アミューズ、「One Young World Summit」に参加し続ける理由 アーティスト・シャラ ラジマ&担当執行役員・鈴木啓太が得たもの
アーティストマネージメントを中心とする総合エンターテインメント事業を展開する株式会社アミューズ。同社はこれまで、「感動だけが、人の心を撃ち抜ける」という思いのもと、さまざまなエンターテインメントとコンテンツを届けてきた。
そんなアミューズは、かねてから力を入れてきた社会貢献活動を背景に、次世代リーダーの育成と国際交流を目的とした地球規模のサミット「One Young World Summit(以下、OYW)」に2015年から参加し続けている。また、先日「みんな違うのが、おもしろい。」をスローガンに、エデュケーション(教育)とエンターテインメントを掛け合わせた“エデュテインメント”により「互いの違いを尊重しあえる社会」を目指す「一般財団法人みらいエデュテインメント財団」も設立。活動内容のうち、特に将来のグローバルリーダーを育む「異文化交流」には「OYW」とも通じる部分がある。所属アーティストや社員の派遣、日本からの参加者に対する支援などを行う同社は、どのような想いで「OYW」に参加し、その経験をエンターテインメントの世界へと結びつけているのだろうか。
今回リアルサウンドでは、2022年の「OYW」に参加したモデルやタレントとして活動するシャラ ラジマ氏と、アミューズの「OYW」への参加を2017年から支えてきた株式会社アミューズ 経営企画部 執行役員の鈴木啓太氏にインタビュー。アミューズが「OYW」にかける想いや現地での活動の様子など、詳しく話を聞いた。(編集部)
アミューズが「One Young World Summit」に参加したきっかけ
——アミューズが、2015年から参加を続けている「One Young World Summit」。これはどのようなものなのか、改めて教えていただけますか?
鈴木:「One Young World Summit」とは、次世代リーダーの育成と国際交流を目的とした地球規模のサミットです。世界の190を超える国と地域から、18~32歳の若者が2000名以上参加し、気候変動から紛争解決まで、世界が直面する差し迫った課題の解決を目指して、ディスカッションやスピーチ、ワークショップなどを行います。このサミットは2009年の世界経済フォーラムで宣言され、2010年2月にロンドンで第1回が開催されて以降、開催国を変えながら、継続的に実施されています。
——アミューズが「OYW」に参加するようになったきっかけを教えてください。
鈴木:弊社の映像プロデューサーのもとに、「OYW」の情報が届いたことが大きなきっかけでした。世界規模で社会課題の解決を目指す素晴らしいサミットがあるという話を聞いて、「OYW」の日本事務局に取材をしたところ、2015年のバンコク大会に一度来てみないかとお誘いをいただいたんです。
弊社としても、もともと社会貢献活動には力を入れていましたし、「OYW」の目指すビジョンに共感したこともあり、まずは役員陣を中心にバンコク大会を視察することが決まりました。実際に会場を訪れてみたところ、想像以上に大規模で熱量の高いサミットであることに感銘を受け、2016年以降も社員の派遣や日本から参加する若者の支援を行う形で、関わりを継続することになりました。
——2022年からは、アミューズが主体となって「OYW」への参加者を募っていますよね。
鈴木:そうなんです。2021年までは「OYW」事務局で参加者を募集し、選考を経た方に対して、弊社として参加を支援していましたが、2022年からは、「OYW」への参加をアミューズが広く募る形へと変更しました。弊社が主体となって募集活動を行うことで、より多くの方に「OYW」を知っていただく機会をつくれるかもしれないと考えたこと、音楽や文化の力で世界を変えたいと思う若者を「OYW」に送り出したとき、新しい景色が生まれるかもしれないと思ったことが、このような形に変えた大きな理由です。
——シャラさんと鈴木さんは、「OYW」への参加経験があると伺っています。お二人はどのような経緯でサミットへの参加を決めたのでしょうか。
シャラ:サミットへの参加を決めたのは、大里(洋吉)会長に勧めていただいたことがきっかけでした。バングラデシュをルーツに持ちつつ東京で育った私は、「人種のボーダーレス」をコンセプトに、褐色の肌と金色に染めた髪、青のカラーコンタクトをして、見た目からは国籍や人種が区別できないような形でモデルやタレントの活動をしています。
そうしたコンセプトをアミューズ所属直後の2021年末に会長にお伝えしたところ、「それなら世界規模で行われるスピーチを見ておいたほうがいい」と、「One Young World Summit 2022」への参加を勧めてくださったんです。私としても世界のさまざまな人がスピーチする様子を見て、世界にはどんなスタンダードがあるのかを体感してみたいと思い、参加することに決めました。
鈴木:私は2017年にコロンビアのボゴタで行われたサミットに参加したのですが、その年からアミューズが本格的に「OYW」へ社員を派遣することが決まったんですね。当時、人事部で働いていた私が社内事務局を務めることとなり、自分自身も現地の状況を詳しく知りたいと思い、参加を決めました。
「OYW」を通じて感じたエンターテインメントが持つ力
——現地では、具体的にどのような活動を?
鈴木:現地での時間の使い方は各々に委ねられているのですが、大きな軸としては、将来に続く「人とのつながり」をつくること、サミットの中で行われるセッションに参加して学びを得ること、会場で知り合った人とさまざまな対話をすることの3つに集約されます。会場に到着すると、まずは受付の手続きを行うのですが、その時点からすでに活発な交流が生まれていたのは印象深かったです。国籍も言葉も何もかも違う人たちが「どこから来たの?」と、積極的に話しかけていました。
シャラ:マンチェスター大会でも、そういう光景はよく見られました。積極的な人や目的意識の高い人は、ネットワークをつくるつもりでサミットに来ているんですよね。私の参加した回は、毎晩交流会が開かれていて、そこでも他国の方との交流を深めることができました。
鈴木:昼間に開催されているセッションも、強制ではなく自分が関心のあるテーマのものに参加する形で、セッションに参加しない時間は、知り合った他国の方といろいろなテーマで話をしていました。
シャラ:違う国の方々と会話をするのも、大切な時間でしたね。私も最終日に、オランダで国家公務員として働いている方と、現地の街づくりや教育、文化などについて、いろいろなお話を聞かせてもらいました。特に教育については、社会問題をなくすためにどういう取り組みをすべきなのか、とても熱く語ってくれて。オランダは教育先進国だなと感じましたし、普通に暮らしていたらオランダの国家公務員には出会えないので、「OYW」ならではのチャンスだなと思いました。
鈴木:まさにそういった出会いが、「OYW」の醍醐味ですよね。私たちがオランダについて詳しく知ろうと思っても、メディアに書いてある内容は間接的な情報ですから、どれだけ想像力を働かせても、想像し切れない部分や知ることのできない部分があると思うんです。それが、世界各国の出身者に直接話を聞くことで、現地の様子を一次情報として感じ取ることができる。190カ国以上から人が集まっているサミットは、「小さな地球」といっても過言ではありません。開催期間中にいろいろな人たちと話をするのは、とてもおもしろい経験でした。
——そういった他国の方とのコミュニケーションを通じて、刺激になったことや得られたものは何かありますか?
シャラ:私の場合は、世界と日本であまり変わらないスタンダードがあることを体感できた一方で、アーティストと社会の距離感が思っていた以上に遠いことを知るきっかけにもなりました。
例えば、現地ではLinkedInというビジネスSNSでコネクションをつくる方が多かったのですが、私はそもそも、そのSNSの存在を知らなくて。ファッションもファッショナブルな服装よりも、オフィスカジュアルで来ている方のほうが多かったですし、私からするとサミットの会場は「ちゃんとした世界」でした。活動を通じて私がこれから対峙することになるものを、解像度高く見ることができたように思います。
だからこそ、社会や世界を知るという意味で、「OYW」にアーティストが参加する意義があるのだと思います。社会との距離感をしっかり認識できれば、社会とのコミュニケーションの取り方を少し変えることができると思うので。
鈴木:そもそも、エンターテインメントを手がける企業の参加がとても少なかったですよね。グローバル企業や大手企業に勤める方が多くて、知り合った方には、エンタメ業界やアミューズについて所属アーティストの動画なども見せながら説明をすることが多かった記憶があります。
ただ、現地で出会った方に弊社の説明をすると、「難しい問題を世界の多くの人に知って、理解してもらうためには、音楽や歌詞にメッセージを乗せるのが一番だ」と言ってくださる方が多くて。サミットのオープニングセレモニーでも、ひとたび音楽がかかれば参加者がみんな、言葉の壁を越えて肩を組んで盛り上がっている姿を目の当たりにして、エンターテインメントは時に100時間の議論よりも、瞬時に人の心をつなげてくれる力があるのだと実感しました。私たちの仕事の意義を感じられた、非常に貴重な時間だったと思います。