EOW、草野華余子参加の最新EP『T.G.I.F!』に込めた“怒り”と“解放” 「世を憂えてる曲が多すぎる」
EOWが2年ぶりとなるEP『T.G.I.F!』をリリースした。今年結成5周年を迎え、メンバーがニューヨークで武者修行を行うなど、慌ただしい日々を過ごす中で制作された同作。草野華余子を制作に迎えた「mirror,mirror」や「アルデバラン」をはじめ、彼らが掲げる“エオーショナル・ポップ”=“解放”を改めて宣言するような楽曲群が収録されている。
今回のインタビューでボーカルのLacoは「腐った絶望をひっくり返したい」と強く訴え、そのために「爆発的に売れたい」とも語っていた。多方面で活躍する一流のプレイヤーが集結したEOWは、ポピュラリティに溢れる楽曲と確かな演奏力、そして現在の音楽シーン対する“怒り”を動力に、ここからより一層加速していくことになるだろう。(編集部)
たまたま好きな音楽が似通っていた
ーーEOWの皆さんはリアルサウンド初登場ということで、基本的なところから伺えたらと思います。まず、そもそもどうやって始まったバンドなんですか?
Yutaro(Ba):もともとボーカルのLacoちゃんがソロでシンガーソングライターとして活動していて、僕がサポートでベースを弾いていたんです。あるときなんとなく気が向いて、僕からLacoちゃんに「一緒にバンドやらないか」と持ちかけたのが始まりですね。
Laco(Vo):ちょうどその頃、シンガーソングライターとしての活動が行き詰まりかけていたタイミングだったんです。大きなオーディションに出たんですけど、そこで歌のスキル以外の部分が長けている女の子に大差で負けたりして、スキル一辺倒でやってきた私は「日本の音楽業界に必要とされない存在なんだ」と心が折れてしまって。9歳から歌をやってきて、それが人生初の大きな挫折だったと言いますか……。
Yutaro:まさかそんなに落ち込んでいたとは知らず、そのタイミングでたまたま俺の気が向いて(笑)。
Laco:そうなんですよ。1人で歌をやっていく勇気がもうなかったんで、「Yutaroとやったらオモロそうやな、よしやろう」ってなったのが最初です。
Yutaro:それでバンドをやることになって、最初に声をかけたのが鍵盤のmamushiです。それまではただのゲーム友達だったんですけど。
mamushi(Key):お互いに「どうやら音楽をやっているらしい」とうっすら知ってはいたんだけど、弾いてるところは一切見たことなかった。
Yutaro:本当にポケモン(ポケットモンスター)でしか会ってなかったもんね。そのあとにドラムのOtakeさんとジャムセッションの場で出会って。彼はバンドと並行してバリスタの仕事もしているんですけど……。
Otake(Dr):ちょうど自分のお店を立ち上げた直後くらいのタイミングで「バンドやんない?」と声をかけてもらって、「おっけー!」って。
Yutaro:そう(笑)。カフェもあるからバンド活動は難しいやろなと思いつつ声をかけたんですけど、二つ返事で引き受けてくれて。その後、前のギターが抜けちゃったときに入ってもらったのが、僕と同じ洗足音楽大学にいたTomoakiです。
Tomoaki(Gt):それが2020年ですね。EOWという名前のバンドが始まったのは2019年なんですけど、その翌年に僕が入って今の体制になりました。
ーー音楽性については、最初から決まったものがあったんですか?
Laco:もともと好きなものがわりと似通っていたんですよね。私は小さいときからずっとゴスペルをやっていて、海外のディーヴァ系シンガーが大好きで育ってきたんですけど、Otakeさんもゴスペルクワイアでバンマスをやっていたような人で。
Otake:コンテンポラリーゴスペルのマスクワイアで、バックバンドとして演奏していました。
Yutaro:で、僕もロサンゼルスに2年くらい住んでたんですけど、そのときにチャーチで弾いたりしていて。
Laco:共通してR&Bやファンクなどのブラックミュージック好きが集まっていたので、自然とそういうグルーヴ重視の音楽をやるようになりました。「音楽はノレてナンボやろ」みたいな。
mamushi:集まってみたら、共通するのがちょうどそのあたりだった。
Yutaro:mamushiさんに関しては、本当にただのポケモン仲間でしかなかったんですけど(笑)。
mamushi:たまたまだよね、そういう意味では。
ーーそう考えると、集まるべくして集まった人たちなんですね。
Yutaro:そうかもしれない。類友で集まった感じですね。
Tomoaki:僕はあとから加入しているというのもありますけど、唯一ゴスペルを通ってないんですよ。音楽の趣味はたぶんメンバー中で一番広いと思うんですけど。親の影響で80年代ポップスや歌謡曲を好きになったところから始まって、パンクやメタル、ヒップホップと雑食に聴いてきたタイプです。
ーーなんでも楽しめちゃうから、好みの偏った人たちともちゃんと重なる部分がある?
Tomoaki:たぶんそうだと思います。
EOWは自分が一番自由でいられる場所
ーープロフィールを拝見すると、皆さんそれぞれEOW以外での活動もされていますよね。その中でこのEOWというバンドがどういう意味合いを持つ存在なのか、1人ずつ伺ってもいいですか?
mamushi:僕はバンドのほかに作曲や編曲の仕事を個人で請けたりもしてるんですけど……なんだろうな、家を2つ借りてるみたいなイメージです。
Tomoaki:と言いますと?
mamushi:たとえば東京と大阪に自宅があって、本宅/別宅の区別もなく2拠点生活をしてるみたいな。同じ音楽ではあるけどジャンルがまったく違ったりして、頭を切り替えながらやっているところがけっこうあるんで。
ーー本来やりたい音楽としては、やはりバンドのほうが近い?
mamushi:いや、あんまり「こういう音楽がやりたい」と考えたことはなくて。どっちかというと「この音が使いたい」「こういう音が出したい」というのがメインなんで、それをどういう音楽として出すかにはこだわってないというか。だからこそ、いろんな出し方ができる今の環境はありがたいっすね。
ーーでは、Tomoakiさんはいかがでしょう。
Tomoaki:僕は逆に“EOW一本マン”なんで。いちミュージシャンとして「自分の作った曲をたくさんの人の前でプレイしたい」っていうのが音楽をやる一番の理由なんですけど、EOWはそれができる場、というくらいの認識でいます。
ーーLacoさんはどうですか?
Laco:個人で歌のお仕事をいただいたりもしているんですけど、そこでは「求められるものをどう的確に返すか」という職人仕事に近いイメージなんです。それに対してEOWは自分のやりたいこと、伝えたいことをそのまま伝えられる場所なので、自分が一番自分らしくいられる。家族と同じくらい大切な居場所って感じですね。
ーーその両方があるからこその喜びもありそうですね。
Laco:私はとにかく歌うことが大好きなので、自分の声が求められることはすごくうれしいですし、いろんなところで歌を聴いてもらえる機会があるのは本当にありがたい。どっちの活動も、この先もやっていきたいと思っています。
Yutaro:僕もLacoちゃんと似た感じなんですけど、サポートミュージシャンの仕事の場合は決まった内容通りに弾くことが9割なんですね。誰かの表現したい音楽のために弾く、彼らがやりやすいように支える感じになるんですけど、自分のバンドだと自分のファンに向けて直接プレイできるから、そこが一番大きな違いかなと思います。EOWは自分が一番自由でいられる場所、ですかね。
Otake:僕は、自分がニュートラルでいられる場所だなと思っていて。「求められるものを返す」というアジャスト作業がこのバンドではまったく必要なくて、自分のそのままを出せばそのままそれが受け入れられる。あったかい場所ですよ。