広末涼子、失われた歌姫の帰還 代表曲からカバー曲まで披露した25年ぶりライブの驚き
25年ぶりにステージで歌った広末涼子の歌声は、衰えていないどころか、歳と経験を重ねたがゆえの魅力が増していた。この25年間、どこで歌っていたのだろうと考えてしまうほどに。
2024年12月9日、19日、20日に広末涼子のライブ『NEXWILL Presents RYOKO HIROSUE Premium Live "Best Day Ever"』が東京・COTTON CLUBで開催された。3日間にわたる5公演のうち、2024年12月20日の最終公演の模様をレポートする。
会場が暗転すると、ダニー・ハサウェイ の「This Christmas」が流れ、同時にステージ上のスクリーンに広末涼子のリハーサル風景が映し出された。そして、バンドメンバーがステージに登場。ベースの伊藤健太、キーボードの冨田謙、ドラムの張替智広、ギターの高木大丈夫という顔ぶれだ。そして、ノースリーブの黒のワンピースを着た広末涼子もステージに登場。ファンの大歓声に手を振った。
1曲目は「風のプリズム」。1997年の原由子作詞作曲によるシングル曲だ。今回の『NEXWILL Presents RYOKO HIROSUE Premium Live "Best Day Ever"』は、1999年2月の初めてのツアー『RH DEBUT TOUR 1999』以来となるライブだった。そのツアーで広末涼子はいきなり日本武道館公演を2日間行っており、それが私にとって初めて見たアイドルのライブでもあった。あれから25年。広末涼子は2020年に竹内まりや作詞作曲による「キミの笑顔」をリリースし、2024年にはNight Tempoの『Connection』に収録された「ディープ・ブレス」に参加するなど、音楽活動を再開しつつある。ではライブではどうなのか……と「風のプリズム」に耳を澄ませたところ、あの頃と変わらない歌声に驚いた。まるで失われた25年が一気に蘇ったかのような感覚になったのだ。高音はそのままに、さらに低音の潤いが加わり、より深みを増した歌声になっていた。本当に25年間ライブをしなかった人なのだろうか……と思うほどであり、ちょっとした魔法を見せられた感覚だ。
今回は、多数のカバーも交えてファンを楽しませようとしていたのも特徴で、2曲目はMr.Childrenの「星になれたら」。広末涼子は伸びやかな歌声を聴かせる。歌に合わせて手を振るファンに微笑み、終盤では自ら手を振りながら歌った。
広末涼子は「みなさんこんばんは、『Best Day Ever』最終日、大トリ、ラストのラストの公演です、最後まで楽しんでいってください」とファンに挨拶。3曲目の「ジーンズ」は1998年のシングル曲だ。ここでは伊藤健太と高木大丈夫がコーラスも担当し、伊藤健太の弾くベースラインも心地よく、心踊る「ジーンズ」を聴かせてくれた。
MCでは「ジーンズ」が27年前の楽曲であることに触れて、「そんな久しぶりに歌っていいのだろうか、果たして歌えるのだろうかっていうところから始まったんですけど」と笑い、それでも「自分の中では本当に人生最高の日だと思っています。みなさんの記憶にも残る最高の日になればいいなと思います」と述べて次の楽曲が始まった。その4曲目はスピッツの「あじさい通り」。翳りのある曲調を歌いこなすボーカリストとしての広末涼子を堪能させた。
そして、5曲目はともさかりえの「カプチーノ」。椎名林檎(クレジットはシーナ・リンゴ名義)作詞作曲による名曲であり、椎名林檎が同時期に広末涼子に楽曲提供をしていたことを考えれば納得のカバーだ。
6曲目は槇原敬之の「素直」。伊藤健太はウッドベース、高木大丈夫はガットギターに持ち替え、広末涼子も椅子に腰かけてしっとりと歌いあげた。7曲目は今井美樹の「Blue Moon Blue」で、前の楽曲と同じくアコースティック編成。広末涼子の甘い歌声を満喫させ、そして彼女もまた間奏では演奏を聴いて楽しんでいた。
MCでは、中学生のときはカラオケでJUDY AND MARYやTRFを歌っていたというエピソードを披露してから、8曲目のYUKIの「ドラマチック」へ。冒頭から澄んだ高音の歌声を聴かせ、疾走感のあるロックナンバーを見事に駆け抜けた。
9曲目は平井堅の「POP STAR」。サビの最後の〈君だけに〉で広末がフロアを指さし、それをミラーボールが照らすという予想外の光景も見せた。
ハイライトは10曲目の「プライベイト」だ。そもそも「プライベイト」は、1998年の「ジーンズ」のカップリング曲だったが、1999年の『private』にも収録され、アルバムのタイトルナンバーになるという珍しい流れをたどった楽曲だった。ファンにとっては、武道館公演で口元に人差し指をあててファンを静まらせたあと、広末涼子が歌いあげた光景も思い出深いだろう。椎名林檎(クレジットはシーナ・リンゴ名義)が作詞作曲を担当し、等身大の広末涼子を描こうとしたのであろう傑作だ。広末涼子が「プライベイト」をほぼ直立で歌ったところにも、この楽曲と向き合おうとする実直さを感じたし、それが25年ぶりの強烈な感動を生みだしていた。
MCでは『RH DEBUT TOUR 1999』に参加したファンに挙手をさせる場面も。さすがに多くはない。そして、「私の大親友の曲を今日は最後にお届けしたいと思います」と語り、最後となる11曲目にAIの「Story」を歌った。せつせつとしたバラードであり、〈一人じゃないから〉というフレーズに、この楽曲を最後にした理由が込められているように感じられた。