ザ・ウィークエンド「Out Of Time (with亜蘭知子)」で再び交わる80年代の東京と世界 時代を超えて響き続けるシティポップ

Viral Hits Focus

 話題のバイラルヒット曲を毎週収録するSpotifyによる日本向けエディトリアルプレイリスト「Viral Hits Japan」(※1)。本記事ではザ・ウィークエンドの「Out Of Time (with亜蘭知子)」をピックアップする。

 この楽曲が今、聴かれている最大の要因は、言うまでもなく9月19日と20日の2日間にわたって開催されたザ・ウィークエンドの来日公演の余韻であろう。ベルーナドームに集まった数万人のオーディエンスを前に、エイベル・テスファイが作り出した光と音のスペクタクルは、まさに彼が長年かけて構築してきたダークで享楽的な世界観の集大成であった。圧倒的なカリスマ性で巨大な空間を掌握する彼のステージは、単なるポップスターのコンサートという枠を軽々と飛び越え、ある種のディストピア的なSF映画を体感しているかのような凄みに満ちていた。そのセットリストの中でも美しいシンガロングを巻き起こしたのが、彼が日本のシティポップと深く交わった名曲「Out Of Time」だった。そして現在、リスナーの間で拡散されているのは、楽曲のサンプリング元「Midnight Pretenders」の歌い手であり作詞者でもある亜蘭知子本人が参加した「Out Of Time (with亜蘭知子)」である。

 オリジナル版の「Out Of Time」は、ザ・ウィークエンドが2022年に発表した通算5作目のスタジオアルバム『Dawn FM』に収録されている。同アルバムは、架空のラジオ局「103.5 Dawn FM」から流れる放送というコンセプトのもと、全編にわたって80年代のシンセポップやファンク、ディスコミュージックへの色濃いオマージュが散りばめられていた。その中で、一際メロウでノスタルジックな輝きを放っていたのが「Out Of Time」だ。特筆すべきは、トラックの土台として、亜蘭が1983年にリリースした「Midnight Pretenders」を大胆にサンプリングしている点である。

The Weeknd - Out of Time

 近年の世界的なシティポップリバイバルの潮流において「Midnight Pretenders」は、竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」や松原みきの「真夜中のドア〜stay with me」などと並び、海外のDJやバイナルコレクターたちから支持を集めてきた。ザ・ウィークエンドは、長年のコラボレーターであり、日本のアンダーグラウンドからポップスに至るまで深い造詣を持つワンオートリックス・ポイント・ネヴァーらとともに、この「Midnight Pretenders」が持つミステリアスなベースラインと、きらびやかでありながらどこか影のあるシンセサイザーのループを抽出。そこに自らのトラウマや後悔を吐露する切ないリリックを乗せることで、極上のR&Bバラードへと再構築してみせたのだ。

Midnight Pretenders

 サンプリングという手法自体はHIPHOPやR&Bにおいて普遍的なものだが、今回「Out Of Time (with亜蘭知子)」は、そこから一歩踏み込み、サンプリングの元曲のアーティスト本人をゲストとして招き入れたのだ。イントロダクションで鳴り響く、あの聴き馴染みのある流麗なメロディライン。そこへ導かれるようにしてザ・ウィークエンドのシルキーでなハイトーンボーカルが滑り込み、時すでに遅しと後悔に苛まれる男の心情を歌い上げる。そして楽曲の中盤に亜蘭の妖艶で透明感に満ちた歌声が重なり合う。エイベルの歌唱が現在進行形の切実な喪失感を帯びているのに対し、亜蘭のボーカルは1980年代の東京の夜からそのまま抜け出してきたかのような、都会的かつクールな無常観さえ漂わせている。デュエットのように絶妙なバランスで配置された二人のボーカルワークは、互いの声の魅力を引き立て合っているのだ。

 ザ・ウィークエンドがいかに日本のカルチャーを愛し、そこからインスピレーションを得ているかは、これまでもたびたび語られてきた。彼のMVやビジュアルアートワークには、しばしば日本のネオン街やアニメーション、あるいはSF映画的なサイバーパンクの意匠が組み込まれている。彼が抱く“日本”のイメージは、決して表面的なオリエンタリズムではなく、バブル前夜の80年代日本に漂っていた孤独感や無機質な美意識に対する深い共鳴に根ざしているように思える。「Midnight Pretenders」のサンプリング、そして亜蘭との直接的なコラボレーションは、彼が日本のシティポップから受けてきた影響の大きさを物語る出来事の一つと言えるだろう。

Out Of Time with Tomoko Aran

 「Out Of Time (with亜蘭知子)」は、単なるノスタルジーの消費ではない。1980年代の東京で生まれたグルーヴが、海を渡ってカナダのスーパースターの魂を揺さぶり、極上のR&Bとして生まれ変わり、そして原作者の手を借りて新たな命を宿した。先の来日公演で響き渡った熱狂の記憶とともに、この曲は今、日本のリスナーの日常の中で静かに、しかし確実に広がり続けている。時代も、国境も、ジャンルの壁さえも軽やかに飛び越えていくこの楽曲のヒットは、音楽が持つ普遍的な力を、私たちに改めて信じさせてくれるのだ。

※1:https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWZZbpkxU5t9L

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