いよいよ本作も終盤に差し掛かるが、ラスト前を務める「Tastes Like Pain」は、本作どころかWeezer全体のキャリアにおいても最もヘヴィな楽曲の一つだ。「SZNZ」シリーズ自体の着想源でもあり、過去2作ですっかりお馴染みとなったヴィヴァルディ「四季」から「冬」の第二楽章を引用し（そこは「秋」じゃないのかとツッコみたくなるが、それくらい寒さが辛いということなのだろう）、厳しい寒さに身震いする様子を表現した激しい旋律と呼応しながら壮絶なヘヴィネスを叩きつける演奏や、「自分が嫌いだ」という言葉を皮切りに、怒りを剥き出しにしながら思いつく限りの酷い言葉で自己嫌悪を吐き出していくリヴァースの鬼気迫る姿に圧倒される。冬が近づくにつれて、いよいよ限界を迎えつつある感情が、クラシックを大胆に取り入れたロックサウンドによってこれ以上ないほどに表現されていく。今のWeezerの真骨頂が、ここにある。

　そしていよいよ辿り着いた最終曲「Run, Raven, Run」は、かの名曲「Only in Dreams」に代表される、Weezerがここぞという場面で繰り出す「パワーポップ・オペラ」の最新版だ。約30年のキャリアにおいて今なお平均2～3分の楽曲タイムを守り続ける彼らが「5分超え」の楽曲を世に出すということは、相当に自信のある仕上がりであることを意味している。夜行列車に飛び乗り、ひたすらに逃避行を繰り広げるドラマティックな物語と、大胆にリズムを変えながら、それでいてしっかりと足元を確かめるかのように力強くパワーポップを響かせる演奏がシンクロし、やがて壮大で美しい景色が目の前に広がっていく。中世の時代や聖書、ヴィヴァルディなどを引用しながら絶望と愛情を描いてきた本作に相応しい、圧巻のエンディングだ。

　マニアックなファンであれば、この楽曲のある部分に聴き覚えがあるという人もいるのではないだろうか。実は、2016年の名作『Weezer (White Album)』制作時に生まれ、熱心なファンの間ではリリースが渇望されながらも長年に渡って音源化されることのなかった「Pacific Sunset」のフレーズが、クライマックスの夕暮れの場面を描くために使われているのだ。約6年の時を経て、遂にこの曲があるべき場所が見つかったのである。なんと美しい帰結だろうか。

　思えば、あまりにも普通すぎる佇まいでありながら、轟音と共にヘヴィな感情を吐き出していた1stアルバムの頃から、Weezerは相反する要素を一つの作品に共存させることで複雑な感情を繊細に描いてきた存在だった。持ち前のパワーポップの旨味を大事にしつつ、ニューウェイヴからの影響を色濃く反映させることでポップに突き抜けたダンスロックを鳴らしてみせた今作は、だからこそ、これまで以上に自身の内面に抱える孤独と愛情を描く上でベストなタイミングだったのだろう。あらゆる意味で突き抜けた今のWeezerの姿が、『SZNZ : Autumn / シーズンズ：オータム』には詰まっている。

　ただ、実はこれを書いている今でも、断定できずにいるポイントが一つある。それは、「Run, Raven, Run」で見た美しい夕暮れは、逃避行の果てに主人公が見た幻想だったのではないか、ということだ（「Pacific Sunset」の使い方はサンプリング的であり、本作を締めくくるのは「僕は祈り続けることしかできない／カラス、ああカラスよ」という逃避の言葉である）。いよいよシリーズ最終作であり、一年で最も寒い季節を描く『SZNZ : Winter / シーズンズ：ウィンター』はどのような結末を描くのだろうか。これまでの作品を聴き、物語の行方にも想いを馳せながら、楽しみに待ちたい。

※1：https://weezify.web.app/

■EP情報
Weezer
EP『SZNZ : Autumn / シーズンズ：オータム』
国内盤CD：2,200円（税込）
2022年11月23日（水）リリース
配信はこちら
＜収録曲＞
1. Can't Dance, Don't Ask Me / キャント・ダンス、ドント・アスク・ミー
2. Get Off On The Pain / ゲット・オフ・オン・ザ・ペイン
3. What Happens After You? /ホワット・ハプンズ・アフター・ユー
4. Francesca / フランチェスカ
5. Should She Stay or Should She Go / シュッド・シー・ステイ・オア・シュッド・シー・ゴー
6. Tastes Like Pain / テイスツ・ライク・ペイン
7. Run, Raven, Run / ラン、レイヴン、ラン

『SZNZ』の配信はこちら

Weezer アーティストサイト（Warner Music Japan）