PANAMレーベル 生誕55周年記念インタビュー:倉品翔(GOOD BYE APRIL)編「本質的なところでつながっている」 “あの時代”の礎を作った旋律
南佳孝の音楽は「すごくロマンチック」
――バンド内では、どんな会話をしていたんですか。
倉品:原曲もそうですけど、ボッサ調で、普段僕らがやってきたジャンルではなかったんです。ただ、こういう曲調、こういう温度感の演奏だからこそ、年輪が見えるという感じがすごくあって。メンバーとも、楽曲の抑揚や、今の自分たちが年を重ねてきたからこそできるアンサンブルを目指したいよね、と話しました。繊細なアプローチですけど、5年前、ましてや10年前の自分たちには、とてもできなかった温度感のプレイだと思います。
力を入れずに、でも楽器自体はしっかり鳴らす。そこに力みはまったくない。それは「She's Summer Blue」の歌い方にも通じると思うんですけど、プレイヤーの力が強すぎると、楽曲から立ち上るムードを邪魔してしまう時があるんです。この曲はソフトな質感のなかに、ちょっと熱いものもある。そのバランスが大事だと思ったので、演奏の温度感をみんなで揃えられるように、それぞれ意識していたんじゃないかと思います。
――そこに、佐橋さんやDr.kyOnさん、はらかなこさんたちの音も加わっていく。
倉品:佐橋さんのデモがあったうえで、レコーディング当日はみんなで、せーので録ったんです。kyOnさんにはあとからアコーディオンなどをダビングしていただきましたけど、みんなで同時に録りました。すごく楽しかったです。なんなら歌も、佳孝さんと同時に歌いました。ブースは分かれていたんですけど。
――それはすごい。どんな感覚でしたか。
倉品:1回目は、間合いがちょっと合わないところもあったんです。でも、歌が進むうちに僕も佳孝さんの間合いを感じながら歌えるようになって。そんなにテイクは重ねることなく、最後はふたつの歌が重なりすぎて、ひとつになるぐらいの感覚がありました。完成した音源を聴いていただいても、歌い出しや1番のサビ、最後のサビでは、呼吸の合いっぷりが少し違うと思います。同時に歌って、お互いにそれを感じていたので、曲が進むなかでシンクロ率がどんどん上がっていく。ラストのサビは、本当にひとつになったような。それがそのままパッケージされている感じです。僕にとっても、感動的な出来事でしたね。
――南佳孝さんのどんなところに惹かれますか。
倉品:佳孝さんの音楽は、すごくロマンチックだと思うんです。僕はロマンチックな音楽が好きで。80年代はリアルタイムで経験していないので、あの時代の音楽を聴いて想像することしかできないんですけど、当時の人たちの生活感や価値観を、勝手に感じているところがあります。佳孝さんの音楽からは、上品なムードとロマンチックなムードをすごく感じていて、そこに憧れがあるんです。歌い方もすごく好きで、影響を受けています。
――鈴木茂さんのメロディと、松本隆さんの詞を実際に歌ってみて、いかがでしたか。
倉品:難しい曲ですよね。今回はAメロなどで僕がオクターブ上を歌って、下を佳孝さんが歌ってくださっているんですけど、やっぱり難しい歌だなと思います。
――このメンバーでこの曲を作れたこと自体も、大きな経験ですね。
倉品:身の引き締まる思いもありつつ、レコーディングは本当に楽しかったです。佐橋さんとの関係性が深まった状態でご一緒できたのも大きかったですし、一緒に歌を録る過程で、佳孝さんとも通じ合える部分を、僕は勝手に感じられたので。伝わっているかはわからないですけど、佳孝さんの歌をすごく好きで聴いてきたからこそ、その歌に自分が重なることができたのかなと思うんです。「聴いてきてよかったな」と思う場面がたくさんありました。
カーネーション、鈴木茂、大貫妙子……“あの時代”の礎を作ったレーベルの旋律
――「PANAM 55/100 SUPER SONG COVERS」は、楽曲も顔ぶれも濃厚ですよね。企画全体を聴いて、どんなことを感じましたか。
倉品:そもそも以前からPANAMの作品をたくさん聴いてきて、70年代にニューミュージックが形作られていく初期の頃から、良質な作品がたくさん生まれていたレーベルだと思っていました。自分たちが入る前から憧れがあったので、一員になれたことがすごくうれしかったんです。今回の企画には、好きで聴いていた曲もたくさんあるし、いろいろな方たちのコラボレーションによって、曲の本質がより垣間見える。オリジナルが素敵なのは言うまでもないんですけど、槇原敬之さんが歌う「都会」も、シンプルな言葉ですが、やっぱりいい曲だなと思いました。「こういう曲だったんだ!」と、曲の本質を再発見できる瞬間がたくさんありましたね。
鈴木実貴子ズの「さよなら人類」もよかったです。僕、たまを小さい頃から聴いていたんです。母方のおじが昔バンドマンで、その影響で僕もギターを始めたんですけど、おじがたまを大好きで、家にCDがありました。たまをカバーするのって、すごく難しいと思うんです。でも、鈴木実貴子ズが歌う「さよなら人類」は何の違和感もないというか、めちゃくちゃ合っている。ミラクルなカバーだなと思いました。「この曲をやって」と言われても、僕にはできないです。純粋に聴いていても、「こういうカバー、ありだったんだ!」と目から鱗でした。
――世代も時代も跨ぐコラボレーションですよね。
倉品:ですよねえ。そして、KREVAさんがメロディを歌うのもすごくよかったですね。
――今回は「倉品翔が選ぶ、PANAM’s Sweet Melodies」というプレイリストでも選曲していただきました。PANAMのカタログをあらためて見渡してみて、いかがでしたか。
倉品:ジャンルの幅広さを感じました。今回、プレイリストの選曲の軸にしたのは“メロディ”です。グルーヴが気持ちいい曲もたくさんありますけど、ニューミュージックからシティポップまで、あの時代の礎を作ったレーベルの旋律には、すごくオーセンティックな魅力がある。それを再確認しました。普遍的なメロディがたくさんあるんですよね。
一方で、それぞれのアーティストのキャラクターはものすごく濃い。その濃い個性と、オーセンティックな旋律が共存していることがすごくかっこいいし、自分たちが目指すべき部分でもあるのかなと思いました。アイコニックでありながら、普遍的でもある。PANAMはそれをずっと体現してきたレーベルなんだなと感じましたね。
――ご自身でCDやレコードを買って、よく聴いていた作品も入っていますか。
倉品:いちばんは、やっぱり鈴木茂さんですね。さっき『LAGOON』の話をしましたけど、3枚目の『Caution!』(1978年)も同じぐらい好きで。2枚目と3枚目がとにかく好きだったので、今回は『Caution!』から「はるかぜを待つ人」と「風信子―ヒヤシンス―」を選びました。この2曲も、めちゃくちゃ聴いていました。
――カーネーション作品が入っているのも、感想が気になるところです。
倉品:ムーンライダーズやカーネーションは、大人になってから聴くようになりました。カーネーションは、たしか当時、ウエケンさんがカーネーションに関わっていらっしゃったと思うんですけど、アルバムを教えてもらって聴くようになったんです。かっこいいバンドだなと思って。歌声とのマッチングがいいですよね。僕からすると、男っぽさを感じる、かっこいい声なんですけど、その声で心が躍る美しいメロディが聴こえてくる。そのバランスが、カーネーションの好きなところかなと思います。
――最後の3曲、大貫妙子さん、尾崎亜美さん、そしてご自身のGOOD BYE APRILという流れにも、こだわりを感じました。
倉品:大貫さんの「からっぽの椅子」がすごく好きで。プレイリストを作る時は、自分が聴いていて気持ちいい流れを作るのが楽しいので、その流れをイメージしながら考えました。「からっぽの椅子」は、弾き語りのような、本当に静かな曲なんです。そこから「オリビアを聴きながら」につながるんですけど、この曲はあまりにも名曲なので、置く場所をいちばん悩んだかもしれません。しっとりした曲が多くなったので、バランスを見ながら、ラストの前に尾崎亜美さんの「オリビアを聴きながら」がくると締まるなと思って。
最後に入れた僕ら(GOOD BYE APRIL)の「SYMPATHY」は、エンドロールといいますか、「こういう曲もありますよ」という意味合いで置かせてもらいました。メロディの強い曲が多くなりましたし、「オリビアを聴きながら」は本当にメロディだけでノックアウトされる曲だと思うので、そのあとに自分たちの曲を置くのは勇気が要りました(笑)。でも「SYMPATHY」もオーセンティックな曲なので、締めにはいいかなと思いましたね。