渡辺真知子、50周年&古希を目前に挑むNYレコーディング 本場のラテンミュージシャンと作り上げた『Amor Jazz 4』を語る
プエルトリコ出身ミュージシャンも大絶賛、「かもめが翔んだ日」の最新形
ーーアルバム中盤の「黒いオルフェ」は、一転してピアノとフルート、歌だけで緊張感がありますね。
渡辺:ピアノのビル・オコーネルさんの世界観が本当に素晴らしくて、独特の美しいピアノの波に、りえさんのフルートが絡み合い、私は言葉を置いて歌いました。まさに三位一体の一発録り。お互いの音を極限まで聴きながら歌ったので、ものすごい緊張感と臨場感がありました。歌い終わった瞬間、りえさんが私に「一体何を考えながら歌っていたの?」って、すぐに聞いたくらい、濃密な時間でしたね。
ーーその次の「MAS QUE NADA」は、冒頭にカエルの鳴き声のような音が優しく響く、とても不思議な始まり方です。
渡辺:あれはペリーコさんご自身が録音してくださったのですが、プエルトリコのシンボル“コキ”という小さなアマガエルの声なんです。今年私が古希を迎えるから、りえさんが「古希なら、プエルトリコにコキってカエルがいるんですよ!」って閃いて(笑)。
ーーなるほど(笑)。前半はパーカッションとカエルの声だけでゆったりと進んで、後半から一気にフルバンドになってラテンの世界へなだれ込んでいくという、長尺でドラマチックな構成になっています。
渡辺:そうなんです、カモメの次はカエルが翔ぶのかっていう(笑)。この曲は、「コンサートで再現するのが大変だから、半分くらいの長さにしない?」って言ったんですけれど、ペリーコさんが完全に世界に入り込んだようで、そのまま(笑)。でも、できあがってみたらとても幻想的で、世界のどこにもない「MAS QUE NADA」が作れたと、とても気に入っています。
ーー水原弘さんやちあきなおみさんで知られる「黄昏のビギン」も選ばれていますが、昭和を代表するラテン歌謡ですね。
渡辺:「黄昏のビギン」は昔から本当に大好きで、いつか自分のアルバムで歌ってみたいと思っていたんです。りえさんがクアトロ(ラテンでよく使われる4弦のギター)を取り入れた、ムーディーで美しいボレロのアレンジにしてくれて、プエルトリコのミュージシャンたちが絶妙な演奏をしてくれました。
ーー今回のアルバム全体を通して感じるのは、音が詰まっている今風の打ち込みとは真逆の、生演奏ならではの心地よい空気感があることですね。
渡辺:そうですよね。お料理でも何でも、少し空気を含んでいた方が美味しいじゃないですか。たこ焼きだって、中がギュッと詰まっているより、少し空気が入ってフワッとしている方が美味しい(笑)。現地のパーカッションの人たちも、全員が鳴らしている時は、あえて自分は叩かずにじっと待っているんです。「ここからが俺の出番だ」という瞬間までよく叩かずにいられるな、と感心するくらい、自分の役割をわきまえている。ラテンだからって、ただ大騒ぎして音をぶつけ合うんじゃなくて、ものすごく紳士淑女の社交界のような、洗練された大人のルールがあるんだなと、とても感動しました。
ーー真知子さんのセルフカバーで、「かもめが翔んだ日」と「ブルー」が、新録されています。「かもめが翔んだ日」は、前半のミディアムテンポから、後半で一気に情熱的なサルサへと変化する展開がカッコよくて、ライブですごく盛り上がりそうです。
渡辺:これは東京キューバン・ボーイズの貫田重夫さんのアレンジなんですが、レコーディングの直前に亡くなってしまって……。ペリーコさんも「なんて素晴らしいアレンジなんだ!」って大絶賛していました。
ーーこの曲は、さらにアルバムの最後に「スペイン語バージョン」も収録されていますね。
渡辺:以前にワンコーラスだけ作ったものはあったんですが、ペリーコさんがこれほど情熱的にプロデュースしてくださったアルバムだし、ラテン圏の人たちや、世界の人たちにも私の代表曲を届けるなら、やっぱりフルコーラスをスペイン語で歌うべきじゃないかという気持ちになって。急遽、日本にいるルイス・サルトールさんと連絡をとり、スペイン語の歌詞を作っていただきました。
ーー日本語の“かもめが翔んだ”というワードをスペイン語に翻訳するのは難しそうです。
渡辺:“かもめが翔んだ”をそのまま説明しようとすると、すごく長い文章になっちゃうし、何よりメロディに乗せたときに、耳に心地いい響きが欲しかった。日本語の“かもめが翔んだ”って、本当に素晴らしい言葉の響きじゃないですか。でも、スペイン語で“Gaviota solitaria(孤独なカモメ)”という言葉を当てはめたら、メロディにすっぽりとハマって、世界がパーッと開け放たれるような感覚になったんです。
ーーもうひとつのセルフカバー「ブルー」も、日本語版に加えてスペイン語バージョンが収録されています。
渡辺:「ブルー」のスペイン語版は、以前に『Amor Jazz 2 ~Show-wa~』の時にも一度収録しましたが、今回は住友紀人さんのラテンアレンジをもとに、りえさんがリアレンジしてくれました。今の時代、どこかウキウキとしたラテンの陽気さを含んだ「ブルー」が心地いいよね、ということで、今回はファンサービスの気持ちも込めて収録しました。
ーーアルバム1枚を通して聴くと、ラテンという大きな統一感はありつつも、ビッグバンドからしっとりとしたアコースティックなアレンジまで、真知子さんの様々な表情と歌声が堪能できる、ユニークな作品だと感じます。ご自身では満足度はいかがですか。
渡辺:期待以上のものができあがりました。若い頃は、お皿の上にいろんなものが山盛りのっているのが嬉しかったんですけれど、ある程度の年齢になってくると少し控えめだけれども最高に美味しいものがポンとのっていればそれでいい、という贅沢の仕方に変わってきますよね。音も同じで、ただボリュームが大きくて音が詰まっているより、しっかりとしたパワーや芯はありつつも、ちゃんと心地いい隙間があって、聴きやすくて分かりやすいものが心地よくなる。『Amor Jazz』シリーズは今作も含め、素晴らしいミュージシャンたちとの出会いのおかげで、“美味しい”と思える作品になりました。
ーー来年のデビュー50周年に向けては、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか。
渡辺:私の50年を振り返ると、ずっと大きな事務所に守られてきましたが、50歳を過ぎるころ両親を相次いで亡くし、53歳で「カモメミュージック」という音楽事務所を立ち上げたんです。直に自分の足で歩くような形になりました。独立して翌年に東日本大震災などもあり大変でした。ですが、もう一度ホールコンサートを固め直そうと決意し、段階を踏んで今の東京国際フォーラムで毎年恒例のコンサートへと、一歩ずつ自分の力で繋いできました。こうやって物事の根本を自分で分かって進めていけるので、大変だけれどここで人生がいよいよ面白くなってきたと感じています。
ーー独立されてからの経験は、作る楽曲や歌うテーマにも影響しましたか。
渡辺:ものすごく変わりましたね。50歳までは、歌うことといえば男と女のラブソングが中心でした。ところが、自分にとって最大のラブソングを作りたいと考えていた時に母が亡くなり、それは母に向けた歌になりました。そうして生まれたのが「それでもI love you」という曲でした。その9カ月後には父も亡くなって「いろいろな白」ができ、今度は東日本大震災が起きて命の尊さを歌った「愛(いのち)のゆくえ」、大切な友人を亡くして「花束をありがとう」、亡くなった愛犬に捧げる「ハート」という歌を作ってきました。
ーーどれも男女の恋愛にとどまらず、普遍的な愛を歌った曲ですよね。
渡辺:その時感じた“博愛”の歌です。これが“ザ・シンガー・ソング・ライター”ですね。
ーー50周年までのアイデアはすでに頭の中にあるんですね。
渡辺:もう、頭の中がパンパンですよ!(笑)
ーー本当にやりたいことが次から次へと溢れているんですね。
渡辺:これまでは、周りのミュージシャンやスタッフに背中を押されて、「はい、やります!」って必死に走ってきた感じだったんですけれど。ラテンの世界でもビッグバンドの世界でも、これまで皆さんにお世話になりながら、楽しくやってきたことをかなり形として残すことができたので。ここからは変に力みすぎることもなく、「この人と一緒に音楽をやってみたい!」と思う面白いコラボレーションにはどんどん挑んでいきたいなと思っています。
■リリース情報
タイトル:Amor jazz4~coqui~(アモール・ジャズ・フォー・コキ)
発売日:2026年4月22日
品番・価格:MHCL31270 ¥3,850(税込)
仕様:Blu-Spec CD2
<収録曲>
1.かもめが翔んだ日
2.O SOLE MIO
3.コーヒールンバ
4.ブルー
5.黄昏のビギン
6.ラッパと娘
7.CIELITO LIND
8.寒い夏
9.黒いオルフェ
10.MAS QUE NADA
-Special Track-
11.O SOLE MIO(Machiko Solo)
12.BLUE(Spanish)
13.Gaviota Solitaria (Spanish)
詳細:https://watanabemachico.lnk.to/Amor_jazz4
■ライブ情報
『渡辺真知子コンサート2026~唇よ、熱く君を語れ~Vol.3』
7月20日(月・祝)ピルボードライブ横浜
8月11日(火・祝)大阪新歌舞伎座(大阪)
8月29日(土)鴻巣市文化センター クレアこうのす(埼玉)
10月11日(日)あしかがフラワーパークプラザ(栃木)
10月18日(日)南魚沼市民会館大ホール(新潟)
11月7日(土)東京国際フォーラムホールC(東京)
渡辺真知子オフィシャルサイト:https://kamome-music.com/
ソニーミュージックショップ渡辺真知子商品一覧:https://www.sonymusicshop.jp/m/arti/artiItm.php?cd=83230173