「恋の後味」と『花束みたいな恋をした』の共通点

──「恋の後味」の主人公は、前回の3部作の主人公と同一人物ですか？

いしわたり：どうなんでしょう。もう何年も経過してしまったから（笑）。

寺嶋：私の解釈では、今までの3曲は「寺嶋由芙」をいしわたりさんがリサーチしてくれた上で、フィクションとはいえ私を思い浮かべながら書いてくださっていたと思うんです。例えば「わたしを旅行につれてって」だったら、「古き良き時代から来た真面目なアイドル」と謳っている、ちょっと古風な女の子をイメージしてくださっていると思うんですよ。

　「知らない誰かに抱かれてもいい」は、自分のことを真面目だと言っている人が歌うことのギャップを意識してくださっているし（笑）、「結婚願望が止まらない」（2018年）は、当時の私が世間的には結婚を意識する年齢だったし、アイドルでも結婚する人がだんだん増えてきている現状とか、そのあたりを踏まえてくださっているように思えて。アイドル界の雰囲気や、その中で私がどういうポジションにあるかを、的確に言い表してくださるような歌詞だったんです。

──なるほど。

寺嶋：それに比べると今回は、「寺嶋由芙」とはちょっと遠いところにいるキャラクターというか。当て書き感みたいなものは、今回良い意味で感じなくて。誰でも主人公になれる曲だと思ったし、私も「ゆっふぃー」のまま歌う曲ではないなと。表現のステップを一段上げていただいたような気持ちになりました。

いしわたり：当て書き感と聞いて今思い出したのですが、「映画『花束みたいな恋をした』の主人公みたいな感じで」というリクエストが加茂さんからあったので、どちらかというと「寺嶋由芙」像よりも、映画の主人公を意識していたのかもしれないです。

　『花束みたいな恋をした』が他の映画と一線を画しているのは、サブカル感の絶妙なワードセンスじゃないですか。そこを外してしまうと他のラブストーリーと同じような雰囲気になってしまうので、「サブカル男子とサブカル女子の不器用な恋愛と別れ」みたいなことをテーマに据えていたんです。

──それで〈シャラメの映画〉〈渋谷シネマ〉というワードが歌詞にあるのですね。

いしわたり：あと、この二人はこだわりが強そうなので、きっと映画館でもどの席に座るか決まっていると思ったんです。なので普通に席を予約したら、隣同士になっていてもおかしくないなと（笑）。しかも混んでいる映画じゃなくて、空いているところで隣同士に偶然なってしまったらめちゃくちゃ気まずいだろうな、とか思いながら歌詞を書いていました。

寺嶋：それは気まずい（笑）！

──レコーディングの時は、どんなことを意識して歌いましたか？

寺嶋：まず、辛そうな感じや悲しそうな感じを出しすぎないように気をつけました。ボイトレの先生に教わったのですが、淡々と歌っているくらいの方が聴いている人が曲に気持ちを乗せやすい。アイドルっぽく歌おうと思うと、語尾をちょっとしゃくり上げたくなるところをなるべく抑えるように意識しています。

いしわたり：それはよくわかります。僕はよく「感情をしまう棚」という言い方をするのですが、棚としての作りがしっかりしていると、聴いている人は自分の感情を曲に預けやすいんです。逆に個性的な作りの棚だと、聴き手が感情をしまいにくいんですよね。なるべくフラットに、すっと歌っている曲には感情もすっとしまえる。おそらく歌い方と聴き手の受け取り方にはそういう関係性があるんです。

寺嶋：確かにそうですね。

いしわたり：例えばユーミンさんって、すごく平坦に歌うじゃないですか。彼女の棚はすごくおしゃれで綺麗に整えられているので、こちらの感情もすごく綺麗に収まるのでしょうね。捨てたいわけではない思い出を、ずっと大切に残しておけるというか。

寺嶋：そういえば、この曲を歌うにあたってユーミンさんの楽曲も参考にするように言われました。なるほど、そういうことだったのですね。

　例えば「結婚願望が止まらない」の歌詞に、〈友達がみんな持っているゲーム機を　自分も欲しい　みたいに結婚していくね〉と歌うところがありますよね。その2行だけで、友達を羨ましく思う気持ちとか、「私はみんなとは違うんだよな」みたいに距離を取りつつも、ちょっとやっかんでいる感情とか、全部が伝わってくるじゃないですか。それってすごいって歌うたびに思っているんです。私だったら多分、“羨ましいな、でも私は平気”みたいにストレートに書いてしまう気がするんですけど、そうじゃない切り取り方、表現の仕方はどうやって養ったらいいんでしょう？

いしわたり：さっき、「シティポップとインスタが似ている」と言ったみたいに、「これとこれは似ているな」みたいなことを、僕は普段からよく思うんですよ。一見、全く違うことの中に共通点を見つけるというか。そんなふうにある程度の法則が見えてくると、だんだんセンサーみたいなものが養われてくるんです。でもそれって、多かれ少なかれみんな普通にやっていることだと思うんですけど……どうなんでしょうね（笑）？

寺嶋：普通にやっていることなのかもしれないですけど、それをここまで的確に言語化できる方はそんなにいないんじゃないかと思います。

──さっきおっしゃっていた「感情をしまう棚」という喩えなど、まさにそうですよね。

寺嶋：本当に。あと、いしわたりさんはタイアップの曲も書かれていますよね。そういう時って、どのくらい主人公の気持ちなどに寄り添っていらっしゃるのですか？

いしわたり：そこはもう、ディレクターさんやアーティストさんのさじ加減によりますね。「今回は主人公にすごく寄せたいです」とか、「今回はあまり寄せたくないです」とか最初の分かれ道があって。もちろんアーティストにはそれまでの作品の流れもありますし、一概には言えないんですけど、個人的には台本を読み込んでその世界に寄せて歌詞を書くことはものすごく好きですね。

寺嶋：へえ！　それはどうしてですか？

いしわたり：「どんなことでも、自由に書いていいです」と言われるのって、自由なようで実は不自由なんです。どれを書いていいのか分からなくなってしまうんですよね。でもある程度の枠が決まっていると、その中を綺麗に埋めていきたくなるというか。その枠の中で、どこに焦点を当てればいいかも決めやすくなる。「不自由の中の自由」みたいな感じですかね。

寺嶋：例えばKing & Princeさんの「ツキヨミ」（ドラマ『クロサギ』主題歌）とか、作品を観ているのと同じくらい主人公の気持ちが伝わってくるんです。なんでいしわたりさんは、そんなことができるのだろう……主人公なのかな？　とか思ったりして。

いしわたり：そんなはずがない（笑）。

寺嶋：自分の気持ちを言語化するのだってすごく難しいのに、人の気持ち、しかもフィクションの世界の人の気持ちを書くのってどのくらい大変なのかなって思っていたんですけど、むしろ枠があるからこそ書きやすいのですね。勉強になります。

──いしわたりさんは、今後の寺嶋さんにどんなことを期待しますか？

いしわたり：最初にも言ったようにアイドルでソロ活動をしている人ってあまりいないし、「古風」というコンセプトも非常に珍しくユニークだと思うので、その唯一無二なスタイルを是非とも貫いていってほしいです。

　個人的には松井五郎さんが書く歌詞がすごく好きなんですよ。「確かに、古風な雰囲気が出ているな」って。なのでもっと聴きたいです。……なんて、他の作詞家をリコメンドしていいんだろうか（笑）。

寺嶋：（笑）。私は今、大学生の頃文学部に所属して、国語の勉強が好きで教員免許を取って……みたいな、過去に好きだったものとあまり関係がなさそうなアイドル活動をしているけど、でも活動の中でいしわたりさんや松井さんから素敵な歌詞をいただいたり、自分も言葉を発する立場にあったり、やってきたことが実はリンクする瞬間がすごく多くて。その中でも報われ度が高いのが、「（自分のための）歌詞をいただく」ことなんです。そのたびに「今までやってきたことが報われるな」「贅沢なことだな」といつも思っています。

サイン入りチェキプレゼント

寺嶋由芙のサイン入りチェキを2名様にプレゼント。応募要項は以下の通り。

応募方法

リアルサウンド公式Twitterか公式Instagramをフォロー＆本記事のツイート、または応募ツイートをRTしていただいた方の中から抽選でプレゼントいたします。当選者の方には、リアルサウンドTwitterアカウント、もしくはInstagramアカウントよりDMをお送りさせていただきます。
※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
※チェキはランダムでの発送となります。指定はできません。
※当該プレゼントは、応募者が第三者へ譲渡しないことが応募・当選の条件となります（転売、オークション・フリマアプリ出品含む）。譲渡が明らかになった場合、当選は取り消され賞品をお返しいただく場合がございます。 

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＜締切：2023年1月5日（木）＞

■リリース情報
『恋の後味』
2022年12月14日（水）発売

◇初回限定盤
¥4,500（税込）シングルCD＋DVD
＜CD収録曲＞
1. 恋の後味
2. 渋谷で5時
＜DVD＞
「寺嶋由芙生誕ワンマンライブ2022～わたしより張り切っている横顔に祝われながら夏がはじまる～ supported by JOYSOUND 」ライブ映像を収録

◇通常盤
¥1,500（税込）シングルCD
＜CD収録曲＞
1. 恋の後味
2. 渋谷で5時
3. 恋の後味 -Off Vocal-
4. 渋谷で5時 -Off Vocal-

各種音楽配信サービスで配信中
https://yufuterashima.lnk.to/aftertaste_of_love