父と空手から教わった“強さ”、海を越えた日本で広げた友情 BOY SODA、初来日インタビュー
SNSで目にするものが現実のすべてじゃない
――「Lil’ Obsession」「Front Door」「Chase Your Tail」など、形は違っても“手放せないこと”が繰り返し描かれています。こうしたテーマに惹かれるのはなぜでしょう?
BOY SODA:ここ数年の自分にとって、繰り返し向き合ってきたテーマだからだと思います。自分とさまざまな物事との関係や、何かに身を委ねること。何かを愛し、かけがえのないものとして大切にしながらも、それにとらわれないこと。始まりや終わりを決めつけず、ただ愛することです。友人もアイデアも、自分の人生に現れては去っていきます。年齢を重ねるほど、物事は絶えず流れ、移り変わっていくもので、自分にはそれをコントロールできないのだとわかってきました。何かを愛し、大切にしながらも、それに執着しないこと。それが、今の僕にとって大きなテーマなんです。
――曲を書くことには、自分を癒やす働きもありますか?
BOY SODA:あります。僕は、自分が何について書いているのかわからないまま曲を書くことがあります。3カ月後に聴き返して、初めてその曲が自分に何を伝えようとしていたのかに気づく。創作は、自分が物事を理解できるようになるよりも先に、何かを教えてくれるんです。同じ曲を何度も歌うことも、その体験を少しずつ消化していくことにつながります。「Lil’ Obsession」のように、歌い続けるうちに、いつの間にか傷が消えていることもある。そして、曲そのものの意味も、ステージで歌い続けるなかで変化していきます。人生の時期が変われば、同じ曲がまた別の意味を持つんです。
――「Blink Twice」では、SNSから絶えず流れ込む情報に疑問を投げかけています。この曲を書いた当時、SNSのどんなところに危うさを感じていたのでしょう?
BOY SODA:SNSを眺めていると、自分で選んだわけではない情報まで、次々に頭へ入ってきます。それはとても受け身な体験です。そうした情報を無意識に取り込み続けていると、誰かの意見と自分自身の考えとの境界が曖昧になってしまう。でも、SNSで目にするものが現実のすべてじゃないですよね。だから、一度立ち止まり、「これは本当に自分が信じていることなのか?」と問い直す必要がありました。「Blink Twice」は、そのことを自分に思い出させるために書いた曲です。
SNSには、恋愛における“愛着スタイル”などについて、まるで専門家のように語る人が大勢います。僕たちは、物事を説明するための言葉や知識をたくさん持つようになりました。でも、言葉を知っていることと、実際に経験し、理解していることは同じではない。目を開けているつもりでも、本当に物事が見えているのか、もう一度確かめなければいけないと思ったんです。
――一方で、「Lil’ Obsession」はSNSを通して多くの人に広がりました。曲を作る段階で、バイラルや市場性を意識することはありますか?
BOY SODA:僕は何よりもまずアーティストなので、曲を作っている時は自分だけの世界に入っています。バイラルになるかどうかは考えません。そのために音楽を作っているわけではないからです。僕が曲を書くのは、人とつながり、自分の人生を記録するためです。アーティストとしての僕の仕事は、その時の感情にできる限り近づき、最も濃度の高い形で曲にすることだと思っています。感情が強く、鮮明に表現されているほど、聴く人にも届きやすくなる。
「Lil’ Obsession」も、ヒットを狙って書いた曲ではありませんでした。ポップミュージックとしては、音楽的にも創造的にも、かなり大胆な部分があります。それでも多くの人とつながることができたのは、自分の感情をできる限り濃く表現できたからだと思います。僕は市場性よりも、感情の濃度を選びたいんです。
「山下達郎はレジェンドです」――海を越えてオーストラリアから注ぐ敬意
――「A Father’s Heart」では、ご自身のお父さんについて歌っています。以前、お父さんとの関係には「“男だから”と感情を隠すような壁がない」と話していましたこともありましたね。お父さんのどんな姿から、そう感じるのでしょう?
BOY SODA:父はとても紳士的で、自分のなかの男性性と健やかに向き合っている人です。父には穏やかさがあり、柔らかく、優しく、感情を率直に表すことができる。そうした性質は、世間では“男らしさ”と結びつけられにくく、多くの男性にとって受け入れるのが難しいものかもしれません。しかも父は、自分が育った環境に、その後の生き方を決めさせなかった。決して安全とは言えない家庭で育ち、世界に怒りを抱く人になっても不思議ではなかったのに、そうはならなかったんです。
父は僕が子どもの頃から空手道場を経営していて、六段の黒帯を持っています。本気で戦えば恐ろしいほど強い人ですが、僕が父から見せてもらったのは、穏やかで愛情深く、心を開いて生きる男性の姿でした。だから、この曲を書かずにはいられなかったんです。
――空手で身につけた考え方は、音楽活動にどのように活かされていますか?
BOY SODA:空手からは規律を学びました。そして、空手と同じように音楽も長い時間をかけて進んでいくものです。黒帯へ至る道のりに近道はなく、努力を重ねて手にしなければならない。音楽においても、僕は同じような道を歩んでいると感じています。5年で黒帯を取る人もいれば、昇級審査を急がず、もっと時間をかける人もいます。だから、僕も音楽の世界で早く何かを成し遂げなければならないとは思っていません。音楽家として、ひとつずつ新しい帯を手にしていくような感覚です。それは、精神的な成長の旅でもあります。
僕の家族は全員空手をしていて、父も母も黒帯です。敬意や自尊心といった価値観も含め、空手から学んだことが僕の人格の大きな部分を形作っています。言うなれば、僕の背骨は空手の基礎の上にできているんです。
――以前、「WELCOME TO THE GLOW UP」で山下達郎の「Music Book」をサンプリングしようとしたそうですね。
BOY SODA:どうしてそんなことまで知っているんですか(笑)? そうなんです。シドニーに移って最初に作った曲で、もともとは「Music Book」をサンプリングしていました。使用許可を取ろうとしたのですが、当時の僕にはまだ早すぎましたね。山下達郎はレジェンドです。今回の来日でタワーレコードに寄って、彼のCDも見つけました。
――ほかに、日本にゆかりのあるアーティストで気になっているのは?
BOY SODA:luvのみんなですね。それからSIRUPやTaka Perry。シドニーでは、彼らと一緒に過ごす機会がたくさんありました。だから、遠く離れた日本にきてもそのつながりを感じられることが、とても素晴らしいと思います。地理的には離れていても、音楽を通じて近くにいられるんです。
――音楽以外では、日本のどんなものに惹かれていますか?
BOY SODA:建築ですね。日本の建物には、とても強い個性を感じます。単なる四角い箱ではなく、階段やタイルの細部まで美しく、素材や質感の扱いも素晴らしい。街角の造りやタイル、都市空間が人の動きまで考えて設計されているところが面白くて、ずっと写真に収めています。日本では、あらゆるものに美意識が行き届いていると感じます。
――これからの活動について、どんな未来を思い描いていますか?
BOY SODA:これからもアルバムを作り続けたいです。ひとつの作品を通して、ひとつの世界を丸ごと届けたいと思っています。今回日本にこられたことも、以前の僕には想像できませんでした。でも、作品に集中し、アートに敬意を持って向き合っていれば、アートは自分では想像もできなかった場所へ連れて行ってくれるんです。僕にとっていちばん大切なのは、自分の心に意識を向けること。あとは、音楽が次にどんな場所へ連れていってくれるのかを楽しみにしながら、そのたびに嬉しい驚きを味わえたらと思っています。
■リリース情報
Digital Single『Chase Your Tail』
配信中
配信URL:https://wmj.lnk.to/CYT_JP
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