【総論】J-POPは韓国でいかにして“市民権”を得たのか 2023~2026年の記録

聴取環境の変化:アルゴリズムの時代へ

 同じ時期、韓国の人々が音楽と出会う方法そのものが、根本から変わりつつあった。長いあいだ、韓国の音楽消費はMelonのリアルタイムチャートに象徴される「単一チャート」が支配してきた。チャートがそのまま大多数のプレイリストであり、国内プラットフォームの薄いカタログの内と外では、音楽が持ちうる影響力に大きな差があった――韓国の数多くのインディーズ音楽と、J-POPを含む海外の音楽が、数十年ものあいだ閉じ込められてきた構造だ。その秩序が、2020年代に入って崩れる。2023年12月、YouTube Musicが月間利用者数で初めてMelonを追い抜いて国内1位の音楽アプリとなり、Spotifyの月間利用者はここ3年間で5倍以上に増えた。2024年には海外音楽配信サービスの利用率(51.1%)が国内アプリを上回り、人々が音楽の情報を得る経路の1位は、もはや配信サイトではなくYouTubeをはじめとするオンライン動画サービスと配信サービスのアルゴリズムである。

 この転換がJ-POPに対して持つ意味は決定的だ。チャートはその国のメインストリームを映すが、アルゴリズムとプレイリストは国籍も言語も問わない。「@jpop_oze」の運営者は、流入経路の変化をこう証言する。「以前はアニメのOSTや日本のドラマ・ゲーム、あるいは日本の音楽を長く好んできたファンダムが中心だったとすれば、その後はYouTubeやストリーミングでライブ映像やプレイリストに触れる形が増え、最近ではショート動画で特定のパートが先にバズり、そのあとで曲全体とアーティストを探すという流れが強くなりました」。ショート動画がハイライトのワンフレーズでリスナーを引き込む“流入経路”となり、ロングフォームがライブ映像や歌詞の解釈でファンダムを固める――そんな相互補完の構造ができあがったのだ。日本の産業が音源を世界に解き放ち始めた時点(供給)と、韓国の聴取環境がグローバルプラットフォームとレコメンド中心に再編された時点(需要)が噛み合ったこと。この“接続”こそが、今回のブームの構造的な土台である。

 その結果はいまや、国内プラットフォームの数字でも確認できる。音楽配信サービス・Genie Musicの基準で、国内ストリーミング全体にJ-POPが占める比重は2018~2022年の0.3~0.4%水準から2023年には1.1%へと跳ね上がり(前年比93%増)、2026年上半期も利用量が前年同期比29.5%増、2年前比57.5%増と成長曲線を描き続けている。Melonが「J-POPデイリーチャート」を常設運用しているという事実も、同じ文脈にある。プラットフォームがジャンルチャートを置くということは、J-POPがもはや例外的な“事件”ではなく、日常的な“分類項目”になったという制度面での証拠である。こうして広がった接点の上で、好みは細分化していった。アニメ主題歌を「聴く」消費からアーティストのディスコグラフィや関連アーティストを「掘る」消費へ、ヒット曲からジャンル単位の探索へ――この拡張が、次に述べるライブ市場の広がりを支えている。

ライブインフラ:ドームからライブハウスまで

 市場定着の何よりの証は、来韓公演における規模とジャンルの裾野の圧倒的な広がりに見出すことができる。公演芸術統合電算網(KOPIS)などをもとにした韓国経済新聞の10月の報道によれば、2026年1~9月に日本人アーティストが韓国で開いた公演は143件と前年同期(76件)の2倍近くに達し、年内の予定分を含めると197件にのぼる。今年に入って1万席以上の会場で公演を行った日本人アーティストも9組を数える。国民的バンド(King Gnu、いきものがかり)やトップシンガーソングライター(米津玄師、あいみょん、星野源)のアリーナ・ドーム公演が拡大する一方で、中小規模の公演が緻密に敷き詰められた結果である。IVE「After Like」日本語版の作詞も手がけたeillのように、毎年韓国を訪れて固定ファン層を育ててきたアーティストがいるかと思えば、韓国インディーズシーンの中心である弘大のライブホールにはbetcover!!、Yo-Sea、そしてNeighbors Complainまで――多彩な顔ぶれが続々とステージに立っている。ライブ取材を中心に日本の大衆音楽を扱う「@sado_mag」は、この変化について「個別のアーティストのファンを超えて、J-POP全般に興味を持つ音楽のファンが生まれ、複数のアーティストのライブを追いかける姿が印象的だ。それを代表する出来事が『WONDERLIVET』、そしてアニメ音楽フェスティバル『キムチクラ』のローンチと成功だと思う」と説明する。

eill | フィナーレ。(Cover by HARAM (Billlie) & eill)

 規模とジャンルの多様性は、かつてなく広がった。Gliiico、Summer Eye、井上園子などを招き、日本のインディーズアーティストと韓国のアーティストによるペアライブを定期的に企画してきた、マネジメント会社RAFTERS/公演ブランドstrangers clubのkixxikim代表は、「プレイリストやウェブマガジンで『来韓ライブを提案したい』と感じる新しいライジングアーティストを見つけたのに、実はすでに昨年韓国に来ていたと後から知ったとき、この流れを最も強く実感します」と語る。さらに「日本のアーティスト側も、韓国でJ-POP/J-ROCKへの関心が高まっていることを十分に認識していて、韓国公演に好意的です。だからインディペンデントの企画者たちも、以前より気負わず積極的にオファーを出せる空気ができています」と続けた。興行実績のある大型アーティストを招聘する段階を過ぎ、プロモーターがまだ紹介されていないアーティストを選び、提案する“キュレーション”の段階になっている。ライブ映像が韓国を中心に900万回以上再生され、来韓前からすでに韓国にファンダムが形成されていたSHO-SENSEI!!のように、リスナーの熱量が海を越えてアーティストの公演を直接呼び寄せるという事例も現れている。J-POPファンコミュニティで「もう呼べる日本のアーティストが残っているのか」というジョークが飛び交うほど、裾野は厚くなっている。

Asia Tour 2026 Seoul -Behind the Scenes-

 2026年のカレンダーは、その上でいっそう大胆になった。星野源は初来韓からわずか5カ月でインスパイア・アリーナに戻り、8月にはOfficial髭男dismがKSPO DOMEで2日間に2万6,000人を動員した。9月にはback numberがKINTEXで初の来韓公演を行い、初の単独来韓となったVaundyはインスパイア・アリーナの2日間を完売させて3万人を集めた(同会場の公演として歴代最多の観客数とされる)。同じ月には木村拓哉のような一時代のレジェンドまでもが、デビューから38年を経て初めて韓国のステージに立った。勢いは年末から来年にかけても続く。12月には優里がインスパイア・アリーナで2公演を行い、来年1月には藤井 風が再び高尺スカイドームに立つ。同じ月には米津玄師も、前回より1公演多い3公演の日程でインスパイア・アリーナに戻ってくる。『WONDERLIVET』は2025年の閉幕の場で早くも2026年の開催を発表し、KINTEX第2展示場の7・8・9・10ホールを借り切る大幅な規模拡張を予告した。2年連続の成功が生んだ自信であり、キム代表の言葉を借りれば「『WONDERLIVET』に出演したアーティストたちが次々と単独来韓を実現させ、ファン層を広げていく」好循環の結果でもある。今年の開催は11月20~22日。THE ORAL CIGARETTES、[Alexandros]、ゆずの3組をヘッドライナーに、日韓42組が出演する。

発信と受信の相互作用:“市民権”の証明

 いま韓国においてJ-POPは、もはや一方的に受け取って消費するだけの音楽ではない。双方向の場面は、すでにあちこちで確認できる。その一つの事例が、サカナクション「夜の踊り子」のリバイバルヒットだ。2012年リリースの楽曲が、インドネシアの伝統ボートレース「パチュ・ジャルール」の映像、いわゆる“小さな船長(アウラファーミング)”ミームと結びつき、ショート動画で爆発した。ミーム自体はグローバルに広がったものであるが、韓国のクリエイターたちによる合成動画は数千万回の再生を積み上げ、K-POPアイドルたちがこぞってミームを真似し、5月にはBTSのメキシコ公演でVとJUNG KOOKが再現するに至る。その影響で楽曲は発売から14年を経て、オリコンのデイリーストリーミングランキング、Spotify、Apple Musicの各チャートを制した。この時期、日本国外のストリーミングの約80%は韓国からのものだった。ボーカルの山口一郎が韓国のリスナーへ直接感謝を伝えたことも記憶に新しい。

노래 : サカナクション (사카낙션) - 夜の踊り子 (밤의 무희)

 また、J-POPの「歌い直し」も、ここ数年で目立ち始めた動きだ。優里「ベテルギウス」や竹内まりや「プラスティック・ラブ」などは、数多くのK-POPアイドルのカバーを通じて韓国のリスナーに馴染んで久しい。この流れはいま、正式なリメイクとチャート成績へとつながっている。冒頭で触れたテヨンによる「晩餐歌」の韓国語リメイクは発売直後にBugsで1位を記録し、発売から2カ月が過ぎた9月初めにもMelon「TOP100」で8位につけるロングヒットとなった。この曲は日本出身の歌手・タレント、カンナムが企画した『J-POP REMAKE』プロジェクトの第1弾で、7月には第2弾としてHANROROが高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」を韓国語で歌い直した。このほか、NCT WISHはTRFの1994年のヒット曲「BOY MEETS GIRL」を再解釈した。その流れの中でも欠かせないのが、2024年にNewJeansのHANNIが東京ドームで歌った松田聖子「青い珊瑚礁」だ。両国にセンセーションを巻き起こしたこのカバーは、韓国の多くの大衆に松田聖子という名前をあらためて注目させた。今年2月、松田聖子がデビュー45周年記念ツアーの一環としてキャリア初の来韓公演(インスパイア・アリーナ)を開いたことにも、その影響が皆無だったとは言えないだろう。長年のファンに加え、YouTube発のシティポップ再評価のなかで彼女に注目するようになった韓国の若い世代が増えつつあったところに、途方もないバイラルを起こしたひとつのカバーが、日本のレジェンドを韓国のステージへと連れてきたのである。そして8月には、『J-POP REMAKE』の第3弾としてAKMUのイ・スヒョンが「青い珊瑚礁」を韓国語でリメイクした。ひとつのカバーから広がった関心は、レジェンドの来韓を経て、正式な韓国語版にまでたどり着いたことになる。一方的に受け取るだけの市場はブームにとどまるが、こうして有機的に交信する市場は、生態系の一部になる。

NCT WISH 엔시티 위시 'BOY MEETS GIRL' MV

ブームからジャンル、そして循環へ

 最も近く、最も遠かった音楽は、パンデミックの静けさのなかで静かに根を下ろし、2023年、チャートに最初のシグナルを刻み、2024~2025年にはアリーナとドーム、フェスティバルとボックスオフィスの記録が積み重なって「ブーム」になった。そして2026年――国籍を問わない聴取環境への転換とストリーミング利用量の構造的な成長、プラットフォームのジャンルチャート、ライブハウスからドームまで連なる公演インフラとキュレーション、韓国を戦略市場として扱う日本の産業の変化、そして日本のチャートを逆方向に動かす消費までを備えて――J-POPは韓国市場に常駐するひとつの「ジャンル」になった。かつてK-POPが日本で歩んできた道を、J-POPは韓国で圧縮するように通過している。

AFTER MOVIE | WONDERLIVET 원더리벳 2025

 これは、どちらか一方の勝利の物語ではない。『WONDERLIVET』のステージには日本のアーティストと韓国のバンドが並んで立ち、CUTIE STREETはK-POPアーティストたちとダンスチャレンジを繰り広げながら世界へ向かい、韓国のショート動画は日本の14年前の名曲をランキングの頂点へ押し戻し、K-POPのボーカリストはJ-POPの名曲を韓国語で歌い直す。国境を挟んだふたつの産業が、互いのインフラと感受性を借り合う循環構造。いまやひとつのジャンルとして根を下ろしたJ-POP。“市民権”という言葉の本当の意味は、ここにある。かつて入手困難なCDやカセットテープを頼りに、海を越えた音源を静かに聴き込んでいた韓国の古参J-POPリスナーの一人として、現在のこのダイナミズムには隔世の感を禁じ得ない。そして日本の音楽産業にとって、いまの韓国は多くのファンが待っている土地であり、世界へと続く最も近いゲートウェイでもある。この循環が次に生み出す場面を、ソウルから見届けていきたい。

韓国で聴かれるJ-POP
現地の今を知る、いくつかの視点

2026年、J-POPは韓国市場に常駐するひとつの「ジャンル」になった。そのリアルな熱量を実際に体感した人々の視点を借りながら、…

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