大久保初夏、ジョン・リー・フッカーとの出会いから始まった音楽人生 ポップスを通して伝えるブルーズの魅力

魂の奥底から湧き上がってくるパワーがブルーズにはある

SHOKA OKUBO~Himawari~

ーーブルーズの本場、メンフィスでレコーディングしたこともあるんですよね?

大久保:ちょうどジョン・リー・フッカーの生誕100周年だった2017年に、『ブルーズ&ソウルマガジン』の企画を兼ねて行くことができたんです。もう、最高でしたね。空港を降りるといきなりBBキングの銅像が待ち構えているんですよ。「え、ここって天国かな?」って(笑)。メンフィス滞在中は、ジョン・リー・フッカーのお墓参りをしたりB.B.キングのミュージアムに行ったり、メンフィスにあるビールストリートへ繰り出したり……。どうせだったらレコーディングもやろうという話になって、アル・グリーンが拠点にしていたロイヤルスタジオへ行ってレコーディングもしました。

 とにかく街中を歩いているだけでブルーズが流れるし、地元の人たちの「音楽に対する敬意」もすごく強く感じられて。メンフィス出身のミュージシャンたちも、故郷の若者をフックアップさせる努力なども積極的に行われているんです。そういうのは日本にはないカルチャーだなと思ったりもしました。

ーー自分で歌おうと思ったのは?

大久保:マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフなど、私が好きなブルーズマンの楽曲はギターより「歌」に耳が持っていかれてたんですよね。彼らのように歌いたくて、真似をしてみたこともありました。もちろん思い通りには歌えず、小学生の頃は「どうして私は彼らみたいな低い声が出ないんだろう」なんて真剣に悩んでました(笑)。でも、その時の猛特訓のおかげもあり、いつの間にかかなり低い声が出せるようになって。憧れているボーカリストがジョン・リー・フッカー、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフですからね。そりゃ低い声にもなるなと。

ーー(笑)。そういうブルーズマンの楽曲が、今の時代に訴えかけるパワーはどこからきていると大久保さんは思いますか?

大久保:もう、完全に「人間力」ですね。人間としてのとてつもないパワーがあるからこそ、あんなにシンプルな構造のブルーズでも心にグッとくるんじゃないかと。もちろんそれは、黒人たちの辛い歴史から生み出されたパワーでもありますし、人前で演奏するだけの才能を持つ人が内包するパワーでもある。上辺だけではない、本当に魂の奥底から湧き上がってくるパワーがブルーズにはあると私は思っています。

ーーでは、この度リリースされる1st EP『太陽の歌』のテーマを教えてください。

大久保:今作は「再出発」という意味の「Re:start」をテーマとして掲げています。私はSHOKA OKUBO BLUES PROJECTという3ピースバンドを組んで、それで『FUJI ROCK FESTIVAL』(2014、2015年)に出演したり、全国ツアーを回ったりしていたのですが、最近ベースの芹田珠奈がアメリカに活動の拠点を移したり、ドラムの其原誠元も世界中を回っているようなプレイヤーなので、私もまずは自分一人での活動基盤を確立させないと、この先やっていけないと思ったんです。

 ちょうど先日SHOKA OKUBO BLUES PROJECTとしての音源をリリースしたばかりなので、ここで一旦の区切りをつけて「Re:start」しようという気持ちで今作に取り組みました。

ーー例えば「太陽の歌」では、〈当たり前だったものを失い 幸せとは何?問いかける どうか早くこんな世界線 終わってくれ〉と歌うなど、コロナ禍で多くを失ってしまった人たちの「Re:Start」も、本作のテーマにはあるのかなと思いました。

大久保:まさに。実際に曲を書いたりレコーディングしたりしている時はコロナ禍の只中だったので、「早くこういう状況を抜け出したい」という気持ちも強く働いていたと思います。どの曲も、最終的にポジティブな気持ちに反転できるようなことしか書いていない。ただ落ち込んで塞いでいるだけの曲は一つもないです。

ーー今回、全ての楽器を大久保さんが一人で演奏されたそうですね。

大久保:はい。ほとんどの作業を私と、信頼しているエンジニアさんの2人だけで行なっています。まず、私が自宅で作った打ち込みのデモ音源をスタジオへ持ち込み、そこに生のドラムやベースなどを差し替えていくというやり方でした。

ーーギターサウンドにも並々ならぬこだわりを感じます。

大久保:私が好きなギタリストはデレク・トラックス(The Allman Brothers Bandの最後のメンバー)なのですが、彼は余計なペダルエフェクターを使わず、ギターをアンプに直挿しなんですよ。とにかくぶっといギターサウンドなのですが、そういう説得力のあるサウンドを作るために、スタジオでアンプを鳴らしながら何度も試行錯誤してレコーディングしました。

ーーとはいえ、本作は古めかしいビンテージサウンドではないですよね。

大久保:そこは意識的です。例えばサブスクのプレイリストに本作をポンと投げ入れたとしても、違和感なく聴いてもらえるようなサウンドにはしたかったんです。これまでバンド名義で出した音源に関しては、どちらかというとルーツ色の強いサウンドを意識していたのですが、さっきも言ったように今回のテーマは「Re:Start」なので、これまでみんなに見てもらったことのない側面を前面に出しています。

ーーそういう意味では「Pinky Ring」の歌詞も、かなりチャレンジングですよね。〈おままごとは大嫌い 変わり者と指刺され 女の子らしくない〉〈らしさなんて気にしない〉と歌いつつも、〈しまい込んだ心 君はそっと優しく開けてくるのどうして〉と、切ない恋心を綴ってもいます。

大久保:おっしゃる通りです。「こういう私もいるよ?」ということも伝えたくて、今までに書いたことのないタイプの楽曲になりました。この曲も含めてメッセージ性は強くなっていると思います。コロナ禍で感じていたことを、自分自身に向けても書いているし、同じように辛い思いをしているミュージシャンやスタッフに向けても書いているので。例えば行きつけの飲み屋さんやライブハウスなどが、コロナ禍で急になくなってしまったことへの喪失感って、きっと誰もが経験したと思うし、いつまでも忘れられないと思うんです。そういう気持ちを背負ったまま曲を書いているので、そういう意味でも今までの作品とは違っていると思います。

 歌い方も、今回かなり変えているんですよ。「楽曲の方向性的にこっちの方が合うな?」とか本当に細かいところまでいろいろ考えながら作っているので、今までの私の作品を知っている人は驚くと思います。「こんなところもあるんだね」と面白がってもらえたら嬉しいですし、初めて私の曲を聴く人に対しても、とっつきやすい作風になったと思います。

ーー今作には「ギタリスト」として、よりも「ボーカリスト」としての自分に重きを置いているわけですね。

大久保:大久保初夏としてこれから活動していく上で、「何が一番大事か?」と考えた時、やはり私は「歌」が大事だと改めて思ったんです。歴代のブルーズマンが持つ「歌のパワー」に影響を受けたという出自もありますし。これからも歌やメロディは大切にしていきたいですね。

■リリース情報
1st EP『太陽の歌』
7月20日(水)リリース
配信はこちら

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