アイドルが“恋愛禁止”とされる背景は? 移り変わる時代に問われるタレント/ファン双方の意識

 AKB48のエース・岡田奈々が俳優との交際を報じられ、謝罪と共に卒業を発表した。ファンのみならず、アイドルの恋愛禁止について議論が百出している。この問題を改めて根本から考えてみる。

なぜアイドルは“恋愛禁止”とされるのか?

 そもそも、なぜアイドルは恋愛禁止とされるのか? ビジネスとして考えれば、アイドルはファンにとって疑似恋愛の対象という側面を強く持ってきたからだ。恋人がいる相手をわざわざ好きになることは普通はない。アイドルが恋愛をしていないことは、大前提とされてきた。

 モーニング娘。では、2005年に矢口真里、2007年に藤本美貴が共にリーダーに就いてすぐ交際が発覚し、間を置かず自らの申し出という形で脱退している。リーダーとして示しが付かない面もあったにせよ、即刻の対処は恋愛禁止に厳格だったことがうかがえた。

 AKB48が“会いに行けるアイドル”を謳って2005年に結成され、CDに握手券を封入して複数買いを煽るビジネスモデルが確立されると、恋愛禁止の必要性はより高まった。

 ファンの“推し”への想いが強まるほど、CDを買ってくれる枚数は多くなり、直に売り上げが増える。嫌らしい言い方だが、ビジネスの理屈ではそうなる。逆に言えば、交際が発覚してファンの熱が下がれば、売り上げ減もまた直に数字に表れると危惧された。

 2012年には指原莉乃が交際報道から福岡のHKT48に移籍。翌年には峯岸みなみが交際発覚を受けて、自ら丸刈りにして謝罪動画を公開し騒動に。研究生への降格処分も受けている。

 2人とも後にスキャンダルをバラエティのネタに転化したが、同様の経緯からグループを去った中堅メンバーもいる。一方、そうしたことが報じられながら、本人も運営もスルーで活動を続ける人気メンバーもいた。

 今回の岡田奈々の件は、アイドルに明るくない人には、人気メンバーのスキャンダルのひとつと受け取られたかもしれないが、ファンの衝撃は過去にないほど大きい。彼女がグループきっての真面目さで知られていたからだ

 2017年の『選抜総選挙』では、壇上で結婚発表をしたメンバーがいたのを受け、「スキャンダルをネタに這い上がるメンバーが見られます。マネしていいとは絶対思わないし、まっすぐに頑張っている人が報われるようにグループを変えていきたいです」(※中略あり)とスピーチした。

 その岡田のスキャンダルは、AKB48ファンに牙城が崩れたような感覚をもたらした。こうした話と最も縁遠く思われていた岡田が恋愛するなら、もう誰も信じられない……という。

 とはいえ、アイドルということを抜きにすれば、25歳の女性が恋愛して咎められるのはおかしい話。批判は恋愛禁止ルールを前提に、それを破ったことに向けられている。

 だが、AKB48グループ総監督の向井地美音は「曖昧になっていた『恋愛禁止』というルールについて改めて考え直す時代が来たのだと思います」とツイートしつつ、翌日には「運営に確認を取ったところ『AKB48グループに恋愛禁止のルールはなく、メンバーそれぞれが自覚を持って活動することで成り立っている』とのことでした」と報告した。

 総合プロデュースを手掛けた秋元康も、10年前にラジオで「恋愛禁止と言ったことはない」と発言している。「アイドルを一生懸命やっていたら、そんな暇はないはず」との趣旨だった。

 それなら過去の処分は何だったのか? という話になるが、人権にも関わる“恋愛禁止”を表立ってルールにすることはできないのだろう。ビジネス的な利点からの暗黙の了解として、あえてファジーにされていたもの、というところだ。

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