勢喜遊(King Gnu)とYohji Igarashi 稀代のユニットによる異能の生命力、生み出された“ドラマ”のすべて

 King Gnuのドラマーとして日本のロックシーンの最前線を走る勢喜遊と、トラックメイカー/DJとして数々のアーティストの作品に関わり、先鋭的なクラブシーンとメインストリームをコネクトしてきたYohji Igarashi。稀代のスペシャリストふたりによるユニット「Yu Seki & Yohji Igarashi」が初のワンマンツアーを大阪、東京で開催した。ここに掲載するのはその最終公演、10月29日・Zepp Shinjuku (TOKYO)でのショーの模様である。

Yu Seki(Photo by Takao Iwasawa)
Yohji Igarashi(Photo by Takao Iwasawa)

 トラックメイカーとドラマーがコラボレーションする例は数あれど、このYu Seki & Yohji Igarashiは、そのどれとも違っている。昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL’25』での初パフォーマンスを観た時からそう感じていたが、その後リリースされた楽曲を聴き、そして今回のライブを観て、あらためてそれを強く実感した。シーケンサーやサンプラーから繰り出されるデジタルサウンドと生のドラム。両者の強みをぶつけ合うだけでも、両者にないものを補い合うだけでもない、絶えずテンションの高い綱引きをし、その関係性を目まぐるしく入れ替えながら、ふたつの音がひとつの有機的な世界を生み出していく――Zepp Shinjukuで筆者の眼前に繰り広げられたのは、引力で引かれ合った岩石がやがて大きな惑星を成していくような、ビッグスケールのスペクタクルだった。

Photo by Takao Iwasawa
Photo by Shohei Kashima
Photo by Takao Iwasawa

 ステージを覆っていた黒幕が開き、全面に張られた紗幕の向こうにリングを重ねたような形状のふたつのブースが姿を現す。向かって左手にIgarashi、右手に勢喜。そして歓声のなか、BPM140のキックが鳴り出す。そのリズムがワイルドなドラムビートへと展開していき、それを今度はうねるようなベースラインが引き継ぐ。「techwav_1」だ。ぐんぐん広がっていく音にフロアが揺れる。ブースの外周がビカビカと光り、紗幕に”Y”のグラフィックが投影される。そこから「SUPERMARKET」で紗幕が落ち、ふたりの姿がはっきりと見えるようになるまでの15分間くらいが、いわばショーのオープニングセクションなのだが、もうそれだけで「めちゃくちゃ面白いことになりそうだぞ」というのがわかる。というか、めちゃくちゃ面白い。直線的なリズムとスペーシーなシンセサウンド、それ自体が問答無用でアガるものになっているのだが、そこに絶妙な揺らぎを持ったドラムが加わることでサウンド全体が色と温度を持ち始め、ダイナミックなドラマが生まれていく。

Photo by Takao Iwasawa
Photo by Takao Iwasawa

 勢喜はもちろん卓抜したテクニシャンであると同時に、とても豊かな表現力を持ったドラマーである。土台として曲を支えるばかりか、場所によってはリード楽器のように曲の風景を拡張し、色づけていくさまを、我々はKing Gnuで何度も目撃してきた。そんな彼のドラムのあり方は、このユニットでも同じだ。いわゆる上モノはIgarashiのトラックが担っているのだが、時と場合によっては、ドラムのシンバルやハイハットがまるでメロディを奏でるように聴こえてくる。ノンストップで打ち鳴らされるビートの上で、ふたりの音の立ち位置がまるでジャムセッションのように変化していくのだ。そのうねりや波がグルーヴとなってオーディエンスを踊らせる。生命力の塊のような音楽だ。

Photo by Takao Iwasawa
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 そして、ついにたどり着いた「SUPERMARKET」が、早くも最初のハイライトを描き出した。レーザーがバンバン飛び交うなか、渾身の力でドラムを叩き切った勢喜が両手を挙げる。割れんばかりの歓声が会場を包み込み、加速するビートとともに、ライブはとんでもない狂騒へと突入していった。野心的な実験の場であると同時に、ダンスミュージックである以上、このユニットが作り出すものは最高の遊び場でもあるわけだが、それを証明するように、中盤では次々とゲストが登場して、オーディエンスを巻き込み、この超ハイクオリティでチャレンジングなサウンドを格好の“おもちゃ”にしていったのだ。その皮切りとして登場したのは、シンガーソングライターであり、トランペット奏者でもある寺久保伶矢。暗転したステージの真ん中に立った彼を眩しいライトが照らし出すと、トランペットの音色が朗々と響き渡った。「行くぞ、東京!」。「HYH」では、そう言って歌いながらこぶしを振り回す寺久保の後ろで、勢喜とIgarashiもタオルを回している。ふたりだけだと、どこまで行ってもストイック、あるいは内圧が高まり続けていくようなセッションになっていくが、そこにアジテーターの役割も担うボーカリストが入ることで、俄然場の空気は開けていく。さらに舞台袖からベースをぶら下げた男が姿を現す。言うまでもなく、新井和輝だ。ベースとトランペットがスリリングなデッドヒートを繰り広げ、サウンドは一気に分厚く、そしてさらに生々しくなる。

Photo by Shohei Kashima
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 寺久保を送り出すと、勢喜が突如ロックンロールなビートを叩き始める。「どすこいしてますか?」と躍り出てきたのは、おなじみCota Mori(PERIMETRON)である。カメラマンのカメラを引っ掴んで自撮りしたり、ブースのリングによじ登ったり、やりたい放題である。そこに聞こえてくる「おい、東京、行けんのか? 最終日だぞ!」の声。登場してきたその声の主は、ラッパーのHANATANIである。Moriとふたりでステージを闊歩しながら披露される「BAMBOO」、HANATANIひとりで低音の利いたラップを繰り出す未発表曲「wagwan」。彼が去っていく頃には、Zepp Shinjukuはパーティーの絶頂を迎えていた。

Photo by Shohei Kashima
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Photo by Takao Iwasawa

 「こっから最後までぶち上げていくぞ!」――ゲストが去り再びふたりだけになったステージで勢喜が叫ぶ。そしてその通り、ここからライブはクライマックスの連続のような時間を生み出していった。細かく刻まれる電流のようなリズムが、ドラマチックなシンセのレイヤーが、もうとっくに最高潮を迎えているオーディエンスのボルテージにさらなる拍車をかけていく。雷のようなドラムが鳴り響くなか、ラッパー・Watsonがステージに出てくる。披露されるのは、もちろん最新シングル「Stones feat. Watson」だ。一度聴いたら耳から離れないWatsonの独特のフロウが唸りを上げると、フロアからは「うおおお!」と地鳴りのような声が上がったのだった。

Photo by Shohei Kashima
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 高速ドラムンベースとトランシーなシンセがさらなるピークを描き出す、その名も「Last Dance」を経て、勢喜のドラムソロがそのピークをもう一段押し上げる。ロックバンドのライブだと箸休め的な位置に置かれがちなドラムソロだが、それをこのクライマックスに持ってくること自体がこのユニットの特異性、そして勢喜遊というドラマーの凄みを見せつけるようだ。ラストはユニットの最初のリリースとなった「Say Less」。再びステージに戻ってきたHANATANIとともに残るエネルギーすべてを注ぎ込むような熱演を繰り広げると、約70分という時間に対して異常に密度の高いライブは、終わりを迎えたのだった。

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