな存在であり、彼女には夫がいつでも自分を受け入れてくれるという思いや甘さがありました。ただ夫にとって妻であった女性の存在は、結婚相手から同じ子どもがいる親という認識に変化していたんです。
妻のなかでは再び一緒になれるかもしれないという考えがあると思いますが、彼女と夫が復縁することはないと思います。ただ娘さんは母親を必要としており、そのことは本作における救いだと思います。
ーー遠藤さんは600本以上の作品をSNSに投稿しているかと思います。創作活動に対する思いを教えてください。
遠藤:漫画作品を描くことは好きなキャラクターで好きな物語を自給自足できて楽しいんです。そんな気持ちから10年以上にわたり作品を描き続け、まるで雪だるまのように、作品の数が少しずつ膨れ上がったのだと思います。
ーー創作活動を継続できる秘訣を教えてください。
遠藤:過去にブラスバンドをやっていたのですが、練習を1日休んだことを取り返すのには3日はかかると言われたことを覚えています。当時の教えが自身に刷り込まれたことが、漫画を描き続けていることにもつながっているのだと思います。
ーー今後の活動について教えてください。
遠藤:現在はSNSにひとつのストーリーに沿った漫画を定期的に投稿しているのですが、長編の作品であるため私が死ぬまでに物語が完結するかわかりません。ストーカーや売れない女優さんが登場するお話なのですが、子どものころから描きたかった物語であるため、今とても楽しいです。死ぬまでに物語を終わらせられたらいいなと思っています。
私は40歳くらいのとき「自分は漫画を描きたかった」ということに気づき、創作活動を始め、10年以上漫画を描き続けてきました。人生、どんなことでも続けることができれば、いつかやりたかったことが実現できるのだと感じています。あきらめてはいけないこと、年齢にこだわらなくていいことを読者の方にお伝えしたいです。