マイケル・ジャクソンが“観る音楽”を発明した真意とは? プロダンサー・TAKAHIROが読み解く、孤高の天才の創造力と人間性
マイケルが生み出した“アイコニックな共通言語”の凄み
ーーTAKAHIROさんにはマイケルとマドンナという存在は、どのように映っていますか。
TAKAHIRO:ざっくり言うと、マイケルは右脳的、マドンナは左脳的。マドンナはダンサーたちをミラーのように配置するのが上手いんです。旬なダンサーを起用しながら、ステージ上ではすべての光が彼女に集まるように設計される。たとえスキャンダルがあったとしても、それをさらけ出し自分を輝かせられる。噂になっているモデルやDJをあえて共演相手に選んだりして。媚びのない力強いエンターテイナーです。
一方のマイケルもいろんなダンサーに支えられていました。そんな中、僕らの目にはどこまでもマイケルという圧倒的な存在が映る。でも2人には共通するところもあります。練習の鬼だということです。マドンナは誰よりもリハーサル時間、トレーニング時間が長い。だからこそ、その莫大な熱量と対等に張り合える仲間を常に求めていたのを覚えています。
ーー“マイケルはただの天才ではない、本気でやる天才”。TAKAHIROさんの著書『「私なんて」と考えてしまうあなたも、絶対に前向きになれる40の言葉』にそう書かれています。
TAKAHIRO:天才でも、生まれたときから魔法を持っているわけではないですから。魔法と言われるようになるまで作り込みを惜しまない。石は宝石になるまで磨かれるから宝石になるんです。
ーーTAKAHIROさん自身がその原石でしたが、現在は原石を見つける側に回りました。日本のダンスシーンのレベルも年々上がっています。
TAKAHIRO:アイドルグループの振り付けをしていても実感させられます。この世界に入って気づいたことがあって、中長距離走に長けた人は強いということです。短距離が得意な人の才能は目につきやすいですが、芸事は数カ月で答えが出せるようなものではない。眼前で結果を出しつつ、3、4年経って距離をどれだけ伸ばせられるかが勝負です。輝きながら走り続けて、磨き続けられるアーティストと供にいられる時が幸せです。
ーーそのような努力の積み重ねがダンスの常識を変えた。ただし、その成果はあまりにも大きく革新的ですが。
TAKAHIRO:ダンス界において、マイケルが革新的だったのはダンスを主役にしたことでしょう。それまでの音楽は聴くものでしたが、マイケルの登場で観るものに変わった。象徴的なMVはプロモーションの枠を越え、ショートフィルムとなってテレビで流れる。するとファンは生でそれを体験したくなります。ムーンウォーク(バックスライド)、アンチグラビティ(ゼログラビティ/踵を支点に身体を前傾させ戻す動き)が生まれる瞬間に立ち合いたいのです。まさに観る音楽を創造しました。
その音楽でも、黒人、白人の文化を融合させてしまう。マイケルが愛した白人的カルチャーはミュージカルやシアタージャズ的なもので、身体を引き上げ美しいラインを見せるダンス。そこに融合させたのが、反対に身体を引き下ろして波のように踊るストリートダンス。これがマイケルのやった奇跡のマリアージュです。
ーーそのようなマイケルイズムは今日、日本のダンスシーンにも継承されているとお考えですか。
TAKAHIRO:まず大きいのはやはりMVでしょう。歌っているだけではなくストーリーが導入される映像は、マイケルの影響とすら思わないほどに浸透しています。一方、ダンスは“型”として受け継がれている。プロダンスリーグ『D.LEAGUE』の解説と審査員を担当させてもらっていますが、そこでもマイケルの振りを取り入れながら、Dリーガーなりにリスペクトする様子がうかがえます。ハットを被って手を添えたり、爪先立ちをしたり、身体をY字にしたり。そのシルエットこそダンサーたちの共通言語なんです。「あ、マイケルっぽいじゃん、わかるわかる!」ってね。音楽でいう象徴的なコードのような“記号”になる。世界的にもそうで、クリス・ブラウンのパフォーマンスや、BTSの「Dynamite」(2020年)にもマイケルっぽいスタイルが随所に取り入れられていて、ムーブ全体の中で大きな力となっています。
しかもマイケル的な記号を使うことで、たとえ観た人が「マイケルだ」ってすぐわからなかったとしても、力強くて“キング”なイメージは強調される。つまり、振付家の意図を乗せることができるわけですよね。そういうアイコニックな共通言語をマイケルは今の時代に残してくれています。
ーーなるほど。いわゆるシグネチャー的な振りはTAKAHIROさんが手掛けた作品にも多く見られます。欅坂46の「サイレントマジョリティー」(2016年)なら上半身をポップさせる動き。櫻坂46の新曲「Lonesome rabbit」(2026年)なら両腕をX字に交差させる振り。あの動作だけは目に焼きついて離れないですよね。
TAKAHIRO:そうですね、ありがとうございます。