PANAMレーベル 生誕55周年記念インタビュー:鈴木実貴子ズ編「続けられるって、かっこいい」 担う役割、重なるフォーク感

 創設55周年を記念したカバー企画が展開されている、日本を代表する老舗レーベルPANAM。細野晴臣、かぐや姫、イルカ、鈴木茂、大貫妙子らの作品を送り出してきた音楽ファンに愛される名門に、今、新しい風を吹き込むロックなニューカマーがいる。鈴木実貴子ズだ。

 鈴木実貴子の歌とアコースティックギター、ズのドラム。名古屋を拠点に活動するふたりは、2012年の結成からライブを積み重ね、2024年にPANAMからメジャーデビューを果たした。かっこよくありたい。だけど、思うようにはいかない。そんな自己矛盾まで歌にして、聴き手にぶつける。痛快な言葉の奥に、人と比べてしまう弱さも、誰かに届いた時のうれしさも隠さない。そんな人間臭さに、どうしようもなく惹かれるのだろう。8月26日に発表した新曲「へいべべ」では、岩崎慧(セカイイチ)をプロデューサーに迎え、曲作りの新たな面白さを知ったという。一方、PANAMの55周年企画では、BLACK BOTTOM BRASS BANDとともに、たまの名曲「さよなら人類」をカバー。Dr.kyOnやプロデューサー・佐橋佳幸との制作で、目の前の音を自由に変えていく先輩たちの姿に触れた。

 PANAMのアニバーサリーを祝し、そして先述のカバーを収めた配信アルバム『PANAM 55/100 SUPER SONG COVERS』が10月7日にリリースされたのに際し、リアルサウンドではふたつのインタビューを企画。本記事では、鈴木実貴子ズのインタビューをお届けする。名曲と新たな歌い手をつなぐ企画のなかで、自分たちが担う役割を問われると、ふたりは“新しい風”と“砂ぼこり”の間でと、なんとも正直なやり取りを繰り広げる。立派な答えにまとめないからこそ、伝わってくる熱量がある。47都道府県を巡った路上ライブで受け取った温かさ、新境地となった新曲「へいべべ」に詰め込んだ葛藤、そして今もいちばん大切だと言い切るライブについて。鈴木実貴子ズの“今”を、たっぷりと聞いた。(ふくりゅう)

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47都道府県路上ツアーは「罰ゲームみたいなものでした」

――昨年、2025年12月1日からスタートした47都道府県の路上ライブツアー『いばらのみち』を完走して、今、バンドはどんな状態にありますか。当初は必ずしも乗り気ではなかったそうですが。

鈴木実貴子(以下、鈴木):罰ゲームみたいなものでしたから(笑)。しんどかったのもありますけど、今どうかと言われたら感じることは多くて、それによって曲がたくさんできている感じかもしれません。

高橋イサミ(以下、ズ):路上ライブ中にできた曲はいっぱいあるし、試した曲もたくさんあるよね。結構変わっていった部分もあって。

――各地で刺激を受けたんですね。

鈴木:刺激というか、背中を押されるに近いかも。今までは自分の力で一歩を踏み出していたのが、47都道府県、全部でお客さんがゼロの日がなかった。それは本当に予想外だったんですよ。今まで行ったことがなくて、その土地のことを詳しく知らないのに、そこには自分を待ってくれている人がいる。その事実がすごく背中を押してくれました。あたたかみを感じたから、さらなる一歩を踏み出しやすくなった感じがします。

ズ:メジャーデビュー前だったら、本当にお客さんがゼロの場所もあったと思うんですよ。この2、3年でラジオで曲を流してもらったり、メディアで注目していただいたり、そういうことが関係しての結果だったと思うから。どこでやってもこういうことがあるなら、全部無駄じゃないなって、めっちゃ感じました。ただ、僕はこの路上ツアーでは演奏していなくて、ついていっただけなんですけど。ドラマーだからね(笑)。

鈴木:だから、学ぶことは少なかったんじゃない?

ズ:そんな言い方せんでもいい(笑)。

47都道府県路上ライブツアー『いばらのみち』ファイナル公演!

――ライブでよくネタにされていますが、移動中、おふたりがぶつかるようなことは?

鈴木:喧嘩する元気もなかった(笑)。喉を守りたいから、なるべくしゃべりたくないし、外にも出たくない。とにかく耐えているというか、守っている感じで。普段行かない土地だから、そこで生の歌を聴いてもらうチャンスは、その人にとって最初で最後かもしれないし、自分もその土地に行くのが最初で最後かもしれない。そう思ったら、手を抜ける機会は一瞬もなかったですね。

ズ:なんか、「喧嘩したかったけど」「不満はあったけど」みたいな言い方になってる(笑)。

――(笑)。各地の路上ライブで、特に忘れられない光景はありましたか。

鈴木:よかったのは、大阪。最初の場所では一曲目で注意されて止められて、みんなで移動したんです。「どこならできるかな?」と言ったら、地元のお客さんたちが「あそこがいいんじゃない?」って提案してくれて。荷物をみんなで分けて持って、20分近く歩いたの。30人ぐらいで大移動して、人通りのない公園の小さな丘の上で、(『ドラえもん』の)ジャイアンのリサイタルみたいな感じでやって。それをみんなが囲んで、すごく真剣に聴いてくれていたんです。それこそ、通りがかりの人がいないから、路上ライブとしてはおかしいかもしれないけど、集中の輪がすごかった。光景として美しかったよね。

14年目にして挑戦した新しい曲作りの方法

鈴木実貴子(Vo/Gt)

――ライブでも披露されていた「へいべべ」が8月26日に配信リリースされました。イントロからめっちゃかっこよくて、展開されていくたびにテンションが上がる曲ですが、どんなきっかけで生まれたのでしょう。

鈴木:神戸のサーキットフェスに出た帰りに、蕎麦を食べに行った時の曲なんです。歌詞の通りなんですけど、私のなかでのかっこいいミュージシャンって、カリスマ性があったり、ぶっ飛んでいたりする。でも、それを真似するのも違うだろうし、私は頭がぶっ飛べない、超まともな人間をやってると思ってるんですよ。

ズ:自分ではね。

鈴木:それはそれで仕方ないし、「ぶっ飛んでいてカリスマです!」ってやってみたい気持ちもあるけど、なれないっていう。「ヘイ、ベイベー!」ってかっこよく言いたいけど、言えない自分みたいな矛盾ですよね。その差やギャップを感じるのは苦しいけれど、その苦しさは「生きてる」って感じることと一緒やな、って。何のポジティブなメッセージもないんだけれども、「へいべべ」は今の私っていう感じですかね。

鈴木実貴子ズ「へいべべ」Music Video

――その飾らなさが、聴く人の気持ちに火をつけるスイッチになっていると思います。ズさんにとっては、どんな曲になりましたか。

ズ:今回プロデューサーとして、岩崎慧さんに入ってもらったんです。もともとアレンジャーやプロデューサーを入れてみようかという話はあったけど、自分たちのなかで「ちょっと違うんじゃないか」「純度が下がるんじゃないか」という思いがあって、断っていた部分もあったんです。でも、岩崎さんは知っている人だったし、僕もセカイイチが好きだったので、一回チャレンジしてみよう、って。結果、今までの自分たちにはないアプローチで曲ができた。僕としては、今までより音楽的になったという意味で、すごくいいきっかけになった、転換期の曲というイメージですね。

――岩崎さんが入ったことで、実貴子さんはどんな変化を感じましたか。

鈴木:とにかくスムーズだった。ふたりでスタジオに入って曲を作っていると、長年やっているからこそ、「この人の意見は聞きたくない」っていう邪念もあるんですよ。でも、ほかの人に言われると、「じゃあ、やってみようか」とつるっと人の意見に乗れる。「チャレンジしてみよう」と思たのがよかったですね。

ズ:スムーズだったよね。

鈴木:そのあとの曲作りはまたふたりでやっているんですけど、14年目にしてやっと「曲作りってこれなんや!」というところにいったよね。「ここで引き算しようか」「ここ、ちょっと足す?」「あの足し方、やってみる?」みたいな。一回のきっかけだったけど、今めっちゃ曲作りが楽しい。

ズ:楽しいし、時間もかかるようになったね。

鈴木:明らかに変わった。めちゃくちゃよかったです。たしかに、スイッチを入れてもらえた曲でしたね。

――ギターに伊東真一(SPARTA LOCALS/HINTO)さん、ベースに舟橋孝裕さんも参加されています。

ズ:それも岩崎さんが動いてくれて。僕らもSPARTA LOCALSとはツーマンをやっているし、好きなバンドなので、共通して「この人がいいんじゃないか」という話で名前が出ていたんです。ほぼ丸投げして、一回で完成ぐらいの感じで。これもスムーズにできちゃった。

鈴木:そうやね。スムーズやった。

ズ:さっき言ってもらったイントロもかっこよくしてくれたし、文句ゼロで進んじゃいましたね。さすが伊東さんという感じです。

――レコーディングで、特にこだわったところは?

鈴木:レコーディングのこだわりは、うちら以外がやってくれてる(笑)。うちら、昔からレコーディングが短くて、こだわりがなさすぎるの。まわりが焦って「もう一回、ちょっと録り直そうか」って言って、それに従う感じだから。

ズ:昔から「餅は餅屋」の精神が強くて。好きなギタリストに弾いてもらうなら、それがベストだし、弾いてもらっていることがまずうれしい。エンジニアさん個人の想いも入っていると思うし、レーベルの制作の方の考えも入っていると思う。でも、それがいいよね。

鈴木:歌の録り直しも、前より増えたよね。まわりがこだわってくれている。音楽として楽しいんですよ。今までは、うちの感情にリズムが乗ればいいぐらいの感じだったけど、もっとふたりで音楽にしていく感じが増えたよね。技術は上がらんけど、気持ちは上がったよね。

ズ:うん。気持ちが上がった。

ズ(Dr)

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