ONE OK ROCK、YOASOBI、そして新しい学校のリーダーズなど、昨今、海外で活躍する日本人アーティストが増えているが、その先駆けとしてあらためて注目されているのがイエロー・マジック・オーケストラ……通称YMO（ワイエムオー）だ。1978年に元はっぴいえんどの細野晴臣、元サディスティック・ミカ・バンドの高橋幸宏、そして東京藝術大学大学院修士課程修了でスタジオミュージシャンとして活躍していた坂本龍一の3人で結成され、同年デビューアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』をアルファレコードより発表。まだ珍しかったシンセサイザーやコンピューターを駆使し、ディスコと東洋風味を組み合わせたそのサウンドは、日本国内だけでなく明らかに世界をターゲットとしたものであった。

　翌年、当時アルファレコードと提携関係にあった米A&M傘下のレーベル“ホライズン”が、このデビューアルバムをワールドワイドで発売する。ジャケットをよりエキゾチックなデザインに、そしてサウンドもアメリカ音楽界の巨匠アル・シュミットの手によりミキシングし直すなど、世界市場に向けて万全の体制を整えてのリリースであった。

　それに合わせる形でYMOは海外でのライブを開催する。まずは1979年8月、アメリカの人気バンド、The Tubesがロサンゼルスのグリークシアターで行ったライブにオープニングアクトとして出演した。ステージに上がったのはメンバー3人のほか、渡辺香津美（Gt）、矢野顕子（Key、Vo）、そして松武秀樹（Prog）を加えた6名。全員がヘッドフォンを装着し、コンピューターによるシンセサイザーの自動演奏に合わせて演奏するスタイルは観客の度肝を抜いた。現在では“同期もの”として一般化しているライブのやり方だが、当時は他に類を見ないものであった。特筆したいのは同期ものだからといって機械的な演奏ではないこと。サポートを含めたメンバー全員が凄腕のミュージシャンだったので、コンピューターによる正確なリズムと人間ならではのグルーヴ感が絶妙に融合したものになっていたのだ。そんなスリリングな演奏を目の当たりにしたロサンゼルスの観客は熱狂し、オープニングアクトであるにもかかわらずアンコールを求めるほどであった。

　ロサンゼルスでのライブで確かな手応えを得たYMOは、秋に同じメンバーで『TRANS ATLANTIC TOUR』と題したワールドツアーを行う。公演先はロンドン、パリ、ワシントンD.C.、ボストン、そしてニューヨーク。各地で彼らの先進的なサウンドは評判となり、たくさんのリスナーを獲得するとともに、第一線で活躍するミュージシャンに多大な影響を及ぼすなど、後の音楽シーンを変革するほどのインパクトがあった。

　先のグリークシアター、そしてこの『TRANS ATLANTIC TOUR』での公演の多くはライブ録音され、今年の4月にそれらのほぼすべてを収めたボックスセット『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY』が発売となった。CD5枚、Blu-rayそしてブックレットから成るこのボックスセットは、サウンドスーパーバイザーとして細野晴臣が全体を監修し、世界的エンジニアのGoh HotodaがMixを手掛け、当時のYMOのライブの魅力を余すところなく伝える大変貴重なものとなった。それゆえ追加生産分も含めあっという間に完売となってしまったのだ。

　“もっと気軽に当時のライブを聴きたい”とのリクエストに応える形で、8月から会場ごとのライブ音源がCDとLP、そして配信で順次リリースされることとなった。第一弾は先に紹介したロサンゼルスのグリークシアターでのライブである『YMO LIVE AT THE GREEK THEATRE 08/04/1979』。そして第二弾として今回『YMO TRANS ATLANTIC TOUR LONDON 10/16/1979』と『YMO TRANS ATLANTIC TOUR PARIS 10/18/1979』がリリースとなった。

　このロンドンとパリのライブは単独公演ということもあり、オープニングアクトであった先のロサンゼルス公演より曲数が大幅に増えている。ではそれぞれが同じ内容かというとそうではない。ロンドンではグルーヴ感たっぷりの「コズミック・サーフィン」とサイバーな雰囲気の「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」が演奏され、パリではフランス語によるナレーションが印象的な「中国女」が演奏されるなど、セットリストが異なるのだ。

　さらには同じ曲でもサウンドにかなり違いがある。両公演で冒頭を飾る「キャスタリア」では、坂本がシンセで弾くメロディの音色が別物だ。ディレイを効果的に使用したロンドン公演、オシレーターの特徴的な音を大胆に聴かせるパリ公演、いずれも甲乙付けがたい魅力を持つサウンドとなっている。

　さらにはアドリブソロも当然のことながら異なっている。特に「千のナイフ」は渡辺香津美のギターソロ、坂本龍一のシンセソロを存分に楽しむことができる曲で、ロンドン、パリそれぞれでのアプローチの違いを聴くのも一興。坂本のシンセサイザーソロはロンドンでは端正なものからアバンギャルドなものに発展、パリではひたすらアグレッシブにと、彼の音楽性の幅広さを実感できるものとなっている。

　今回の『YMO TRANS ATLANTIC TOUR LONDON 10/16/1979』と『YMO TRANS ATLANTIC TOUR PARIS 10/18/1979』のリリースに合わせ、Spotifyジャパンはプレイリストシリーズ“Artist CHRONICLE”にてYMO特集を11月19日0時に配信スタート（https://spotify.link/YMO_ArtistCHRONICLE）。“聴くドキュメンタリー”として知られているこのシリーズだが、計4回のエピソードには新しい学校のリーダーズのRIN、砂原良徳、ジンジャー・ルートが出演するほか、小山田圭吾や岡村靖幸もコメントを寄せ、若いリスナーにYMOの魅力を案内する格好の内容となっている。

　YMOは「SYMBOL OF MUSIC AWARDS JAPAN 2025」に選ばれるなど、冒頭で述べたように今あらためて注目を集めている。今回のライブ音源も半世紀近く前の演奏だが、他ならぬ細野晴臣自身がそれを聴いて「今回、GOHくんのスタジオで新しいミックスを聴いてびっくりしたんです。生きがいいって言うか、勢いがあって……これはすごくいいバンドだなと」と、『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY』のブックレットに残したほどインパクトのあるものだ。世界を驚かした日本のバンドの演奏、その価値は色褪せるどころか、ますます輝きを増していると言えるだろう。

■商品情報
YELLOW MAGIC ORCHESTRA『YMO TRANS ATLANTIC TOUR LONDON 10/16/1979』
2025年11月19日（水）発売
予約リンク
CD：https://ymo.lnk.to/LONDON1979_CD
LP：https://ymo.lnk.to/LONDON1979_LP
配信リンク：https://YMO.lnk.to/TRANSATLANTICTOUR_LONDON

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『YMO TRANS ATLANTIC TOUR PARIS 10/18/1979』
2025年11月19日（水）発売
予約リンク
CD：https://ymo.lnk.to/PARIS1979_CD
LP：https://ymo.lnk.to/PARIS1979_LP
配信リンク：https://YMO.lnk.to/TRANSATLANTICTOUR_PARIS

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『YMO TRANS ATLANTIC TOUR LONDON 10/24/1979』
2026年2月18日（水）発売
予約リンク
CD：https://ymo.lnk.to/LONDON10241979_CD
LP：https://ymo.lnk.to/LONDON10241979_LP

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『YMO TRANS ATLANTIC TOUR NEW YORK 11/06/1979』
2026年2月18日（水）発売
予約リンク
CD：https://ymo.lnk.to/NEWYORK1979_CD
LP：https://ymo.lnk.to/NEWYORK1979_LP

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『YMO LIVE AT THE GREEK THEATRE 08/04/1979』
発売中
CD：https://ymo.lnk.to/GREEKTHEATRE_CD

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY』
発売中
Sony Music Shop：https://ymo.lnk.to/YMO_1979_PKG

『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY』特設サイト
URL：https://www.110107.com/ymo_1979

YMO　Sony Music artist site
URL：https://www.sonymusic.co.jp/artist/YellowMagicOrchestra/

Spotify「YMO: ArtistCHRONICLE」
https://spotify.link/YMO_ArtistCHRONICLE