2ndアルバム『カルト・リーダー・タクティクス』インタビュー

ポール・ドレイパーが導き出した人生における結論とは? “物語仕立て”の新作に潜む日本との繋がり

 元Mansunの中心人物、ポール・ドレイパーの最新ソロアルバム『カルト・リーダー・タクティクス』が、2022年1月28日にリリースされた。これは2017年に発表した『スプーキー・アクション』以来約4年半ぶり、ソロ2作目のアルバムとなる。

 ポールが率いていたMansunは、英チェスターを拠点にした4人組バンド。インディロックとニューウェイヴ/シンセポップを融合させた耽美な1作目『アタック・オブ・ザ・グレイ・ランターン』が全英1位に輝いた1997年は、ブリットポップの華やかなムーブメントが爛熟期を迎えた頃であった。だが、鮮烈なデビューで頂点を極めたにもかかわらず、生来の反骨心を発揮したのか、翌年にはそれまでのスタイルをかなぐり捨て、先鋭的なギターロックの野心作『SIX』を発表。生き急ぐようにシーンを駆け抜けた末、2003年にバンドは解散を発表する。その後スタジオワークに軸足を移したポールは、プロデューサー業を中心に他アーティストへの楽曲提供やコラボレーションなどでキャリアを重ねていた。

 そのポールがソロアーティストとして復活を果たした前作は、彼の前線復帰を待ち望んでいた新旧世代のUKロックファンだけでなく、プログレッシヴロック専門誌からも高い評価を獲得。2019年3月には約19年ぶりとなる来日公演がアコースティックライブという形で実現し、大盛況のうちに幕を閉じている。

 来日時、「次作も4分の3は曲が出来上がっているんだ」と語っていたものの、その完成と発表までには紆余曲折があったようだ。遂にリリースが叶ったこの最新作について、ポールに話を聞いた。(Sumi Imai) 

今作はエモーショナルなものではなく、コンセプチュアルな作品にしたかった

 3年前、新作の構想について尋ねた際、「次のアルバムはバンドサウンドを活かした、よりヘヴィなロック寄りの作品になるかも」「それと同時にアレンジにはアナログシンセも加えて、一種のエレクトロアートロック的なものを思い描いている」と語っていたポール。実際、今回届けられた『カルト・リーダー・タクティクス』は、ギターとシンセとストリングスが流麗に溶け合っていた『アタック〜』の遺伝子が全体の底流に受け継がれているようにも感じられると同時に、ダイナミックな多様性を備え合わせた完成度の高いアルバムに仕上がっている。

 そんな今作の発表に至るまで、新型コロナ感染拡大の影響をどのように受けてきたのか。まずそれについて尋ねると、「リリースが遅れたのもそのせいなんだ。でもロックダウン中に、修正を加えたり歌詞の方向性を変えた曲もいくつかあるし、新曲を作ったり曲順を変えたりと、アルバムの内容もそれによって変わったよ」との答えが返ってきた。

「日本に行った時に話していた例の“4分の3”に含まれる曲は、今作には8曲収録(アルバム本編は全11曲。日本盤のみアコースティックのボーナストラック3曲追加)されていて、それらは主に『スプーキー・アクション』のツアー中に数カ月間かけて書いたものなんだ。そのあと2019年の末から2020年の初めにかけ、6週間を費やしてその全部を録音したんだよ」

 ポールはその時、本作で共同プロデューサーを務めたP-ダブ(ポール'P-Dub'ウォルトン)と共有しているロンドン近郊のスタジオにバンドメンバーを集め、レコーディング作業を進めていた。しかし2020年春、新型コロナの感染拡大の影響により、英国では日本よりもはるかに厳しい行動制限を課した罰則を伴うロックダウンが発動。そこには“同居人以外と自宅の外で集まることを禁じる”という規制が含まれていたため、通常の形での制作が続行不可能となってしまう。

「ロックダウンが発令された時点では、アルバムとして完成させるには曲数が若干不足していてね。それで僕の自宅にあるホームスタジオで新たに追加の3曲を書き上げてレコーディングした。その3つがいずれもエレクトロニック系なのは、そういう経緯もあってのことなんだ」

 ギター、ベース、キーボードといった基本的な生楽器を一通りこなすマルチ楽器奏者であると同時に、Mansun時代からシンセを操るトラックメイカーでもあったポールにとって、ドラムマシンとシンセを駆使した自宅でのトラック制作は必要性に迫られたものであったと同時に、結果としてアルバムに多彩さをもたらすプラス要因にもなったようだ。

 冒頭のタイトル曲と次の「インターナショナル」がヘヴィにうねったかと思えば、「トーキング・ビハインド・マイ・バック」から放たれるのは、よりストレートなバンドサウンド系ロック。その一方、事前情報の予想からするとやや意外だった純正80年代エレポップ調の「エヴリワン・ビカムズ・ア・プロブレム・イヴェンチュアリー」などエレクトロニック色の濃いトラックは、前述の通りロックダウン中に作られた新曲だ。だが、それらが全体の中に自然と溶け込んでいるのは、シンセや効果音、そして音の質感が、各曲の共通項として溶剤の役割を果たしているからである。その折衷性が頂点に達しているのが、きらびやかなシンセロックナンバー「ユーヴ・ゴット・ノー・ライフ・スキルズ、ベイビー!」だ。

Paul Draper - You've Got No Life Skills, Baby! (Official Video)

 オルタナプログレッシヴロックにエレクトロニックな要素を加えた前作を土台に、「ソロキャリアの出発点で踏み出した道を、さらに先へと進みたい」との考えで取り組んだ本作は、『アタック〜』と四半世紀を挟み地続きではあるものの、懐古的な意味でのMansunへの回帰ではなく、“本来ポール・ドレイパーが最も得意とするところ”に立ち、それを現代において可能な方法、かつ最も活かす形で進化させた作品だと言ってよいのではないだろうか。そしてそのどれもが、ドレイパー節とも言える独特の捻りを効かせた、耳に焼きついて離れない極上ポップのメロディに彩られている。

 サウンドや歌詞における前作との違いについて深掘りしていく前に聞いておきたかったのが、本作のコンパクトさについて。前作では5、6分の曲が中心で、中には7分近いものもあったが、今回はほとんどの曲が3分台から4分前後にまとめられている。

 「そう、長尺曲もあった前作とは違って、今回はもう少し簡潔なアルバムにしたいと考えていたんだ」と、この変化が意識的なものだったことを明かすポール。確かに今回のアルバムは本編11曲を合計しても40分余り。彼の念頭にあったのは「子供の頃に自分が聞いていた、昔のアナログレコードのような作品」だった。

 かつて音楽鑑賞の主要媒体がCDだった頃は、その最大収録時間である74分にとにかく目一杯曲を詰め込む作り手が少なくなかった。しかしデジタル時代の到来によってそのような手法が意味を失い、2010年代以降はアルバムという概念すら希薄に。一方で近年の温故知新によってアナログレコードが徐々に復権している中、コロナ禍による“巣ごもり”の影響もあって、英米ではここ1、2年でレコードの売り上げがCDを上回る現象も起きている。そのおかげで、盤を物理的に手でひっくり返す過程や手間を楽しむ“A面/B面”という概念が現代にも復活。本作も、アナログ盤LPのA面に当たる冒頭から6曲目まで、一つの流れに乗ったように切れ目なく一気に味わえるのが特徴だ。

 音作りで今回さらに目指していたのが、「前作ではローファイだったサウンドプロダクションを、よりクリアで広がりのあるものにしたいと考えて、意識的なハイファイ志向に取り組んだ」という点だ。

 前作では、音の面での粗削りなローファイさだけでなく、歌詞の面でも自らの生身の姿を反映させていたポール。10年以上にわたって書き溜めていた楽曲には、「バンド解散の後遺症と、それによって僕がいかに精神的に傷ついたか」や、それまで関わってきた人々に対する思いなど、赤裸々な心情が綴られていた。だが今作は一転して全体が“物語仕立て”となっており、「今回は前作のようなエモーショナルな作品ではなく、よりコンセプチュアルな作品にしたかった」と説明している。

関連記事