米津玄師『STRAY SHEEP』はなぜ名盤となったのか 時代を映した“迷える羊”と確立された作家性

 つい先日、「オリコン週間合算アルバムランキング」で史上初となる累積300万ポイントを達成したことも話題となった米津玄師『STRAY SHEEP』(オリコン調べ/※1)。作品自体は2020年夏のコロナ禍真っ只中にリリースされたアルバムだが、発売から6年が経った今でも多くの人々を魅了し続ける、まさに名盤と呼ぶべき1枚である。

 なぜ本作は、これほど長く聴衆を惹きつけ、異例な記録へとたどり着いたのか。ひとつの記念すべきマイルストーンを達成したこの機会に、リリース当時の社会背景と作品そのものの性質というふたつの側面から、『STRAY SHEEP』がどのような作品として世に受け止められてきたのかを改めて振り返ってみたい。

米津玄師が“時代の中心”へと進んだ激動の3年間

 まずは2020年8月。『STRAY SHEEP』がリリースされた頃のアーティスト・米津玄師のあり方や、当時の社会情勢について思い返してみよう。通算5枚目のアルバムとなる本作は、前作『BOOTLEG』から約2年9カ月を経てのリリースとなった。この期間は、米津玄師というアーティストにとって、おそらくこれまでのキャリアにとって激動の時期だったことは想像に難くない。

米津玄師 5th Album「STRAY SHEEP」クロスフェード Kenshi Yonezu - STRAY SHEEP cross fade

 2017年11月の『BOOTLEG』リリースののち、2018年2月にTVドラマ『アンナチュラル』(TBS系)主題歌「Lemon」をリリース。同年には『東京2020オリンピック』を見据えた「<NHK>2020応援ソング プロジェクト」へ「パプリカ」(Foorin)を提供。2019年に配信リリースされた「馬と鹿」は、ラグビーをモチーフにしたTVドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)主題歌であると同時に、同年の日本開催で大いに盛り上がった『ラグビーワールドカップ2019』を各所で彩る楽曲にもなった。そして極めつけが、2020年6月にアルバムから先行リリースされた「感電」だ。TVドラマ『MIU404』(TBS系)主題歌への起用に加え、当時閉園が決まっていた東京・としまえんを舞台としたMVも呼び水となり、異例の人気を博す1曲となった。

米津玄師 Kenshi Yonezu - Lemon

 約3年の間にドラマ主題歌を中心にメガヒットを連発し、アーティストとしてさらに躍進を遂げた米津。そんな彼の待望の新アルバムとしてアナウンスされた『STRAY SHEEP』は、発売前から“異例の事態”を引き起こすほどだった。それが発売日前日、いわゆる“フラゲ日”時点での出荷枚数100万枚突破である。公式の発売日前にミリオンセールスを記録するという、昨今の邦楽シーンにおいては前代未聞の現象。そんな一報からも、恐ろしい勢いで膨らんでいた本作への聴衆の期待を窺うことができるのではないだろうか。

 重ねて触れておきたいのが、リリース当時の社会情勢である。2020年8月と言えば、未曽有のコロナパンデミックによる閉鎖的な空気がリアルタイムに世界中を覆っていた頃だ。最初の緊急事態宣言から約3カ月。エンターテインメントを含む多くの活動の制限を余儀なくされ、数年どころか数カ月先の未来も予想できない中で発売となったアルバムが『STRAY SHEEP』だった。作題を直訳した“迷える羊”は、新約聖書などにも登場するひとつのモチーフのひとつである。先行きの見えない世相の中、作品自体が持つ宗教的要素やメッセージ性も相まって、今作をある種の心の支えとした人も当時は多かったのではないだろうか。それもまた、アルバムの爆発的人気を後押しした理由のひとつだったのかもしれない。

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