菊池桃子、ラ・ムー時代の名曲や新曲披露で“素敵な瞬間”を記憶に刻んだ夜 時代を超える歌声で魅了した『Moments』レポ

 いくつもの時代を超えて、色あせない声がここにある。9月21、22日、恵比寿ザ・ガーデンホールにて菊池桃子のワンマンライブ『MOMOKO KIKUCHI “Moments”』が開催された。外は雨と風で荒れ模様だが、中は大人のファンたちが作り出す穏やかで平和な空気。ノスタルジーと現実が相半ばする、独特の雰囲気だ。

 二部構成の第一部、冒頭を飾る1曲はなんと「夏と秋のGood-Luck」だ。シティポップリバイバルの追い風を受け、再評価が近年高まっているラ・ムー時代の唯一のアルバム『Thanks Giving』からのナンバーは、タイトなリズムと派手なスラップベースがかっこいいグルーヴィーな曲。白とパープルのロングドレスに身を包み、手拍子を求めながらにこやかに歌う菊池を中心に、バックを支えるのはバンドマスター・園田凉(Key)の率いる6人編成の精鋭たち。続く85年のヒットシングル「BOYのテーマ」は、往年のファンの掛け声を味方につけて、リズムはダンサブルに。ステージを左右に動き回ってファンの顔を確かめる菊池。そよ風のように心地よいウィスパーボイスは健在だ。

「みなさま、本日はお足元が悪い……どころではございませんが、ここに来る決断をしてくださってありがとうございます」「今回のタイトルは“Moments”としました。人はすべてのことを記憶することはできないですし、忘れてしまうことも多いです。でも、例えばずっと昔のたった一瞬のことを思いだして、嬉しくなったりすることはありませんか? できることならば、今日ここでみなさんと一緒にいることを、素敵な瞬間として記憶に残したいと思います。どうぞよろしくお願いします」

 卒業ソングの定番として今も広く愛される「卒業-GRADUATION-」は、まさに卒業というモーメントを永遠に刻み込む名曲で、この曲を聴く時は誰もが1985年に戻っているかもしれない。ここから2曲続けてラ・ムーのナンバーで、フュージョンスタイルの滑らかなギターソロが冴える「片想い同盟」と、ファンキーなシンセのリフとリズム隊がリードする「One And Only」は、どちらも『Thanks Giving』からの曲。ラ・ムー時代のファンキーでタイトなリズムと、ウィスパーボイスの組み合わせは今聴いても斬新で、世界的に再評価されているのも頷ける。ラ・ムーの曲をこんなにライブで歌うのは、本当に数十年振りらしい。今日ここで聴けた人はラッキーだ。

「Moments=時は違っていても、私が歌っているので、いつの時代も繋がるといいなと思いますし、せっかく生まれた曲を大事にいつまでも歌いたいと思っています。今日はどんな曲が入っているかわからない、びっくり箱みたいになればいいなと思いますので、次に何が来るかな? と楽しみにしていてください」

 そして、次に“びっくり箱”から飛び出したのはラ・ムーの代表曲「愛は心の仕事です」だ。ポップなブラックコンテンポラリーにファンクやHIPHOPを混ぜ込んだ踊れる曲を、踊らずにまっすぐ歌い上げるのがとても新鮮。からの、84年のセカンドシングル「SUMMER EYES」は盛大な「モモコ!」の掛け声でぐんぐん盛り上がり、87年にシングルになったメロウでノスタルジックなバラード「ガラスの草原」でしっとりと落ち着かせる。1曲ごとに物語がある。第一部はおよそ50分、時間が経つのがあっという間だ。

 10分の休憩を経て始まった第二部は、2年前にリリースされた40周年記念EP『Eternal Harmony』収録の「Starry Sky」でスタート。自ら作詞作曲を担当したロマンチックなバラードで、深く青く輝く照明とミラーボールが美しい。衣装チェンジした菊池の、ゆったりシルエットの白いドレスにパープルのレース生地を重ね着した清楚な姿もとても綺麗だ。

 ここからは、6月に神戸と東京で開催した『琥珀 Momoko Kikuchi × Ryo Sonoda Quintet』からの2曲を披露する。まずはイギリスの伝統的バラッド「Scarborough Fair」を、園田のエレクトリックピアノを中心に、アコースティックスタイルでしっとりと幽玄に。そして1930年代のアメリカのスタンダードナンバー「All of Me」を、4ビートジャズのスタイルでお洒落に優雅に。英語詞の楽曲を歌う時の菊池は、オリジナルを歌う時のはかなげなウィスパーとは違って、より力強くストレートに歌うように聴こえる。つまり、とても上手い。

 次の2曲は園田の作曲で、特に注目はこの日初披露された新曲「Natalia」だ。作曲・園田凉、作詞・菊池桃子による「Natalia」は、キャッチーなシティポップ風サウンドと哀愁味のあるマイナー調メロディに、アンデスの砂漠を舞台に壮大な時間と空間を描く歌詞が映える1曲。歌い方もいつも以上に感情がこもり、右手を大きく広げてアクティブに歌う姿に、菊池の新たな一面がのぞいている。ラ・ムーの楽曲と言っても違和感ないほどノスタルジックでありつつ、2026年の今のモーメントをしっかりと刻み込むナンバー。22日0時から配信が始まっているので、ぜひチェックしてほしい。配信ジャケットは、アリゾナの砂漠で菊池が撮った写真だ。そしてもう1曲、園田作の「For You You and you」は、アコースティックギターから始まるイントロのピアニッシモから、曲が進むにつれてクレッシェンドしていく壮大なバラード。今日は本当に、さまざまな菊池の姿が1曲ごとに堪能できる。

「私は本を読むのが好きで、最近は、アメリカの社会学者、ランドル・コリンズの“集団的沸騰”ということが気になっています。10人以上の集団ができると、同じ気持ちを共有して、心が高まることがあるそうです。その調査研究が多いのが、ライブ会場なんですね。どれだけ一緒に笑ったか、泣いたか、声を出したか、そういう積み重ねが忘れない記憶になるらしいです」

 いかにも彼女らしい知的な話題から、「みなさんと一緒に集団的沸騰を味わいたいと思います」と続けて、「盛り上がってくれますか!」と拳を上げる、一つひとつの仕草が愛らしい。ここからは最後までノンストップ、2014年の歌手デビュー30周年ベスト盤に収録された、明るいアップテンポで突っ走る「青春ラブレター」から、ディスコでダンスでロックなラ・ムーのシングル「TOKYO野蛮人」へ。84年のヒット曲「雪にかいたLOVE LETTER」は、菊池自ら桃色ペンライトを振ってノリノリ、〈聞こえる〉〈冷たい〉〈泣かない〉と、80年代に戻ったようなファンの掛け声もばっちりハマった。さらに続けて、86年のシングル「夏色片想い」はまさに“集団的沸騰”の好例で、会場全体の熱量と一体感が凄いことに。この瞬間が忘れられない記憶になる。思い出はまさに今作られている。曲の終わり、右手の拳を高々と掲げるかっこいいポーズも決まった。

「それぞれの思いを持ってここに来てくれた、みなさんのお顔を見るのがとても幸せです」

「40歳を過ぎたあたりから、自分はもう変わらないんじゃいか? と思っていたんですが、まだまだ変化していますし、新しい自分に出会うことができていて、人間ってずっと変わっていくのかなと思います」

 「モモコ! モモコ!」の掛け声に呼び戻されたアンコールの舞台上では、これからも精力的に活動して、どんどん歌っていくことを力強く約束してくれた。園田を始め、頼れるバンドメンバーを愛情いっぱいに紹介し、そして「最後にこの曲を歌ってお別れです」と言ったその曲は、86年のシングル曲「Say Yes!」だ。園田が「みんな立って!」と手振りで合図し、総立ちになった会場全体を七色のライトとミラーボールがまぶしく染める。歌い終えた菊池が「素敵な笑顔、ありがとうございました!」と呼びかける。今この瞬間、この空間にはハッピーしかない。


 次は10月4日、岡谷市民総合体育館スワンドームで開催される『UNAGI ROCK FESTIVAL 2026』が待っている。40周年を機に再び精力的に歌い始めたものの、緊張しいの彼女に対して「この先も長く歌い続けるために」という理由でライブを増やしたのは、スタッフの親心らしい。たくさんのファンとスタッフの愛情を一身に受けて、菊池は今も歌っている。新たなモーメントは続いていく。

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