NAQT VANEはここから始まる 澤野弘之&Harukazeが語る1stアルバム『Dispersion』と“挑戦”

NAQT VANEが奏でる壮大な世界観「もっといろいろな受け取り方をしてもらいたい」

ーーいろいろなジャンルという意味では、10月27日にリリースされた「NIGHTINGALE」がNAQT VANEとしては新境地とも言える壮大なバラードです。繊細なピアノの音のなかで響き渡るHarukazeさんの凛としたボーカルが美しい曲ですが、まずはサウンド面から、音作りで意識したことは何かありましたか?

澤野:映画『唄う六人の女』の主題歌のオファーをいただいて。“バラード”というオーダーでした。NAQT VANEとしては、過去に少しバラード寄りの「Reminiscing」という曲があったんですけど、当時はバラードという意識ではなかったので、この機会にNAQT VANEのバラード曲をちゃんと作ってみようと思って制作を始めました。後半は壮大になっていくんですけど、始まりはシンプルにピアノでスタートさせて、わかりやすいサウンド感で、なおかつメロディアスなものを目指して構築していきました。

ーータイトルにある「ナイチンゲール」は鳥の名前だそうですね。サヨナキドリ、ヨナキウグイスとも言われている鳥だと。実際に調べてみると、とてもきれいな鳴き声の鳥で。

Harukaze:きれいですよね。タイトル案がいくつかあったんですけど、いちばんこの曲に合うと思ったのが「NIGHTINGALE」でした。ちょうど昨日、語源を調べていたんですけど、”nightingale”はもともと古英語で”nihtegale”、”niht”=“夜”で、“gale”は“歌う人”という意味があるんだそうです。ただ、この曲の伝えたいメッセージは鳥だけではなくて、自然と人間の共存/共栄ということです。鳥の鳴き声や、木の葉っぱの音など、自然が発している美しい声に私たちがちゃんと耳を傾けて、お互いにリスペクトし合いながら生きていかなきゃいけないというメッセージを込めています。

NAQT VANE / NIGHTINGALE (Official Music Video)

ーーこの「NIGHTINGALE」に限らず、NAQT VANEの音楽には全体的にサウンドなどから大自然の美しさであったり生き物への愛を感じます。そういう意識はありますか?

澤野:あまり特別意識しているわけではないんですけど、どうなんだろう? Harukazeはある?

Harukaze:澤野さんの曲に“愛”は感じていますよ。音に対する愛もそうですし、私自身はこの曲を通じて「愛を伝えたい」という思いもあります。

澤野:うん。自由に解釈してもらえるのが嬉しいです。僕自身、サウンドトラックを作る時は特にですが、基本的には作品ありきで曲を作ることが多いので、聴く人はその作品とリンクして思い浮かべることがほとんどだと思うんです。でも音楽を作る側としては、後にその作品と切り離して自由なイメージで曲を聴いてほしい思いもあるんですよ。それはサントラに限らず、NAQT VANEで作る音楽も同じで、タイトルやビジュアルイメージで世界観が固定されてしまう部分もあるかもしれないけど、それを無視して自然や恋愛を想像したり、もっといろいろな受け取り方をしてもらいたい。自分だって、そういう音楽の聴き方をしてますしね。

NAQT VANE / puzzle (Official Music Video)

ーーちなみに澤野さんは、他の楽曲制作とNAQT VANEの曲作りで何か変えている部分はありますか?

澤野:意識して変えることはあまりないですね。時期的なもので曲調が変わることはあるかもしれないけど、基本的にはヌジークにしても他の楽曲提供にしても、自分がかっこいいと思うサウンドを作るだけ。ただNAQT VANEは、Harukazeが英詞をかっこよく歌ってくれるので、それを活かしたサウンド作りが安心してできるというのはあります。

ーーその点で言うと、シングル曲には全英語詞バージョンが用意されているのもNAQT VANEの特徴ですよね。

澤野:Harukazeが英語が得意だというのもありますし、僕自身も曲作りの際に日本語よりも英語のグルーヴ感で作っていることが多いので、それを素直に表現した形で聴いてほしいんです。海外の方や日本人でも英詞が好きな方にも届いてくれたら嬉しいと思っています。

ーー歌詞も完全な翻訳ではない部分が、また面白いですよね。

Harukaze:澤野さんの作ったサウンドにうまく乗るような音の言葉たちを作詞家さんが選んでくれているので、同じメッセージではあるけど全部直訳ではないんです。英語バージョンでも伝えたいことは一緒ですけど、あくまで美しく響く言葉を選んでもらっています。

ーーなるほど。あとNAQT VANEはタイアップも多く、たとえば5曲目「Odd One Out」はドラマ『Dr.チョコレート』(日本テレビ系土曜ドラマ)の挿入歌でした。澤野さんの劇伴作りのノウハウが、こうしたタイアップ作品の制作に活かされている面はありますか?

澤野:タイアップが決まる時って、「NIGHTINGALE」のようにオファーをいただいてから作るケースもあるんですけど、NAQT VANEの場合は、すでに作った楽曲に興味を示してくださることが多くて。なので、タイアップといっても、単純に今作りたいサウンドを表現していることのほうが多い気がします。でも、音楽を聴いて映像をイメージしてもらいたいという感覚で作っているところもあるので、もしかしたらそういう気持ちで作っているからこそ映像と音がスムーズにリンクして、タイアップの機会をたくさんいただけているのかもしれないですね。

ーー何か視覚的なイメージを持ちながら制作をしているわけではない、と。

澤野:曲作りの時に何かの映像をイメージしながら作ることは、あまりないですね。単純にこれがかっこいいものなのかどうか、という音だけの感覚で作っています。劇伴の時もシーンを浮かべながら作ることは、実はほとんどない。あらかじめ渡される音楽メニュー表にはそういうことが書かれているけど、音楽を作る時は、やっぱり音楽としてどういうものを作るかに集中してます。どれくらい自分がかっこいいと思えるものをサウンドに散りばめられるかをいちばん意識していますね。もちろん、なんとなくイメージは思い浮かべているので、まったく度外視して作っているというわけではなく、寄り添って作っている部分もあるとは思います。

NAQT VANE / Odd One Out (Official Lyric Video)

ーーHarukazeさんはいかがですか?

Harukaze:「NIGHTINGALE」に関しては映画を観てイメージしていたんですけど、他の曲に関しては後からタイアップが決まったものが多いので、レコーディングの時は自分なりの解釈で歌っています。

ーーそれこそ、先ほどの空中ブランコのようなことですね。

Harukaze:そうです(笑)。どう音に感情を乗せるかが自分の役割だと思っているので。たとえば、「TOUCH」では実際に失恋している人に話を聞いて、その人になりきった気分で歌ってみたり、「Odd One Out」は人と違って目立ってしまうというメッセージのタイトルなので、昔の自分を思い出して戦闘心強めで歌ってみたり。

ーー目立ってしまった過去があるんですか?

Harukaze:小学校の入学式の時に、みんながランドセルを背負っているなかで、私ひとりだけリュックだったり(笑)。他にもいろいろと、周りからはみ出してしまっていると思って悩んだ時期もあったんです。でも、「人と違うのがいいんだよ」と両親からもよく教えられていたので、そんな私が「それでも大丈夫なんだ」というメッセージを曲を通して伝えられたらと思っています。

ーーアルバムにも収録されているASICS「ススメ、自分。-すべての人にエールを-篇」のテーマソングに起用された「Beautiful Mess」では、どのようなことを表現したいと思っていましたか?

澤野:サウンド面で言うと、ライブの時にお客さんと一緒にシンガロングできるような曲があるといいなと思って、後半にコーラスを入れたりしてみました。サウンドとしても前向きな気持ちになれるような、みんなと共感できるような曲になれたらいいなと思いながら作りましたね。

NAQT VANE / Beautiful Mess (Official Visualizer)

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